カルロス・ゴーン被告の国外逃亡に東京地検がコメント 朝日新聞は100回読め

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 東京地方検察庁は1月5日、次席検事名義で会社法違反(特別背任罪)等で起訴されたカルロス・ゴーン被告が出国したことについて、コメントを発表した。東京地検は「自らの犯罪に対する刑罰から逃れようとしたというにすぎず、その行為が正当化される余地はない」と厳しく断じている。

■東京地検による異例のコメント

東京地検が発したコメント

 東京地検がこのような長文のコメントを出すことは、僕個人で言えば記憶にない。異例であることは間違いないであろう。

 コメントの中で、ゴーン被告の出国に関し「国外逃亡」と断じていることは注目される。客観的には逃亡であると誰しもが思っているだろうが、地検としては保釈の指定条件に違反したということで、逃亡という言葉を用いたのであろう。

 全体として法的手続きに何らの瑕疵もないことを強調し、被告人の人権にも配慮していることに言及している。これは刑事訴訟法の目的である「実体的真実の発見及び適正手続の保障」を強く意識したものと言える。

■朝日新聞はコメントから自らの誤り・過ちを読み取れ

 もう一点、注目したいのは罪証隠滅を防ぐために勾留が必要であったことを強調している部分である。「当初の勾留期間中に妻などを介して事件関係者に対する働きかけを企図していたことから、公正かつ適正に刑事手続きを進める上で、被告人ゴーンを勾留することは必要やむを得ないものであった」としている。

 罪証隠滅は前述の実体的真実の発見を著しく阻害するものであることは言うまでもない。ところが同被告の1回目の保釈直後、2019年3月7日付けの朝日新聞電子版(社説)は以下のように書いてている。「長く自由を奪うことで精神的に追いつめ、争う意欲を失わせる手段として、捜査当局が勾留手続きを利用してきたのは紛れもない事実だ。人質司法と呼ばれるこうした悪弊は、もっと早く是正されてしかるべきだった。」。朝日新聞は自らの主張の不適切さを、東京地検のコメントから読み取らなければならない。その意味では「100回読め」と言いたい。

 今回の逃亡については日本の司法制度に対する挑戦であり、断じて容認できない。発表された全文を書き写したので、以下に示す。コメントから滲み出る東京地検の怒りを、一国民として肌で感じたい。なお、読みやすいように適宜、見出しを入れた。

■ゴーン被告逃亡に関する東京地検コメント全文

令和2年1月5日

東京地方検察庁

次席検事

被告人カルロス・ゴーン・ビシャラの国外逃亡について(コメント)

 今般、被告人カルロス・ゴーン・ビシャラが、保釈の指定条件として、逃げ隠れしてはならない、海外渡航をしてはならないと定められていたにもかかわらず、正規の手続きを経ないで出国し、逃亡したことは、我が国の司法手続きを殊更に無視したものであるとともに、犯罪に当たり得る行為であって、誠に遺憾である。

 我が国の憲法及び刑事訴訟法においては、例えば、被疑者の勾留は、厳格な司法審査を経て法定の期間に限って許されるなど、個人の基本的人権を保障しつつ、事案の真相を明らかにするために、適正な手続きが定められている。また、我が国においては、全ての被告人に、公平な裁判所による迅速な公開裁判を受ける権利を保障しており、検察官によって有罪であることにつき合理的な疑いをいれない程度の立証がなされない限り、被告人を有罪としてはならないこととされている。そして、検察においても、法廷において合理的な疑いを超えて立証できると判断した場合に限り、被疑者を起訴している。その結果として、我が国においては、有罪率が高くなってはいるものの、裁判所は、被告人側にも十分な主張立証をさせた上で、独立した立場から、公判に提出された証拠に基づき、合理的な疑いを超えて有罪が立証されたかを厳密に判断しており、公正な裁判が行われていることに疑いはないと確信している。

■被告人ゴーンの権利を十分に保障しつつ捜査・公判手続き

 本件において、検察は、法に定められた適正手続きを厳格に履行し、被告人ゴーンの権利を十分に保障しつつ、捜査・公判手続きを進めてきたものである。被告人ゴーンは、豊富な資金力と多数の海外拠点を持ち、逃亡が容易であったこと、国内外で多様な人脈と大きな影響力を持ち、事件関係者などに働きかけ、罪証隠滅する現実的な危険性があったこと、裁判官、裁判所も保釈に関する決定中で認定しているとおり、当初の勾留期間中に妻などを介して事件関係者に対する働きかけを企図していたことから、公正かつ適正に刑事手続きを進める上で、被告人ゴーンを勾留することは必要やむを得ないものであった。

 かかる事情が存在したにもかかわらず、被告人ゴーンは、公判審理に向けた主張と証拠の整理を適切かつ円滑に行うためには、弁護人らとの間で十分な打ち合わせの機会を設ける必要性が高いなどの理由で保釈を許可され、昨年4月25日に保釈された後は、弁護人らと自由に連絡し、公判準備を行うことが可能な状態にあったことに加え、検察は、公正かつ適正な刑事裁判を実現すべく、法に定められた手続きに基づき、被告人ゴーンの弁護人に証拠を開示するなどの公判活動を行ってきており、被告人の権利が十分に保障されていたことは明らかである。

■正当化の余地のない行為

 このような状況の下で、被告人ゴーンが、必ず出頭するとの誓約を自ら破り、国外に逃亡したのは、我が国の裁判所による審判に服することを嫌い、自らの犯罪に対する刑罰から逃れようとしたというにすぎず、その行為が正当化される余地はない。

 検察においては、関係機関と連携して、迅速かつ適正に捜査を行い、被告人ゴーンの逃亡の経緯等を明らかにし、適切に対処する所存である。

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