中居氏嵌めた”acts to traffic”の罠 報告書に疑義

松田 隆
@東京 Tokyo
元タレントの中居正広氏の女性とのトラブルに端を発するフジテレビ問題に関する第三者委員会の報告書には意図的と思われる誤訳がなされている。多くの弁護士が関わって完成させた報告書、しかも中居氏の行為を性暴力と認定する根拠となる文章の引用部分での誤訳だけに、その公正さに疑義が残る。
acts to trafficを売春!?
中居正広氏が元フジテレビアナウンサーである女性Aとの間で2023年6月2日、自宅マンションで性的行為があったが、一連のフジテレビ問題を調査した第三者委員会(以下、フジ第三者委)は、その行為を「性暴力」と事実認定し、「重大な人権侵害」と評価した。
「性暴力」という認定は世界保健機構(WHO)の「World Report on Violence and Health」(2002年)における「性暴力」の定義に基づいている(以上、フジ第三者委による中居氏の「性暴力」認定に疑問など参照)。
この紹介されたWHOの定義に問題がある。報告書では「『性暴力(Sexual Violence)』について以下のとおり定義している」として、和訳を続けている。
「強制力を用いたあらゆる性的な行為、性的な行為を求める試み、望まない性的な発言や誘い、売春、その他個人の性に向けられた行為をいい、被害者との関係性を問わず、家庭や職場を含むあらゆる環境で起こり得るものである。…」
…から後は補足部分であって直接の引用ではないので割愛した。
この引用部分は、上記の「World Report on Violence and Health」(2002年)に英文で記されている。
「Sexual violence is defined as:any sexual act, attempt to obtain a sexual act, unwanted sexual comments or advances, or acts to traffic, or otherwise directed, against a person’s sexuality using coercion, by any person regardless of their relationship to the victim, in any setting, including but not limited to home and work.」(同レポートp147)
注目していただきたいのは原文の「acts to traffic」の部分が報告書では「売春」と訳されていることである。これは多くの人が誤訳と感じるのではないか。
さらにもう1点、「強制力を用いた」の部分、これは「using coercion」の部分に相当するが、報告書では「強制力を用いたあらゆる性的な行為」と、「あらゆる性的な行為」にのみかかっているように見える。しかし、原文からすれば、それ以後の行為にも掛かっている。そうした点を考慮し、原文を忠実に和訳するとしたら、以下のようになるはずである。①から⑤は便宜的に筆者が付した。
「①いかなる性的行為、②性的行為を得ようとする試み、③望まない性的な発言や誘い、④人身取引等の行為、⑤その他であって、これらは強制を用いて個人のセクシュアリティに対して行われ、誰であっても被害者との関係にかかわらず、家庭や職場など、あらゆる場所において行われる可能性がある。」
問題は中居氏が行ったとする行為は①から⑤のどれに該当したとフジ第三者委が判断したのかである。
意図的な誤訳の可能性
acts to trafficとは人身売買や性的な目的での移動・取引といったものを指し、「人身取引等の行為」などと訳される。もちろん、その中には(強制された)売春も含まれると思われるが、それだけではない広範囲に渡る。
一方、売春は通常「prostitution」という言葉が用いられる。実際にフジ第三者委が引用したWHOのレポートでもprostitutionという単語は18回登場する。もし、性暴力の定義にprostitutionが使われていたら「売春」と訳すべきであるが、acts to trafficに売春の訳をあてるのは本来の意味を非常に狭くするもので、人身取引(人身売買)と売春をイコールととらえるのは無理がある。両者の関係は人身取引(人身売買)が売春を包含する関係にあると言っていい。
このような誤訳と言っていい翻訳がなぜ、行われたのか。十分な語学力も備えているであろう優秀な弁護士が集まりながら、単純な誤訳をするはずがない。しかも、性暴力と認定するために基準となる定義であるから、他の部分よりも正確に和訳しなければならない。
そのような事情を考えれば意図的にacts to trafficを売春と訳していたのは疑いない。中居氏の行為を性暴力と認定するために持ち出した物差しの和訳を本来とは異なるものにしているのであるから、基本的に中居氏の行為を性暴力とするための変更と考えていい。
結論から申せば、女性Aが中居氏の自宅マンションで行った行為は「強制された売春に相当する」という認定を可能にするために、acts to trafficを売春と和訳したものと考えられる。
強制された売春と見るのか
フジ第三者委が中居氏の行為を性暴力と認定したのは、(1)守秘義務を負う前の女性AのCX関係者への被害申告(本事案における具体性のある行為態様が含まれる)など、5点ほど挙げている(報告書p26-27)。要は核心部分は守秘義務の壁に阻まれたが、周辺の事情から判断して認定したというものである。
その周辺の事情とは、「少なくとも中居氏は性的行為をする際に暴力は用いていなかったのは間違いなく、さらに同意がなかったとする女性Aとは異なる受け止め方をしていた、即ち『女性Aの同意を得て性的行為をしたと認識している』」(参照・フジ第三者委による中居氏の「性暴力」認定に疑問)という両者の認識の違いを基にした行為の事実認定と評価である。
女性Aは中居氏の自宅マンションを訪れたのは「最終的に同氏所有のマンションで2人で食事することに同意したが、この同意は、業務上の関係において 2 人で食事するという限度での同意であって、それ以上のものではない。加えて、この同意が真意に基づくものであったとはいえない。」(報告書p52)と認定されている。
ところが、実際は両者は性的行為へと発展した。その段階で女性Aは同意があるような振る舞いをしたものと思われる。であるからこそ、中居氏は同意があると感じたのであろう。ところが女性Aの同意は、「行かないと仕事に差し障るだろうと思って行った。」(報告書p29)のであり、性的行為への同意はなかった。性的行為における同意と見えるような外観があったとしても、それは真意に基づかず、「ここで断れば、仕事に差し障る」と考えた上でのやむを得ない選択であったというのであろう。
そのような態様で行われた行為は、中居氏に性的行為を受け入れることと「これまで通り仕事がもらえる」「干されないですむ」という対価との交換という見方ができる。対価を与えることを断られると「仕事がもらえない」のであるから、断れない。これはまさに「強制された売春」と見ることができる。
acts to traffic翻訳の真意
このようにフジ第三者委が論理を構築してWHOの定義に当てはめた時に、acts to trafficを「人身取引等の行為」と直訳したら、どうなるか。実質的に強制された売春であるから性暴力であるとの認定をしたのに、WHOの定義にはそのような態様のものは具体的には含まれていない。そのためusing coercion(強制力を用いたこと)によるacts to trafficには、同じくusing coercionを用いたprostitutionも含まれるのであるから売春と置き換えてもいいと解釈し、「売春」と意図的に誤訳したのではないか。
もう1つ理由があるとすれば「人身取引等の行為」とした場合に、そのような問題は発展途上国など経済的に豊かではなく、かつ、人権がほとんど守られていない国の出来事であり、日本とは関係がないというイメージをもたれることをおそれた可能性はある。WHOの基準を用いたことで、多くの人に(日本に当てはめるには無理がある)と思われれば、報告書そのものの信頼性が揺らぐという懸念があったと考えられる。
また、「using coercion」(強制力を用いて)という表現を「あらゆる性的な行為」にしか掛からないようにしてあり、売春には掛かっていないように見えるが、冒頭の「強制力を用いて」は売春にも掛かっているように読めると強弁することも不可能ではない。
もし、「大久保公園の前に佇む女性が行っている自発的に売春している女性を買春することは性暴力か」と言われた場合、「強制力を用いては売春にも掛かっており、強制性が認められない大久保公園の売春目的の女性とは事情が異なる」と言い逃れる可能性はある。あるいは「大久保公園の女性は広い意味で生きていくために売春を社会から強要されている状態で、実態は強制された売春であるから、買春は性暴力である」と言うこともできなくはない。要は後から理由はいくらでも付けられるから、売春も性暴力であるかのように書いておけという程度の思いであったように思える。
フジ第三者委に公開質問
フジ第三者委がNGOのヒューマンライツ・ナウに近い考え方をして事実認定するのはいいが、それであれば、せめてWHOの定義は直訳して意味を変えない状態で当てはめるのが第三者委としての立場ではないのか。その上で女性Aの行為が強制された売春であると判断することが妥当なのか否か、多くの国民がジャッジすると思う。
結局、中居氏が守秘義務の解除に応じなかったために刑事責任があるという認定ができなくなり、そこでWHOの定義を持ち出して強制的な売春の事例であるから、性暴力と認めるという方向に認定できると考えたように思う。そのために(acts to trafficを売春と訳しておけ)というようなことがあったとは思いたくないが、そのように判断されかねない報告書の杜撰さ。
400ページ近い報告書のそのような細かい部分まで見る人はいないであろうという認識で、事実認定しやすいように誤訳を掲載したと疑われても仕方がない。このような方法で中居氏に「性暴力をふるう卑劣な男」とレッテルを貼ることが基本的人権を守るべき弁護士のやることなのか疑問に思う。
せっかくなので、ここでフジ第三者委に公開質問をしておこう。
【質問】
Q01:WHOのレポートにある性暴力(Sexual Violence)の定義の中で、「acts to traffic」を「売春」と和訳したのはなぜか
Q02:中居氏による性暴力とされた行為は、報告書にある(ア)あらゆる性的な行為、(イ)性的な行為を求める試み、(ウ)望まない性的な発言や誘い、(エ)売春、(オ)その他個人の性に向けられた行為、いずれに該当すると判断したのか
Q03:「強制力を用いた」という形容は、あらゆる性的な行為以外にも掛かるのか
当サイトにまで文書で回答を寄せていただければ、こちらで公開することも吝かではない。回答しないとは思うが。
英語も法律も苦手なので少しむずかしい記事でした。
第三者委員会から公開質問への回答があることを期待します。
素晴らしい分析ですね!!当職も原文に当たってみます!我が国の刑法、民法等の法律を持ち出さず、なぜかWHOの2002年の旧基準(法的拘束力はない)をあえて持ち出してくるのか不思議でしたし、かなり疑問がありましたが、こちらの記事を読んで、その背景や、そもそもの法的基準の曖昧さ、なぜかかる基準を用いてまで、本来あえて認定する必要のなかった事象について、第三者委員会が触れたのか等に腹落ち致しました!
第三者委員会に質問したい事があります!一般人の質問も受けてくれたら良いのに。因みに聞きたい事は、性暴力の認定の仕方です。第三者委員会は複数の弁護士がメンバーですが、性暴力には当たらないとの見解を示した人は居なかったのか?意見が割れた場合、最終的には多数決で決めたのか?
WHOの基準に当てはめたとしても、第三者の公平な視点で検証したら、違う意見が出ても不思議はないと思うのですが、どうなのでしょうか。
国民の多くの方が疑問を抱いても、全く取り入れられない中、こうして声を上げて下さる方がいらっしゃる事は大変ありがたいです。
報告書に記載の、メールのやり取りの内容にしても、男性側のメールはそのまま報告書に載せているのに、それに対する女性側の返答が載せられていません。
削除しているなら、復活させてきちんと載せて欲しいと願います。
前後のやり取りによって、明らかになる事があるかと思います。
Threadsを見て頂ければ、分かると思いますが、多くの方が願っている事ですので、どうぞ宜しくお願い致します。
松田先生、素晴らしい見解と検証に感謝します。
会見第一声で「中居氏による性暴力と認定」とインパクトある言葉で世間の関心を中居氏に向けさせ、フジテレビに矛先が向かないように操作しているように思いました。
WHO基準の性暴力の知識が無い多くの人は、強制的に強姦をしたと決めつけ、酷いバッシングと誹謗中傷が中居さんに浴びせられています。
また、メール公開は中居さん側だけで相手のメールは一切公開されていない事にも私たちは納得がいきません。
誘いのメールに対して、「2人だけでもいいよ、隠れ家的なお店がいいな」と女性側が積極的に返信したという情報も出ていますが、2人のやり取りを報告書に載せていないのは相手に不都合があるからでは?
又、事件当日の翌日は元気に仕事、泣きながら報告は6日、翌7日には元気に寿司ざんまいの動画を相手女性はインスタなどに載せています。
それに事件後も2人のメールのやり取りはずっと続いていたと2人とも述べています。
入院した時も中居さんにお金の要求とも思えるメールを送っています。
これは憶測ですが(私1人の勝手な憶測ではなく、多くの人が思っている事です)、当日は同意であったが、後日中居さんに交際結婚の意志が無い事を知り、あの時は不同意だったと言い始めたのではないかと思います。
これらすべて2人のメールのやり取りを全部見ればわかると思います。
いずれにしても逮捕も事情聴取もされていない中居さんを犯罪者呼ばわりするのは人権侵害であり、これには第三者委員会にも重大な責任があります。
私はじめ何人もフジテレビに抗議のメールを送りましたし、松田先生と同じ意見をおっしゃっていた著名人も数名おられましたが、セカンドレイプだとバッシングされていました。
松田先生のような方が大きな声を上げて下さり、再度公平な調査がされる事を望みます。
どうぞこれからも宜しくお願いいたします。
”acts to traffic”は結局その前にあったホテルのパーティーやバーベキューの会に纏わる
B氏からの半ば強制的な業務連絡に起因しているのじゃないですか?
それを悪用した加害者の嘘のシナリオにまんまと陥れられたと見ても不自然では無いと思いますが。
>>加害者の嘘のシナリオにまんまと陥れられた
それで人身売買(acts to traffic)が成立? 仮にそうだとして、acts to trafficを売春と和訳したのはなぜでしょうか。説明になっていないと思います。