横浜市教委「傍聴人締め出し」の無法

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 横浜市教育委員会が横浜地裁の公判で職員を動員して傍聴席を独占し、一般の人が傍聴できないようにしていたことが21日、明らかになった。被害者側の要請を受けた対応であったことが後の記者会見で説明されたが、憲法で定められた裁判の公開の原則を歪めかねない行為を組織ぐるみで実行していたことは強い非難に値する。

◾️被害者側からの要請で開始

笑いながら(?)会見する横浜市教委担当者(ABEMA画面から)

 横浜市教委の発表によると、横浜地裁での教員によるわいせつ事件の公判に職員に指示をして傍聴席につかせたのは2019年、2023年、2024年の4度で、1回あたり最大50名を動員した。そのような行為を行ったのは「児童生徒に関するプライバシー情報への配慮を目的」としたものであったとした。

 村上謙介教職員人事部長名で「公開の裁判で教育委員会事務局職員の傍聴により、一般の方の傍聴の機会が損なわれたことについて、大変申し訳なく思っています。今後は行わないことを徹底いたします。」というコメントが出されている(横浜市・記者発表資料令和6年5月21日)。

 同日実施された記者会見では担当者が「被害者からの要請で始めたことであり、教員を庇う意図はない」とした(ANN newsCH・教員の性犯罪の裁判で職員50人動員 一般傍聴者“閉め出し” 横浜市教委が謝罪)。

 翌22日の横浜市議会の常任委員会で下田康晴教育長は「これはあってはならないことであり、行き過ぎた行動であると大変申し訳なく思っています」と話し、さらに市議からの質問に対して「裁判所等に配慮する方法について意見を言ったり、相談をするということがあっても、おそらくやるべき立場ではないのにもかかわらず、外の声を聞いて動いているということ自体を間違いと思えずに動いたということが一番」と説明した(tvk News Link・横浜市教委 裁判傍聴に大量の職員…教育長「行き過ぎた行動」と謝罪)。

◾️裁判の公開原則

 一連の横浜市教委の行為は極めて悪質である。そもそも日本国憲法は裁判の公開を定めている。

【日本国憲法】

第82条 裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。

2 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。

 少し込み入った話になるが、裁判の公開原則は「対審および判決が公開されるとは、誰でも傍聴ができる状態で行われるということを意味する」(基本講義憲法 市川正人 新世社 p339)ものであって、「各人が裁判所に対して傍聴することを権利として要求できることまでを認めたものでない」(最高裁大法廷判決平成1・3・8)とされている。そのため、市教委の組織ぐるみの行為が直ちに国民の権利を侵害したかと言われると、一概にはそうとも言えない部分はある。

 とはいえ、多くの傍聴人が予想されるために事前に抽選で傍聴人を決める公判ではなく、事実上先着順で傍聴人が決まる公判で傍聴席以上の人数を動員して席を占有した行為は前出の「誰でも傍聴ができる状態」の作出を妨害したのは明らか。憲法82条1項の精神を踏み躙るものと言っていい。これは公務員の憲法尊重擁護義務(憲法99条)からして、許されざる行為と言える。

【日本国憲法】

第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

 市教委は被害者の児童サイドからの要請でそのような行為に至ったと説明をしているが、要請があった時点で、裁判公開の原則を説明して理解を求めるべき。また、憲法82条2項は対審の非公開についても定めており、合法的な手段を用いて非公開とする努力をすればいい。前出の下田教育長の「裁判所等に配慮する方法について意見を言ったり、相談をするということがあっても」というのはその部分を指しているのは間違いない。それをせずに当時の幹部が職員を動員して他者を排除する手法を用いることに疑問を感じなかったとしたら教育行政に携わる資格などない。

 こうした重大な問題を孕んでいるにもかかわらず、21日の記者会見に出てきた担当者はニヤニヤと笑いながら話しているように見えた。外見からは重大な問題を引き起こしたことへの反省は皆無。そのような態度がいかに横浜市民の感情を逆撫でするか理解できないのか不思議に思う。

 そもそも教育長、教育委員ともに「人格が高潔」であることが任命の条件とされており(地方教育行政の組織及び運営に関する法律4条1項、2項)、同市HPにもその旨が明記されている(横浜市・教育委員会制度 教育長及び教育委員)。人格が高潔な人々の指示で憲法の趣旨を踏み躙る行為が行われていたわけで、一体、何の冗談かと思わされる。

 動員された職員も同罪。公務員試験のために憲法は勉強しているであろうから、「そのような行為は憲法82条1項の精神を踏み躙るものであって許されない」程度のことは言えるはず。そうせずに唯々諾々と憲法の精神に反する行為を行っていたことは真剣に反省されなければならない。

◾️市教委はこのレベルか…

 個人的な見解で申せば(教育委員会はこのレベル)といった諦めに似た思いがする。当サイトでは札幌市の元教師の免職処分取消訴訟を扱っており、その中で札幌市教委に関する問題はたびたび出てくる(札幌・元教師の戦い 免職処分取消訴訟)。

下田康晴教育長(tvk画面から)

 たとえば、免職された鈴木浩氏(仮名)が処分前に市教委の事情聴取を受けたが、その際に録音の許可を求められたので了解したが、裁判になって「その時の録音を出せ」と言ったところ、過去4回の事情聴取のうち3回は録音したが、提出を求められた回だけ録音はないと堂々と虚偽の事実を述べたとされる(「黒塗り報告書」を謝罪 札幌市教育長の悪評)。

 各自治体の教育委員会を十把一絡げに論ずるわけにはいかないが、少なくとも札幌市と横浜市において教育行政を担う組織が、組織ぐるみで許されない行為をする事態が発生したと言っていい。教育行政を担う組織だから、少なくとも倫理に反する行為はしないと思ったら大間違いである。

 横浜市の事件は今後、弁護士を交えて経緯を検証するという(tvk News Link・横浜市教委 裁判傍聴に大量の職員…教育長「行き過ぎた行動」と謝罪)。この行為に出張手当等も支給されているというから、その返還が求められて然るべきで、そもそも業務として大量の職員を動員しているから、その分の人件費も市に返還させるべき性質のものと言える。曖昧に済ませずに、徹底的な責任追及がなされることを望む。

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