「黒塗り報告書」を謝罪 札幌市教育長の悪評

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 札幌市で中1の女子生徒がいじめを苦に自殺した問題で市教委が黒塗りばかりの調査報告書を公表、遺族からの声を受けて謝罪した檜田英樹教育長は、以前から感心できない評判も聞こえてくる人物であった。2021年1月に全く身に覚えのないワイセツな行為をしたとされた元教師の鈴木浩氏(仮名)は、檜田氏の下で懲戒免職とされている。その経過を聞くと、現教育長の信じ難い言動が明らかになった。

◾️この人なら、このレベル

檜田英樹教育長(北海道ニュースUHB画面から)

 当サイトの「免職教師の叫び」(連載全39回)や、特集の「札幌・元教師の戦い 免職処分取消訴訟」で 扱っている元教師の鈴木浩氏は現在59歳。長年中学校の教師をしていたが、2021年1月、かつての中学校での教え子である写真家の石田郁子氏に対して、学校内などでわいせつな行為をしたとして懲戒免職された。

 これに対して、全くの”冤罪”であるとして処分の取消しを求める訴訟を2023年8月30日付けで提起した。同年11月17日に第1回口頭弁論が開かれ、現在、札幌地裁に係属中である(免職の元教師法廷へ「絶対に納得できない」(前))。

 この鈴木氏が免職された時の札幌市の教育次長で、直後に教育長になったのが、いじめで自殺した中学生の調査報告書をほとんど黒塗りにして公表したことを謝罪した檜田氏である(FNNプライムオンライン・【中1女子生徒自殺】“壮絶ないじめ”明らかに―黒塗りで隠された報告書再公表 「ねぇねぇ、首つって死んで」 札幌市教委が8人処分『慎重になりすぎた』)。鈴木氏と檜田氏の関わりはそれだけでない。実は女子生徒(石田郁子氏)が性的被害を受けたとして市教委に鈴木氏の免職を求めたことで、市教委が鈴木氏に対して事情聴取を実施している。その時の責任者である当時の教職担当部長が檜田氏であった。

 今回、黒塗りの調査報告書で謝罪する檜田氏をテレビ画面を通じて見た鈴木氏は「この事件は報道されたものを見ると本当に悲惨です。その調査報告書の多くを黒塗りして公表する意味が分かりません。後から謝罪し、修正したものを公表するなら最初から公表すればいい話です。檜田氏が謝っているのをテレビで見ましたが、『この人なら、このレベルだろうな』というのが正直な感想です」と話す。

 鈴木氏がこのように話すのも、檜田氏の前言を簡単に翻す、明らかな虚偽を申し述べる言動に振り回され、結果的に自身が懲戒免職にされたという思いゆえである。

 前述の事情聴取は4度実施され、2016年6月24日の第3回に檜田氏が出席した。それまでは課長以下だけの聞き取りだったものが、この時は処分を決定できるとされる部長の出席で、鈴木氏も緊張して臨んだという。

 「市教委側が『いつものように録音させていただいてよろしいですか』と聞くので、『はい、分かりました』と答えました。そして、檜田部長はこう言ったのです。『石田氏と鈴木先生の話は対立している。あなたは間違いなく石田氏へのワイセツ行為はしていないのだね。これは時効はないのだから、正直に話すように。わいせつ行為がなければ懲戒処分は行わない、一度出した決定は変えない。7月には直接、石田氏に会って、処分はしないことを伝えてきます』。それを聞いて(真実を話してきて良かった。石田の妄想に騙されず、しっかりと判断していただける部長で良かった)と思いました。」

 しかし、この後、檜田氏は態度を一変させる。

◾️東京高裁の判決後の変わり身

石田郁子氏(Brut.画面から)

 石田氏はその後、札幌市と鈴木氏に対して東京地裁に損害賠償請求の訴えを提起する。これに対して、札幌市と鈴木氏は共同被告として(石田氏の申し出は虚偽であり、認められない)と全面的に争った。結果、2019年8月23日、一審は20年の除斥期間の経過により損害賠償請求権が消滅しているために棄却し、石田氏がわいせつな行為を強要され、それを当時は恋愛と誤解させられていたという主張も一蹴した。

 ところが、控訴審(東京高裁2020年12月15日判決)では訴えそのものは原審と同じ理由で棄却したもの、石田氏の性的被害を受けたという主張を認めたのである。これは既判力のない判決理由中の判断。訴えそのものは棄却されているため、鈴木氏は上訴してその判断の部分を争うことができず、また、石田氏も上告しなかっために判決は確定した。1、2審を通じて、鈴木氏も石田氏も尋問は行われず、鈴木氏に至っては石田氏の主張に対する反証の機会もないまま、「お前はやっている」と決めつけられたのである。

 つまり、高裁判決により事案は「鈴木氏はわいせつな行為をしたが、昔のことなので損害賠償の支払いはしなくていい」という形で決着したことに他ならない。これは市教委、とりわけ事情聴取をして、わいせつな行為はなかったと判断した当時の檜田氏の立場を非常に厳しいものにしたことは想像に難くない。

 年が明けた2021年1月5日に判決が確定。2日後の7日に市教委は10日以内に判決に対する考えを陳述書として提出するように、鈴木氏に求めた。1週間後の14日に陳述書を提出した鈴木氏だが、その2週間後の28日に懲戒免職処分とされたのである。

 この時点で檜田氏は教育次長であり、4か月後の5月25日付けで教育長に昇進する(DOTSU-NET 日刊教育版・札幌市教委 5月25日付人事 教育長に檜田英樹次長 次長は竹村真一氏起用)。自らの教職担当部長時代のミスと評価される判断を、鈴木氏を懲戒免職にすることで帳消しにして教育長への昇進の条件を整えたと穿ったものの見方をする者がいても不思議はない。

◾️「本当に最低、最悪」

 一方、鈴木氏は2021年3月1日、地方公務員法49条の2第1項の規定に基づき、札幌市人事委員会に免職処分の取消しの裁決を求める審査請求を行なった。その中で、前述の檜田部長(当時)の発言について同年5月25日の反論書の中で処分しないと明言した事実を指摘。奇しくも、檜田氏が教育長に昇進した日に提出されている。

 これに対して市教委は7月19日付けの再答弁書で「『わいせつ行為がなければ懲戒処分は行わない、一度出した決定は変えない。7月には私が直接、石田氏に会って、処分はしないことを伝えてきます。』との発言をした事実はない。」と全面的に否定した。

 これには鈴木氏は怒りの色を隠せない。

 「『処分はしない』と言ってないし、そう思われるような発言もしていないと言ってます。また『石田さんには処分はしないと言ったけど、鈴木さんにはそういったことは言ってない』とも言ってます。」

 当事者の2人に全く違うことを教職担当部長が言うとも思えず、いかにも苦しい言い分である。それならば事情聴取は録音しているのであるから、それを聴き直して判断すればいい。ところが、市教委は考えられないような言い訳をした。

 「市教委側は4回事情聴取して録音していたものの、第3回の2016年6月24日の時の録音だけはありませんと言っています。私は事情聴取の時に録音をしますからというのを聞いていますし、録音も了解もしています。それなのにその時だけない、と。本当に最低、最悪です。」

 ちなみにその時に市教委から出された事情聴取の概要なるものでは、鈴木氏が言ったことも聞いたこともない虚偽が並べ立てられていたという。「ウソを言う、そして隠蔽体質と感じます」と、鈴木氏はもはや怒りを通り越して呆れた様子であった。

◾️いつからこんな組織に…

札幌市教委の入ったビル(鈴木浩氏提供)

 こうした檜田氏のやり方を見てきた鈴木氏にとって、今回の黒塗り事件での対応も想像の範囲内であったのは間違いない。

 いじめにより自殺に追い込まれた女子中学生がいて、その真相究明、再発防止のために必要な貴重な資料である調査報告書の公表よりも、いじめた側のプライバシーの保護を優先する信じ難い価値判断、そして遺族の反発、メディアからの批判を受けて、あっさりと手のひらを返す信念のなさ。こうした姿勢が鈴木氏の事案でも、ものの見事に現れているように思う。冒頭で示した鈴木氏の『この人なら、このレベルだろうな』という檜田氏評も納得できるというものである。

 鈴木氏は「いじめ問題で被害者のご遺族の方たちも教育委員会を信じていたけど、最後は結局、教育委員会に裏切られた気持ちではないでしょうか。いじめの被害者に寄り添う気持ちがなかったと言われても仕方がないと思います。」と黒塗り事件について語る。

 鈴木氏はため息混じりに語り、締め括った。

 「教育委員会はいつからこんなふうになってしまったのでしょう。年齢が近い教員と『二、三十年前の教育委員会とは全く違う』と話したことがあります。以前は教員や保護者のことも考え、教育をどうすればいいのかという人が教育委員会にいましたが、今はそういう人はいるのかもしれませんが、目につきません。良くない組織になってしまったと、そんな話をしました。」

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