『中居正広氏に感謝』日テレ新社長発言の意味

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 日本テレビ放送網の福田博之社長が17日、就任後初の会見に臨み、引退した元タレントの中居正広氏への感謝の言葉を述べた。メディアによる「中居バッシング」とも呼べる状況が収束したとは言えない中、前向きな言葉を公の場で発言した点は注目される。そこに隠されているであろう意味を考えてみると、中居氏が復帰した場合には受け入れる可能性を示唆しているように思える。

◾️中居氏に「感謝の気持ち」

写真はイメージ

 福田社長はこの日、社長として初の定例会見に臨んだ。フジテレビの問題については「メディア全体の問題で、日テレとしても人ごとではない」とし、フジテレビ以外の民放キー局の定例会見で、トップがこの問題について初めて言及した(日本経済新聞電子版・日テレ社長、フジテレビ問題は「人ごとではない」)。日本テレビとしてもフジの問題は他人事ではなく、重く受け止めている姿勢を示した。

 また、中居氏については昨年末に始まった週刊誌の報道後の自社の動きについて説明があった。1月6日に日本テレビ側からの依頼で中居氏からの説明の場を設け、「すでに守秘義務があるので事案の細かいことは話せない」「ご迷惑おかけしてすみません」などの話があったとした。これを受け、翌7日放送の「ザ!世界仰天ニュース」では出演シーンをカットして、15日に降板を発表している。この対応については「状況を把握したところで出演を見送ること、降板という形にした。間違ってなかったんじゃないかと思います」(同社長)と説明。

 その上で中居氏に対しては「こういう形でもう引退されたわけですから、番組の出演っていうのはかなうものでもないですし、もう1度出てほしいということをご本人にお伝えするつもりはないですが、長い間頑張っていただきましたので、これに対する感謝の気持ちというのはそのままストレートにお伝えしたい」と述べた(以上、スポーツ報知電子版・日テレ福田博之社長、引退の中居正広氏へ「長い間頑張っていただいた。感謝の気持ちはストレートにお伝えしたい」)。

 中居氏への「感謝の気持ち」という前向きな表現は、昨年末から続く中居バッシングの状況にあっては、かなり大胆な発言と言える。当然のようにSNS等ではネガティブな反応の声も多数寄せられた。

 ここで社長発言の前段、「こういう形でもう引退されたわけですから、番組の出演っていうのはかなうものでもないですし、もう1度出てほしいということをご本人にお伝えするつもりはないですが…」と述べた部分に注目していただきたい。

 福田社長の発言からは「もう1度出てほしい」という考えが全くないとは言い切れない。しかし、本人が引退してしまったため、それを伝えるつもりはないとしているだけである。「出てほしくない」と「出てほしいけれど伝えない」では意味が大きく異なる。これが恣意的な解釈だとしても、少なくとも日本テレビとして完全に拒絶する立場ではないと受け取れる。こうした含みを持たせた発言は、中居氏へのある種のメッセージとも考えられる。

◾️福田社長発言の4つの理由

 日本経済新聞電子版によれば、これがフジ以外のキー局トップの初めてのフジテレビ問題への言及であるという。そもそも3月末に第三者委員会から具体的な提言を盛り込んだ報告書が提出される予定で、それを待ってから感謝の思いを明らかにするのがトップとしては無難な選択。当然、同社長もそのような考えもあったと思われる。それをあえてこのタイミングで言ったことは中居氏と、多くの視聴者に対するメッセージととらえるべきであろう。

 このタイミングで発言した理由としては、以下の点が考えられる。

(1)中居氏による報告など一連の動きのタイミングが適切であった

(2)トラブルは示談で解決している

(3)中居氏が刑事責任を問われることはないとの確証がつかめた

(4)スポンサーのCM撤退の原因は中居氏ではない

事案を時系列で追う

 順に見ていこう。(1)に関しては、「中居正広氏をめぐる動き」の表を見ていただきたい。この問題の第一報が出るのが昨年12月19日発売の女性セブンである。中居氏はその2日前の17日に雑誌の取材を受けたことを日本テレビに報告している。タレントを起用する側としてはこれは非常に大きい。週刊誌報道で事実を知ってから対応するのではないため、事前に対策を立てられる。

 さらに1月6日に事情説明をしているが、これも翌7日に「ザ!世界仰天ニュース」の出演があった。自らの出演シーンをカットされて放送された後に一般の人々に向けてコメントを発表。このコメントは「芸能活動を続けられることになった」などの表現で炎上する結果となったが、それが放送後であったことは日本テレビとしてはありがたい話ではある。

 さらに21日に再び自身の出演部分がカットされた「ザ!世界仰天ニュース」が放送され、その2日後の23日に引退発表である。これは、フジテレビが22日に『だれかtoなかい』の終了を発表し、レギュラー番組がすべて消滅することが決定した翌日というタイミングであり、テレビ局に自らの「爪痕」や「残滓」がない状態、きれいな状態にしての発表。長年、テレビで活躍してきたタレントらしい、仕事先に迷惑をかけないタイミングを選んでいると評価できる。

 こうしたトラブルにおける対応は、テレビ局の目には、仕事先に迷惑がかからないことを最優先に考えて自身の引き際を決めていると映るのではないか。立つ鳥跡を濁さずを実践しているように見えたに違いない。

◾️CM撤退はフジテレビが原因

 (2)の「トラブルは示談で解決」については既に明らかになっているとおり。トラブルの内容は守秘義務から明らかにされていないが、両者の間で解決済みであることは、これから新たな問題が生じることはないことを示す。

 そして(3)の刑事責任に問われることはないという確証である。これは実際にはトラブルの内容が分からないため、筆者の想像に過ぎないが、示談で解決したということは、刑事告訴しないという条件が設定されているのは明らか。それなしに中居氏側が納得して示談書にサインをすることなどあり得ない。

 もちろん、中居氏が2023年6月と言われる自宅での会食において、女性に対して強制性交等(当時、現在は不同意性交等)があった場合には、同罪は非親告罪なので刑事告訴なしに起訴できるが、それは講学上可能であるということに過ぎない。実際は密室での出来事では告訴や被害届などが出されない限り、捜査当局は事実を把握できない。また、告訴しても捜査機関が受理することはそれほど多くない。そもそも告訴とは「犯罪により害を被った者」(刑事訴訟法230条)がすることができる。申告した案件で犯罪が成立しないと捜査機関が判断すれば、告訴の要件を満たさないとして受理しない。

 日本テレビではトラブルの内容は守秘義務があるために伝えられなかったとしているが、それでも示談が成立していることや、上記の告訴をめぐる実情などから、刑事責任を追及されることはないと判断したのではないか。

 最後に(4)であるが、多くのスポンサーがCMを差替えたのはフジテレビの対応に対する失望と信頼の喪失が原因で、時期的にもそれは明らかである。CM撤退は中居氏ではなく、フジテレビの問題であるという認識であるのは間違いない。それなら、中居氏を庇う発言をしても日本テレビからCMが撤退することはないと判断しても不思議はない。

◾️社長談話が暗に示す内容

上は週刊文春2025年1月23日号

 以上のような理由から福田社長は中居氏に感謝の思いを口にすることになったと思われる。世間では中居氏が女性に対して性加害をしたとあたかも性犯罪者のように語る向きも見られるが、日本テレビの解釈は、世間の認識とは異なるものである可能性が高い。

 さらに言えば、中居氏が辞めたのは世論の過剰な反応が原因で、辞めなければならない理由はないと考えているのかもしれない。

 中居氏は既に芸能界から引退したが、再デビューしないことまで確定しているわけではない。福田社長の発言には、復帰の可能性を完全に否定しないニュアンスも含まれている。それは、現時点では控えめな姿勢を取るものの、今後の展開次第では日本テレビとして柔軟な対応を取る余地を残しているとも受け取れる。

    "『中居正広氏に感謝』日テレ新社長発言の意味"に2件のコメントがあります

    1. 匿名 より:

      『再デビューしないことまで確定しているわけではない』 ???
      彼は何も説明責任を果たしてないですよね?
      それを果たさない限り、スポンサーや世間はそれを許さないですよ。
      不祥事を起こして何の説明もないまま自主退職したら、普通は二度と戻らず別の仕事探すんだよ。
      答えたくないから引退したの。
      それが全てバイバイ
      芸能界はどんだけ身内に激甘なんだよ
      だから芸能人もテレビ業界人も世間と認識がズレてんだよ

      1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

        >>『再デビューしないことまで確定しているわけではない』 ???
        確定していません。なぜ、?がつくのか、理解に苦しみます。確定しているのであれば、その根拠を示してください。
        
>>彼は何も説明責任を果たしてないですよね?
        示談で守秘義務があるため、説明できないとしています。説明責任よりも当事者である相手との関係を優先した結果でしょう。説明責任を果たすことで新たな人権侵害が生じる可能性を考えれば止むを得ないですし、そもそも守秘義務を遵守する中で最低限の内容をコメントで発しています。
        
>>それを果たさない限り、スポンサーや世間はそれを許さないですよ。
        スポンサーはフジテレビの会見直後にCMの差し替えに出ました。スポンサーはフジテレビの対応に不信感を抱いたもので、中居氏の説明責任とCM差替えの因果関係は明らかになっていません。それをなぜ、スポンサーは許さないと言えるのでしょうか。
        
>>答えたくないから引退したの。
        根拠なき断定、あなたの妄想と思われます。

        もう少し論理的に考えましょう。そちらのコメントの内容は新たな人権侵害を伴う可能性を秘めており、また、罵詈雑言に近い表現であると認めます。内容、表現ともこのレベルのコメントであれば、今後は公開しないので、ご注意ください。

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