フジ第三者委による中居氏の「性暴力」認定に疑問

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 フジテレビ問題に関する第三者委員会の報告書が公開されて4日が経過した。報告書は元タレントの中居正広氏によって同局の元アナウンサーである女性Aさんに対して「性暴力が行われ、重大な人権侵害が発生したと認定」と厳しい表現で断罪するが、事実認定や評価について違和感を覚える部分は少なくない。特に中居氏による行為を「性暴力」とした認定は実態を正確に反映せず、中居氏を必要以上に悪者にしていると評価されかねない。

◾️第三者委員会は検察官+裁判官

写真はイメージ

 予め断っておくが、当サイトは中居正広氏や同氏が行ったとされる行為を必要以上に正当化したり、擁護する気もなければ、被害者とされる女性Aさんを貶める気もない。特に女性Aさんは事件後、フラッシュバックに苦しみ、発熱、痛み、蕁麻疹、光過敏などの症状が出て、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されている。本当にお気の毒であり、事件の傷が癒えて、新たな人生を前向きに生きていかれることを心から願っている。

 その上で今回の文章を書くのは、フジテレビの問題で多くの人が納得できる事実認定に基づく法的な評価がされるべきであるという観点から見た時に、第三者委員会(以下、第三者委)の報告書公表版(以下、報告書)はそれに十分に応えていないと感じたからである。それなのに報告書が絶対的真理であるかのように扱われている現状に疑問を抱き、筆を執った。

 そもそも、第三者委とは「企業や組織(以下、「企業等」という)において、犯罪行為、法令違反、社会的非難を招くような不正・不適切な行為等(以下、「不祥事」という)が発生した場合及び発生が疑われる場合において、企業等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施した上で、専門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止策等を提言するタイプの委員会」とされる。

 その事実認定の方法は、「調査に基づく事実認定の権限は第三者委員会のみに属する。」とされている(以上、日本弁護士連合会・企業等不祥事における第三者委員会ガイドラインから)。つまり、弁護士が調査して、その結果を踏まえて弁護士が事実認定をするのである。

 これを刑事裁判でいえば「調査(捜査)をする検察官が、事実認定もする」ことになり、検察官が裁判官を兼ねるに等しい。しかも、本物の検察官と違って捜査権限がなく、調査(捜査)が不完全なまま、事実認定しなければならないこともある。さらに、事実認定や評価を行う際に、調査対象を弁護する立場の者がいない。事実認定そのものが恣意的に行われ、その評価は弁護士の思想信条に大きく左右されかねない。それなのに当事者は内容に不満でも上訴する仕組みがない。

 もちろん、完璧に近い調査を行い、妥当な事実認定、それに基づく評価がなされる場合が多いとは思う。しかし、今回に関しては聞き取り調査に応じなかった者もおり、かつ、肝心の2023年6月2日、中居氏のマンションで女性Aとの間で発生した事実については守秘義務が解除されず、中居氏・女性Aから、どのようなことが起きたのか証言を得られていない。核心部分の当事者双方の証言がないにも関わらず「性暴力が行われ、重大な人権侵害が発生したと認定した」(報告書p6)のである。

◾️中居正広氏のお詫びは無視された?

 中居氏と女性Aの証言が得られない中、どのように事実認定をしたのか。「当委員会は『2023年6月2日に女性Aが中居氏のマンションの部屋に入ってから退室するまでの事実』及び『示談契約の内容』については、女性A及び中居氏へのヒアリング以外の調査方法、すなわちCX関係者のヒアリング及び関係資料から得た証拠に基づき認定した。」とある。さらに「女性Aの人権及びプライバシーを尊重し、女性Aから同意が得られた範囲で調査報告書に事実を記載した。」とされている(報告書p26)。

 ここで関係資料の中で重要な部分を見てみよう。まず、1月9日に中居氏が出したお詫びである。そこで注目したいのは「 このトラブルにおいて、一部報道にあるような手を上げる等の暴力は一切ございません。」と明確に暴力を否定している(のんびりなかい 中居正広・お詫び)。報道を否定する形となったのは守秘義務との関係であるが、この部分は事実認定において重要な役割を果たすのは疑いない。

 さらに、報告書の中で、女性Aから中居氏に7月11日に送られたショートメッセージで「本事案について自分の意に沿わないことであったこと、そのとき泣いていたこと、怖かったこと」を伝えている(報告書p35)。

 中居氏が暴力を使って反抗を著しく困難にするような方法で性的行為を行ったとしたら、女性Aがわざわざ「本事案について自分の意に沿わないことであったこと」を言う必要などない。「あの時は本意ではなかったんです」とわざわざ言うということは、(その時は同意があったように見えたかもしれないけど、そうではなかったのですよ)と言っているに等しい。同じように泣いていたことをわざわざ言ったのは、泣いているようには見えなかったことを認めているようなものである。

 さらに「G氏(筆者注・編成局長)は…港社長及び大多専務に対して…中居氏は女性Aの認識とは異なる受け止め方をしていることを報告した。」(報告書p42)とある。

 以上の点から判断するならば、少なくとも中居氏は性的行為をする際に暴力は用いていなかったのは間違いなく、さらに同意がなかったとする女性Aとは異なる受け止め方をしていた、即ち「女性Aの同意を得て性的行為をしたと認識している」と考えるべきであろう。

◾️暴力はなかったと認定すべき事案

 なお、第三者委は事実認定にあたって「CX関係者のヒアリング」も用いていることを明らかにしている。しかし、それは以前にも書いた刑事訴訟法上の伝聞証拠に過ぎず、その信頼性は高くなく、刑事訴訟であれば原則、証拠から排除される(参照・冷静になろう中居正広氏案件 伝聞証拠と守秘義務)。

 女性AがCX関係者に「中居正広氏に同意なき性行為をされた」と話すとしたら、それは同意がなかったように話すであろう。その真偽を確認しようとしても当該CX関係者は「そう聞きました」としか言えず、女性Aに聞いても「守秘義務があるので言えません」となる。それをそのまま事実として認定するとしたら、もはや公平公正な事実認定とは言えない。

 以上の事実を考えれば「性的行為に暴力は用いられなかった」と事実認定するのは当然。その上で、女性Aは立場上、断りにくく目に見えた抵抗をせずに性的行為に応じ、中居氏は女性Aが同意していると思い込んで性的行為を求めたとの認定が妥当と思われる。

 これを法的に評価すれば、女性Aは同意がなかったから不同意性交もしくは不同意わいせつ(事案があったのは現行刑法改正前のため、強制性交、準強制性交、もしくは強制わいせつ、準強制わいせつ)であると主張するのかもしれないが、中居氏は同意していたと誤信していたのであるから、犯罪の故意がないため罰せられることはなく、犯罪は成立しない(刑法38条1項)。

 もし、中居氏に責任があるとすれば、女性Aが同意があると誤信したことに過失があるとして、不法行為責任(民法709条)を負う程度。ところが、第三者委が出した結論は「性暴力が行われ、重大な人権侵害が発生した」である。女性Aが重篤な状態になったのは非常に不幸なことであるが、そのことが直ちに刑事責任を発生させるものではないし、過失の度合いが強くなるというものでもない。以上から、第三者委の事実認定と評価は公平公正とは言えないと筆者は思う。

◾️WHOの定義を持ち出す不思議

 それでは第三者委はどのように「性暴力」と認定したのか。ちなみに刑法には「性暴力」などという単語は出てこない。この「性暴力」について報告書は以下のように説明する。

 「強制力を用いたあらゆる性的な行為、性的な行為を求める試み、望まない性的な発言や誘い、売春、その他個人の性に向けられた行為をいい、被害者との関係性を問わず、家庭や職場を含むあらゆる環境で起こり得るものである。また、この定義における『強制力』とは、有形力に限らず、心理的な威圧、ゆすり、その他脅しが含まれるもので、その強制力の程度は問題とならない。」(報告書p27)

 これは世界保健機構(WHO)の「World Report on Violence and Health」(2002年)で用いられている表現と紹介し、「『性暴力』には『同意のない性的な行為』が広く含まれており」と続けている。

 中居氏は女性Aと同意のない性的行為を行っているから「性暴力」を行ったのだと言っているのである。前述のように中居氏は「手を上げる等の暴力は一切ございません。」とお詫びで表明しているが、第三者委は、そうした暴力がなかったことはおそらく認めざるを得なかったが、WHOの定義からすれば「性暴力はあった」と言える、と気付いたのであろう。その上で「当委員会は、性暴力を重大な人権侵害行為の一つと認識している。」と続け、「性暴力が行われ、重大な人権侵害が発生した」と結論づけている。

 正確に表現するなら、第三者委の事実認定は「中居氏は暴力は用いていないが、性暴力は行った」という、一般には理解不能なものであろう。

◾️最初から結論ありき

 前述のWHOの性暴力の定義を読んでいただければわかるが、その範囲は極めて広範である。定義に従えば「売春」も性暴力である。夜、大久保公園に行けば売春目的の女性が多くいるのは公知の事実。男性が売春婦と話をまとめてホテルで性行為を行った場合、男性は性暴力を行ったことになる。売春は売春防止法3条で「何人も、売春をし、又はその相手方となつてはならない。」と禁止されているが、男性だけが性暴力を行ったと非難されるのである。

 付け加えるなら「望まない性的な発言」も性暴力である。たとえば、会社の同僚の女性のヒップを見て「元気な赤ちゃんが産めそうだね」などと言おうものなら、その瞬間に性暴力をふるう男性とされる。「おめでたと聞きましたが、良かったですね」と言ったら、性暴力と取られる可能性はある。

 第三者委も弁護士なら、事実認定に海外の機関が定めた定義に当てはめずに、日本の法令に当てはめて言うべきではないのか。そうであれば、前述のように「性的行為の際には暴力は用いられなかった。女性Aの同意はなかったが、中居氏は同意があると誤信した。そのため刑事責任は負わないが、誤信するという過失に基づく不法行為が行われた」と認定すればいい。それ以上でも以下でもない。

 それをわざわざ外国の法律でもない定義を持ち出して「性暴力」「重大な人権侵害」と断ずるのは、最初から結論ありき、中居氏を性暴力を行う卑劣な人間と断じたかったからと邪推されても仕方がない。第三者委員会もその点はさすがにまずいと思ったのか、性暴力については内閣府男女共同参画局ホームページ「性犯罪・性暴力とは」を引き合いに出しているが、これもそもそも法令ではない。

 さらに、福岡県の条例に基づく「性暴力根絶に向けた対応指針」における「性暴力」の概念を持ち出しているが、事案は都内で発生したもの。なぜ、無関係な福岡県の条例に基づく指針を持ち出すのか理解に苦しむ。

週刊文春2025年1月23日号から

 報告書はこの性暴力の広範な定義を持ち出し、そして、それを重大な人権侵害と位置付けたことで、中居氏とフジテレビを叩く内容となっている。多くの人は、メディアまでもが、ここまで細かく中身を見ずに「性暴力が行われ、重大な人権侵害が発生したと認定」という文言に飛びつく。

 こうして中居氏は卑劣な性暴力をふるう者にされてしまったのである。これをどうやって納得しろと言うのか。少なくとも筆者は中居氏の女性Aとの間の出来事に関する事実認定と評価には全く納得できない。

 そうであれば、中居氏は守秘義務の解除に応じればよかったのではないか。誰しもがそう思うであろう。その点は別稿で論じたい。

    "フジ第三者委による中居氏の「性暴力」認定に疑問"に7件のコメントがあります

    1. 匿名 より:

      WHOの性的暴力の定義は2019年に新たなリポートが出ており公式には2019年の定義が採用されています。なのに何故2002年の定義を用いたのか?更にこの報告書には他の社員等によるセクハラも報告されています。2002年の定義を採用するならセクハラも性的暴力ではないのでしょうか?
      また第三者委員会のメンバーはフジの顧問弁護士やA子さんの代理人弁護士が理事として所属する団体(ヒューマンライツナウ)の顧問やメンバーで構成されています。報告書の格付けメンバーも同じ団体(ヒューマンライツナウ)の理事長やメンバーで構成されてます。これは第三者と言えるのでしょうか?公正さは微塵もありません。

      1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

        不同意性交罪の創設を目指した人たち、Me too運動など、思い切り胡散臭いというイメージはあります。

        伊藤詩織さん、石田郁子さんらに関して取材し、記事を書いてきた身としては(いつものやり口だな)という感想です。

      2. 匿名 より:

        ビックリです‼
        マスコミやジャーナリストの誰もそれを追及しないのは何故なんでしょうか?

        A子さんの代理人弁護士が理事として所属する団体のメンバーが第三者委員会だなんて、確実にA子さん寄りになるじゃないですか⁉

        定義も最新版ではなく、性暴力に当てはまる年度のものをわざわざ持ってきたってことですか?悪質すぎないですか?
        それは絶対に報道しなくてはイケない事ですよね⁉ジャーナリズムはないのでしょうか??

        A子さんは完璧に守られて、示談で終わってた話で捕まった訳でもない中居くんの人権やプライバシーはそこまで無視されていいものなの?って不思議に感じてたけど、そんなカラクリがあったのなら、そういう結果になりますよね…
        性暴力って言葉も、無理矢理または暴力を伴った性行為があったのだと世間が誤解して叩くことを想定して、わざとその言葉を使ったんだろうな…

        なんだか中居くんが可哀想…

        そもそも第三者委員会ってフジテレビ問題を分析して、原因や対応の問題点を調べるのが目的じゃなかったですか?
        被害があったか無かったか関係なく、被害を訴えてきた人に対する対応について追及するだけで良かったはず‼
        ゴシップ記事のような暴露は必要なかったのでは?

        中居くんに厳しい報告書を出すことで、自分達の評価をあげ、団体の理事でA子さんの代理人弁護士の株も上がり、フジテレビの対応の悪さを薄める姑息なやり方…

    2. 匿名 より:

      フジテレビが被害者ではなく中居さんを擁護したことで、第三者委員会から二次加害認定されていましたが、貴方も性暴力者の擁護ばかりして、被害者を苦しめるとそのうち、二次加害で起訴されますよ。

      1. 匿名 より:

        あらら

    3. 匿名 より:

       報告書をみていると、中居氏に関しては、手続(民事的)と結果(刑事的)がアンバランスであるように感じました。
       また、報告書からはよく分かりませんが、両者合意の上で守秘義務を解除した場合、中居氏が支払ったであろう示談金は、中居氏に返されるのでしょうか。
       そして、中居氏が守秘義務解除に合意して、自分の認識を主張したところで、報告書には、「女性Aの人権及びプライバシーを尊重し、女性Aから同意が得られた範囲で」(公表版、26頁)しか、記載されなかったかもしれません。
       今の報告書でも、お二人のやり取りの内容やメール原文の挙げ方は、女性Aのみの認識や、委員会が決めたストーリーに沿うものを選んで記載しているようにも感じられます。
       中居氏からすれば、自分の認識を話したところで、報告書にそれが記載されるかどうか分からず、他方で「女性Aから同意が得られた」ストーリーのみ記載され、それを踏まえて、マスコミには、今以上に面白おかしくセンセーショナルに報道され、また、商売にされることも、予想されたと思います。
       すると、守秘義務解除に合意した場合の中居氏側のメリットとしては、何が考えられただろう、と考えてしまいます。

    4. 匿名 より:

      確かに第3者委員会の件に関しては本当に第3者?という疑問符が付きます。これに関して指摘する人に対して同業者の弁護士等から狭い業界だからよくある事だとか23人もの人が入ってるからあり得ないなどまるでプロが出した意見を素人の一般人がケチを付けるなという風に聞こえる。
      本来こういう疑問を抱いても良いのにそれを許さないのは言論封殺では?

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