吉野家「生娘シャブ漬け」の取締役解任

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 吉野家ホールディングス(代表取締役社長・河村泰貴)は19日、女性蔑視の発言をした執行役員・伊東正明氏(49)の解任を発表した。子会社の株式会社吉野家の取締役も同様に解任した。「生娘(きむすめ)」「シャブ漬け」など、早稲田大学での講座で不適切な発言をしたことが原因で、異例のスピード決着となった。

■到底許容することの出来ない言動

吉野家HDの河村泰貴社長(2017年、撮影・松田隆)

 解任された伊東氏は4月16日に開講された社会人向けのマーケティング講座で「生娘(きむすめ)をシャブ漬け戦略」として「田舎から出てきた若い女の子を牛丼中毒にする」などと発言した(読売新聞オンライン・吉野家「著しく不適任な言動」「本日以降の契約関係一切ない」…女性蔑視発言の常務解任)。

 生娘とは「まだ男性に接しない女子。世間なれない娘。おぼこむすめ。処女。」(広辞苑第7版)。今更説明するまでもないが、時代劇などでよく使われていた言葉。まだ男性経験がないということで女性としての商品価値が高いこと、性的に可塑性があることから男性の征服欲を満たす対象となりやすい、などの意味合いがある。女性を商品化するかのような言葉で、今の時代にそぐわない表現なのは言うまでもない。

 シャブ漬けとは、直接の意味は覚醒剤中毒にすること。発言全体を見ると、あまり都会に慣れていない女性に牛丼の味を知ってもらい、ヘビーユーザーになってもらおうという趣旨のようであるが、飲食店を全国展開する会社の執行役員・取締役が比喩的な表現とはいえ、女性を商品化した上で反社会的勢力が用いる言葉で犯罪の被害者にすべきという発言を大学の講座で用いるなど、正気の沙汰ではない。

 吉野家HDのプレスリリースには以下のように解任理由が記載されているが、当然の結末と言える。

「同氏(筆者註・伊東氏)は人権・ジェンダー問題の観点から到底許容することの出来ない職務上著しく不適任な言動があったため、2022年4月18日付で同氏を当社執行役員および株式会社吉野家取 締役から解任しました。」(吉野家HD・当社役員の解任に関するお知らせ

■「オレ」もべらんめえも禁止

 筆者は専門学校で講師として教壇に立っている。学校とは業務委託契約を交わしているが、細かい規定が定められている。たとえば、清潔な格好で生徒の前に出る、クールビズ期間以外はネクタイ着用、そして一人称の「オレ」や、「べらんめえ」口調は禁止と、かなり細かい部分まで制約を受けている。

 生徒との関係は特に厳しく、個人的な連絡先の交換は禁止、生徒(特に女生徒)と外で会わない、教室で2人きりにならない、などが定められている。もちろん、下ネタや反社会的勢力の言葉を使用など論外。早稲田大学と伊東氏の契約がどのようなものだったかは分からないが、教育機関との契約であれば似たり寄ったりと思われる。

 僕の場合、進路指導をする際に、後から生徒に連絡をしなければならない時もあるが、そういう時は担任の先生を通じて行うしかない。生徒の方も(そこまでナーバスにならなくても)と半ば笑ってしまうような無駄な手間をかけてまで、ルールを守っている。それは生徒を守るためであるのはもちろんであるが、自分を守るためでもある。

 学校という特別な環境であれば、これぐらいは当然。それを社会人相手の講座とはいえ「生娘をシャブ漬け」。それがいかに愚かな行為か、伊東氏には分からなかったのであろうか。そのレベルの人間が取締役に就任していた事実に驚かされる。

■言葉狩りではない事例

 こうした発言をいちいち取り上げて、相手を吊し上げる方法を「言葉狩り」などと呼び、そのような圧力団体のやり方がメディアの報道の自由に制約を加えるのではないかという声は以前からある。たとえば多くのメディアが「帰化」を「国籍取得」と言い換えており、それは「帰化は朝廷の支配下に入ることを意味する」からとされている(記者ハンドブック第13版 p494 共同通信社)。一体、各メディアは誰に何のために気兼ねしているのか全く理由が分からない。

 そうしたおかしな例もあるが、明らかに他者を蔑視するような表現も多数ある。目が不自由な方に対する※「めくら」、母子家庭・父子家庭の状況を「片親」「欠損家庭」などは言われた方の気持ちを考えれば絶対に使ってはいけない。その意味でそうした聞くだけで不快にさせる言葉を差別語、不快用語として使用を控えているのは常識的な判断として認められると思う。

写真はイメージ

 今回の伊東氏の発言は明らかに女性への配慮を欠いており、同性である男性が聞いても不快になる類。吉野家が直ちに執行役員、取締役から解任したのは当然である。

 4月16日の講座での発言を踏まえ、その2日後には解任し、「本日以降、当社と同氏との契約関係は一切ございません。」(吉野家HD・当社役員の解任に関するお知らせ)と突き放す、素早い動きを見せた。

 企業の対応としては見事なものであったと思う。ロシアからの撤退に関するドタバタで批判を浴びたユニクロとは対照的。もともと2018年に吉野家の取締役に就任した外部から招聘した人材だけに見切りも素早かった、という事情もあると思われる。

■顧客を見下すのが本質か

 伊東氏の過去の発言をネット上で検索すると、以下のようなものがあった。「商品・サービス、事業開発で重要だと思うことを3つ挙げてください」という質問に対し、2番目で以下のように答えている。

②お客様の好き嫌いだけを理解するのでなく、その人が意識的・無意識に行う意思決定を支える価値観の理解(日経クロストレンド・伊藤正明

 客の消費行動のベースとなる価値観を理解することが大事と言っているようであるが、その大事な顧客を「生娘」と呼んで見下すのが伊東氏の本質なのであろう。

※文中に不適切と思われる表現がありますが、記事の特性から明記すべき事例と判断したものです。

"吉野家「生娘シャブ漬け」の取締役解任"に2件のコメントがあります

  1. 通りすがり より:

    吉野家絡みでは最近こんな話題も見かけた。
    キャンペーン期間中に一定の金額以上の利用者に名前の刻印入りどんぶりをプレゼント、という企画があったそう。
    とあるユーザーが足繁く吉野家に通い、プレゼントに応募する際その人が経営する店舗に飾るつもりで店舗の名前を入れてもらおうと申請したとのこと(当然個人名ではない)。
    すると一旦は受理されたものの、後日吉野家側から「登録された名前は第三者の著作権への抵触を避ける目的で名入れできない。あなたの個人名に変更する」との連絡が。
    不審に思って吉野家にキャンペーンの規約にそのような文言はないと返信すると、「規約に明記されてはいないが、個人名のみ受け付けることになっている」と言われたそう。
    なおも不服を申し立てると今度は吉野家側の責任者を名乗る担当者から、これ以上食い下がるつもりなら法的手段を取るという旨の強い言葉を使った返事が来たそうです。
    決して安くはない金額を使い、要件に達するために朝に晩にと時間をやりくりして通ったにも拘わらず要望が通らなかったことに失望しておられましたね。

    その舌の根も乾かぬうちに今度の役員による舌禍事件とは。
    当面吉野家は利用しないことにしました。

  2. Nobody より:

    38.5万という受講料の講座にこのような講師を採用した早稲田大学の見識を問うたり、早稲田大学からの発信がないように見受けます。
    講師を選ぶというのは主催する団体が一番考慮することと考えるのですけれど。

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