いい加減にしろ メディアの”渡部いじり”

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 アンジャッシュの渡部建氏が定期的に働く豊洲市場の関係者から「もう来ないで」と言われたと報じられた。女性自身(光文社)3月16日号(電子版3月2日公開)が伝えたもの。記事によると取材が集中し、市場関係者から「もう来ないで」と言われているという。メディアはここまで個人の生活を妨害していいものなのか。

■自分たちで押し寄せて「渡部建は出禁」報道出来上がり

イベントで司会をした際の渡部建氏(2017年、撮影・松田隆)

 女性自身が公開した記事は「渡部建 早くも豊洲出禁…騒動拡大で市場から『もう来ないで』」。内容は既に伝えられているように豊洲市場で働いているが、アルバイトではなく無給であったこと、食に興味があり飲食業界への転身も考えていることが明らかにされている。

 記事は以下のように続けている。

 2月25日発売の『週刊文春』は仲卸店の社長を取材しており、『女性セブン』も渡部を直撃取材。現地取材が過熱している。その結果、仕事に支障をきたすようになったという。「実際に働いたのはまだ3日ほど。本来ならもっと勉強したかったはずです。しかしあまりにも大騒ぎになったことで、市場の関係者から『もう来ないで』と言われているそうです……」(芸能関係者)

 メディアが殺到して周辺に取材をするために、市場関係者が「渡部さんが来ると、こちらの仕事の邪魔になる」と言うのは、その通りだろう。そのため渡部氏に「もう来ないで」と市場関係者が言いたくなるのも分かるが、根本の原因は取材をするメディアにある。メディアが取材しなければ、このようなことにはならないわけで、それなのに見出しは「渡部建 早くも豊洲出禁」と、あたかも渡部氏が何か問題を起こしたかのようなものになっている。

 自分たちに原因があるのに、どうして渡部氏に責任があるように書けるのか。渡部氏がしたとされる行為も相当恥ずかしいが、メディアのやり方も負けず劣らず恥ずべきものである。記者や媒体そのものに倫理を求めること自体が、間違っているのかもしれない。

■今のメディアはスネ夫か

 こうしたメディアの信じ難いやり方は、相手を見て態度を使い分けている点でタチが悪い。世間から猛烈なバッシングに遭った渡部氏のような芸能人であれば、いくら叩いても芸能事務所から反論も抗議も来ない。結果、渡部憎しの国民感情に乗り、自分たちで原因を作って渡部批判の記事にまとめる手法もまかり通ってしまう。

 その一方で、有力な芸能事務所や、そこに所属するタレントへの批判記事には及び腰である。ニッカンスポーツコムがジャニーズ事務所が公正取引委員会から注意を受けた事件で、一報から3時間近くネットにアップしなかった事例は以前にも指摘した(参照:ジャニーズ事務所の公取委からの注意問題で生じた日刊スポーツ「空白の173分」)。

 要はメディアはスネ夫のような性質であり、ジャイアン(大手芸能事務所)の手下で、もはや後ろ盾のないのび太(渡部建さん)に対してマウントを取るのである。全部がそうだとは言わないが、そういう記者がいるのも間違いない。

■芸能事務所から記者へお車代5万円

 芸能人の中には「メディアとは、いい時も悪い時も、持ちつ持たれつ」と割り切っている人もいると聞くが、だからといって人権侵害のような取材活動が許されるわけではない。

 僕が日刊スポーツに在籍していた1990年代後半、直属のK部長は元芸能担当記者だった。K部長は僕によく言ったものだった。

 「芸能事務所に取材に行くと、駆け出しでも『記者様』扱いでチヤホヤしてくれる。そこで勘違いするヤツが出てくる。ある事務所に取材に行った時に、お車代と書かれた封筒を渡されたことがある。俺は受け取らなかったが、他紙の記者は受け取っていた。中には5万円入っていたらしい。記者なら絶対にそんな金を受け取るな。芸能事務所に取り込まれたら、記者の価値なんてない」。

 K部長はかなり前に定年で退職したが、日刊スポーツにもまともな記者がいた。

 K部長が現役だったら、一連の渡部建さん報道に対して、僕のように怒りを示したかもしれない。渡部建さんのしたことは決して許されることではないが、仕事を離れ第二の人生を模索している時期のようであるから、それを妨害する権利などメディアにはない。「もう、いい加減にしろ」と言いたくなっているのは僕だけではないと思う。

"いい加減にしろ メディアの”渡部いじり”"に4件のコメントがあります

  1. 報道の不自由 より:

    松田様、いい記事をありがとうございます。

    日刊スポーツはジャニーズやAKB、坂道、バーニングには忖度しまくりで、弱小事務所のタレントや大事務所が見放したタレントに対してはとことんまで叩きのめしますよね。大メディアはどこも似たようなものですが、近年の日刊スポーツは特に目に余ると思います。もはやネットでバレバレなのにいつまで20世紀のつもりなんでしょうか。

    絶対に反撃して来ない相手にだけ石を投げる。実に醜悪だと思います。売上激減してるらしいですが、当たり前ですよね。

    自ら報道の自由を放棄するメディアに価値などありません。
    松田様には切れ味鋭い記事を期待しております。

    1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

      >>報道の不自由様

       コメントをありがとうございます。

      >>絶対に反撃して来ない相手にだけ石を投げる。実に醜悪だと思います。売上激減してるらしいですが、当たり前ですよね。

       この姿勢が読者からの信頼を失っている原因だと思います。僕が在職している当時から「ネットの時代に紙媒体では…」という諦めのような雰囲気がありましたが、それだけではないと思います。伝える方法だけの問題ではなく、伝える内容が読者に見下されていることを認識しなければいけないと思っていました。

       今回の渡部建さんの報道に関しても、衰退するメディアのそういう部分が出ているように感じます。

  2. 名無しの子 より:

    伊藤氏がはすみとしこ氏を訴えた時、メディアは「ネットの誹謗中傷」を問題視しました。でも私は「メディアリンチ」の方が、より問題だと思います。なぜなら、ネットの誹謗中傷のマトを定めるのがメディアだからです。
    伊藤氏がはすみとしこ氏の名前をメディアで出した直後から、はすみ氏には、殺害予告などの凄惨な誹謗中傷が、連日連夜届くようになりました。
    その後、あるテレビ局が取材をしたいと、はすみ氏に申しこんできました。はすみ氏は実に丁寧に、四枚もの原稿を、テレビ局に渡しました。
    しかし、そのテレビ局は全く原稿内容を報道しませんでした。自分達の思いとは違ったんでしょうね。はすみ氏は一方的に悪者にされたまま。まさに、この人は持ち上げ、この人は誹謗中傷のマトにすると決めているみたいです。
    松田さんがおっしゃったように、のび太的な人に対してもそうですが、一般的に権力者と称されている人を叩くのも好きだと思います。コロナが流行り始めた頃の、安倍さん叩きは、とても見ていられなかったです。
    伊藤詩織事件についても、か弱い(?)女性である伊藤氏を貶める、大物ジャーナリスト山口氏や国家議員である杉田議員という構図。
    今回の渡部氏にしても、話題性もあり、また、元々は一流芸人ということで、権力を叩いている気持ちになるのかもしれませんね。
    とにかく、依怙贔屓はやめてほしい、また、叩いて追いつめるのは、本当にやめてほしいです。何かあってからでは遅いのですから。みんなが幸せになれるための報道を、してほしいですね。
    お忙しければ、返信は、ご無理なさらないでくださいね。

    1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

      >>名無しの子様

       コメントをありがとうございます。

      >>一般的に権力者と称されている人を叩くのも好きだと思います。

       これはその通りですね。そうすれば「権力に屈しないジャーナリズムの発揮」とアピールできますから。そして大事なことは、相手が決して手を出してこないことです。中国はもちろん、香港でも同じことをすればすぐに逮捕・勾留が待っています。そうならないから安心して攻撃できるのでしょう。

       そういう姿勢のメディアを誰が信用するのかということです。僕が日刊スポーツ在職中、「それ書くと、あの団体がうるさいから」というのは何度も聞きました。残念なことです。

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