揺らぐ台湾の防疫神話 日本人女性感染の衝撃
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
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世界で最も新型コロナウイルスを抑え込んでいる台湾に衝撃が走りました。6月24日、日本人女性が台湾で感染していたことが判明したのです。73日間感染者ゼロの国からどうして感染者が出るのか、疑心暗鬼になったり、安全に自信を失ったり、台湾国民の受けた衝撃は相当なものでした。
■台湾から帰国の日本人女性がコロナ陽性反応
台湾では「防疫新生活運動」が始まっています。地下鉄では乗車後はマスクを外すこともできるようになりました。音楽祭や野球観戦等、人の集まるイベントも開始されています。街中ではデパートなど人の集まる所では皆、自主的にマスクを着用していますが、スーパーやコンビニ、レストランでも入店時にマスク着用は義務づけられていません。私の住んでいる台北郊外など人が密集しない所では、道ゆく人もマスクの非着用率が高くなっています。かつての生活に戻りつつある台湾で、6月24日、事件が起きました。
「新冠肺炎日本人疑在台染疫 連73天本土零確診留疑雲 (新型コロナウイルス感染の日本人 台湾で感染の疑い 73日間連続感染者ゼロに怪しい雲行き)」
これは2020年6月24日夕方の台湾Yahoo奇摩ニューストップに掲載された速報です。2020年6月24日午後5時からの中央感染症指揮センターの定例会見上、陳時中衛生福利部長は、同23日に日本側から受けた連絡として、台湾から日本に帰国した20代の日本人女性が成田空港でPCR検査を受け、新型コロナウイルスの陽性反応が出たことを発表しました。
”鉄人”部長の説明によると、当女性は2月末から短期留学で台湾南部に滞在、語学センターに通っていたということです。指揮センターは同会見上、感染場所や時期を探り早急に究明するとしました。このニュースは台湾の防疫成果の自信と安全神話に衝撃を与えたようです。
各メディアはこの会見について以下のように報じています。
「日籍女生返國染疫 疑感染源來自台灣 (日本籍女学生帰国検疫で感染 感染源は台湾の疑い)」(中国時報 2020年6月25日付)
「日本女學生染疫感染源疑在台灣 (日本人女学生感染 台湾が感染源か)」(中央通訊社 2020年6月25日付)
私が厚生労働省のwebサイトで報道発表資料を確認したところ、この女性は東京在住、6月20日に台湾から帰国、空港検疫にて無症状病原体保有者であることが明らかになったと記されていました。
■感染者ゼロへ疑問の声次々 日本の入境制限緩和不対象への納得 南北問題の存在
「奇摩(Yahoo)」のコメント欄には、第一報から非常に多くのコメントが投稿されています。また台湾最大の掲示板「批踢踢實業坊」でも同様に多くの議論が交わされています。コメントの多くを占めるのは中央感染症指揮センターの検査態勢や、今までの発表に対する懐疑的な眼差しです
(以下「奇摩(Yahoo)」の各関連ニュースコメント欄及び「批踢踢實業坊」各関連スレッドから抜粋)
★打破73天無本土的「謊言」吧 (73日間国内完全無しの「でまかせ」か)
★這個所謂的無本土記錄到底是真的,還是自始至終只是一場討大家歡心的戲碼 (国内感染無しの記録は果たして本当なのか、それとも最初から最後まで皆の歓心を買うための芝居だったのか)
★幾個月都是奇怪的好運? (ここ何か月が全部奇妙な幸運だったってこと?)
★所以零本土感染從何而來? (国内感染ゼロとは何に基づいて?)
★指揮中心天天宣佈零確診是怎樣 (中央感染症指揮センターが毎日報告しているゼロ感染とは何なのか)
★陽性的 應該很多 只是沒發病沒篩檢而已 (陽性反応、他にも多くいるだろう ただ無症状で検査を受けていないだけだ)
★不相信官方數字 (政府の数字は信用しない)
■日本が台湾人を入国させない理由はこれか
6月24日まで台湾では73日間国内感染者数ゼロを維持してきました。これまでの国内感染者ゼロに対する懐疑心や不安な様が窺えます。また、
★因為不敢普篩 (なぜなら全国民検査を行っていないから)
★不普篩 假掰美化數字 (全国民検査を行わない 偽の美化された数字)
と、台湾全国民検査の必要性を指摘するコメントも多数ありました。
次に多いのが、「日本の入国制限緩和対象に含まれなかった」ことに触れているコメントです。日本への入国制限緩和、その第一弾の対象国に台湾が含まれていなかったことに関して、台湾国内では「非常に高い水準で防疫を維持しているのになぜ」といった不満の声が挙がっていたのですが、
★難怪台灣不在日本首波開放名單內 (道理で日本の入国制限緩和リスト第一弾に台湾が載っていなかったわけだ)
★所以日本不肯讓台灣人入境是有原因的 (つまり日本が台湾人を入国させない原因がこれ)
★難怪日本不願開放台灣人入境 (なるほど日本は台湾人の入国を願わないわけだ)
「やっぱりな」、と少々自信をなくしている様が感じられます。
■だから南の連中は…
そして今回陽性反応が明らかになった日本人女性が台湾南部(詳細な場所は明らかにされていませんが恐らく高雄ではとのコメント多数)に滞在していたことから、南部地域を馬鹿にするようなコメントが複数ありました。
★又是南部 落後地區 (また南部か 遅れた場所だ)
★幹 南部喔 (もう 南部かよ)
★南部真的很衰 (南部は本当に衰えている)
以前の日本人食中毒に関する報告でも紹介しましたが(参照:台湾人が「恥さらし」と怒る ”日本人集団食中毒”事件 見えた対日感情と南北問題)、台湾は台北のある北部が政治・経済・文化の面で優位に立っており、北部の人が南部地域を見下すような感情が存在しています。
今回もそのような感情を表す人がいるところに台湾の南北問題の根深さが感じられます。
他には感染源を台湾以外と捉えているコメントも一定数ありました。
★說不定二月底 就在日本 被一堆 中國遊客 感染了,一直沒症狀 (2月末に中国の旅行客から感染してその後無症状だったのかもしれない)
★說不定人家2月前就感染了只是無症狀 不可以質疑政府 (2月前に感染してその後無症状だったのかも 政府を疑うのは良くない)
■自国は安全の認識に一石
さてその後の経過ですが、中央感染症指揮センターは当該日本人女性との接触者など計213人を対象に5種類のウイルス検査を実施しました。7月8日午後の同センター定例会見で実施チーム責任者張上淳台湾大学教授は、対象者全員の検査結果がウイルス陰性であったと発表しました。
張教授は、日本人女性がどこで感染したのか、また日本での検査結果が真の陽性であるのかは当人が台湾にいないため追って検査ができないとしながらも、対象者については5種の検査方法を用いたことで結果は信頼できるものであり、当日、本人女性から他者への感染は無いと述べました。
中央感染症指揮センターは現時点で感染拡大はない との見解を示しました。しかし、どこで感染したのか(または本当に感染したのか)については究明には至っていません。そして今回の件は、台湾の防疫に対する自信の揺らぎや政府の防疫対策にたいする疑問の表れ、また台湾の人々の「自国は安全である」という認識に一石を投じる結果になったのは確実でしょう。
同センター陳時中衛生福利部長は今回の件を受け、「防疫新生活的防線要做好,但並不需要去擔心 防疫新生活の防衛ラインはしっかりと、でも心配はしないで」と呼びかけています。
今、私たちがしなければならないのは、不安から浮き足立たず、今までのようにしっかりとした防疫を心がけて、日々を過ごすことだと思います。