備蓄ワクチン不足で接種一時中止 台湾の苦悩

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葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

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京都産業大学外国語学部中国語学科、淡江大学(中華民国=台湾)日本語文学学科大学院修士課程卒業。1998年11月に台湾に渡り、様々な角度から台湾をウオッチしている。
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 備蓄ワクチンが底をつき始めた台湾では、接種事業の一時中止による空白期間が発生しました。8月23日から国産ワクチンの接種が始められることでワクチンの選択肢は増加、しかし国内のワクチン不足解消の頼みの綱は民間企業のワクチン寄贈です。

■ワクチン空白期間の発生 台北市長怒る

台北市内の接種会場は一時閉鎖に(18日、撮影・葛西健二)

 6月15日から台湾全土で進められてきた新型コロナウイルスワクチン接種事業は、ワクチンの不足に伴い一時停止となっています。台北市では8月12日に、新北市は同月13日に、その他地域でも17日に中央政府から供給されたワクチンが底をつきました。 

 次回の接種は国産ワクチンが初めて使用される8月23日から再開されます。これにより台湾では最長10日間の「疫苗空窗期 (ワクチン空白期間)」が発生しました。

 接種事業停止中に到着した新型コロナウイルスワクチンは、アストラゼネカから購入した約52万4000回分と米モデルナ製ワクチンは第6陣約25万回分です。これにより台湾のワクチン備蓄量は、アストラゼネカ製約72万回分、モデルナ製約45万回の分合計117万分となりました(2021年8月22日時点)。

 台湾国内で第1回接種を終えた人は約928万人で全体の39.5%です。 残る1430万人は一回目の接種を終えていません。これに対し残りは僅か117万回分。私も妻もまだ1回目の接種を受けていません。今般の状況では果たして今年度中に政府からの接種通知が届くのかと気を揉んでいます。

 滞るワクチン配給に対し地方政府からも不満の声が挙がっています。ワクチン不足によって昨月末から接種予約を一時中止している台北市では、8月6日記者会見の席上、柯文哲台北市長が中央政府に対し「故意拖延 不會讓它進入台灣  (故意に時間を稼いでワクチンを台湾へ入れさせない)」と声を荒げる一幕もありました(中国時報 Youtubeチャンネル 2021年8月6日)。

■日本の前倒し供給に自国政府の弱さ嘆く声も

陳時中氏(中央流行疫情指揮センターYoutubeチャンネルから)

 さらに日本でファイザー製ワクチン600万回分の供給が9月末までに前倒しされたことが報じられると、台湾ではネットを中心に政府に対する不満の声が上がりました。

提早交貨,表示人家政府有在做事 (前倒しで受け取れる、つまり政府は責務を果たしていることだ)

看看別的國家是如何保護國民 (よその国がどうやって国民を守っているのか見てみろよ)

台灣去年訂的貨還有一大半還沒到貨 (台湾は昨年契約した半数以上がまだ到着していない)

 ※台湾は昨年10月アストラゼネカ社とワクチン1000万回分供給の契約を結び、これまでに約240万回分が到着。コメントは台湾YahooニュースFacebookから抜粋)

 中央感染症指揮センターの陳時中指揮官は8月7日の定例会見で、ワクチンについては「我方有時候也會追到一點 但沒有像日本這麼大的數目 (日本のように大量ではないが、我々の催促で少量ではあるが(ワクチンは)到着している)」、「我方幾乎每天都會跟不同原廠做各種談判 (毎日のように異なる生産工場と話し合いを行っている)」として、ワクチン獲得に注力していることを強調しました(中央感染症指揮センター 2021年8月7日YouTubeチャンネル)。それでも、厳しい声はやみません。

強國辦事效率高、可憐的台灣人 (大国の手際の良さよ、かわいそうな台湾人)

日本能催貨,台灣只能慢慢等 (日本は催促、台湾は待機)

 上記のように、国際社会での台湾の立場の弱さを嘆く声が寄せられています(中央感染症指揮センター 2021年8月7日YouTubeチャンネル)。

■国産ワクチンの緊急使用許可と接種受付開始

 台湾では国産新型コロナウイルスワクチンの開発が進められてきました。7月19日に高端疫苗生物製剤(メディゲン・ワクチン・バイオロジクス)が開発した組み換えタンパク質ワクチンの国内緊急使用が認められました(中央通訊社 2021年8月11日)。

 遅遅として接種が進まない外国産ワクチンを待つよりも国産ワクチンで一日でも早い接種を願い、高端製ワクチン接種を希望する人が急増、接種予約サイトで高端製を選択した人は3万7000人(7月27日時点)から107万人へと一気に膨れ上がりました(8月11日時点)(中央通訊社 2021年8月11日)。

 国産ワクチンの接種は8月23日から開始されます。8月23日から29日の7日間は国産ワクチンのみ接種となっており、中央感染症指揮センターはこの期間中に80万回分のワクチン供給を目指しています。

■頼みの綱は民間からの寄贈

 ワクチン不足解消に期待が寄せられる国産ワクチンですが、中央感染症指揮センターは初の国産ワクチン接種に慎重な見方を示しており、目下大量供給は予定されていません。台湾が直面しているワクチン不足解消の頼みの綱となるのは、民間からの寄贈です。

 ワクチン不足と備蓄枯渇が懸念されていた6月、鴻海(ホンハイ)科技集団の創業者郭台銘氏と、半導体の受託生産で世界最大規模の台湾積体電路製造(TSMC)の劉徳音董事長が蔡英文総統と面会、官民協力によるワクチン調達が協議されました。その後郭氏が設立した慈善団体とTSMCが政府代理となって海外とのワクチン購入交渉が進められていきます。

 そして7月12日に中国や香港、マカオ、台湾に於けるドイツビオンテック製ワクチンの独占販売権を有する中国の上海復星医薬との間でビオンテック製ワクチン1000万回分購入契約が締結されました。続いて7月21日には宗教団体である仏教慈済慈善事業基金会も同社製ワクチン500万回分購入を契約、これにより台湾には合わせて1500万回分のビオンテック製ワクチンが届けられることになりました。そして購入したワクチンは全て政府へ寄贈されることになっています。ビオンテック製ワクチン第一便は、早ければ9月末台湾に到着する予定です。

 これまでの政府購入分と民間からの寄贈分が滞りなく順次台湾に到着し、更に国産ワクチンの量産化が早まれば、台湾のワクチン不足はこれ以上深刻にならないと思われます。ただ政府がワクチンの調達を民間に求めたことについては疑問や批判の声が挙がっています。ネットでは前述の日本へのファイザー製ワクチン供給前倒しの件に触れ、「人家是政府出面、我們是企業出面 (よその国では政府が、我々は企業が表に立つ)」や「現在才知道我們台灣是無政府 (台湾は無政府だったんだ)」といった辛辣なコメントも投じられています。

■鴻海の郭台銘氏の野望?

 ワクチン調達に動いた鴻海の郭台銘氏は3年後の台湾総統選出馬も噂される人物です(自由時報 2021年8月6日聯合報 2021年8月18日)。民間が調達に奔走したワクチンが政府に寄贈されることになれば、郭台銘氏の好感度上昇、ワクチン接種施策が後手に回っている感が否めない蔡英文政権のイメージダウンとなり、次期総統選に影響を与えるかもしれません。

 蔡政権にとって重要なのは海外市場進出も視野に入れつつ国産ワクチンの量産化で国内での高端製ワクチン接種率とワクチンの評価を高めることではないでしょうか。もちろん台湾にとって喫緊の課題は、国民全体をカバーできる量のワクチンの確保と接種を加速して、一日でも早く3か月前の「普段の生活」に戻ることなのは言うまでもありません。

3 thoughts on “備蓄ワクチン不足で接種一時中止 台湾の苦悩

  1. アバター 名無しの子 より:

    台湾では、日本の政府が評価されているんですね。日本では、現政権への批判が絶えません。確かに、全て良いとは私も思いませんが、また全て悪いとも思いません。批判ばかりしていても、何も進まない。とりあえず、自分のできることをしようと私は思っているので。皆「隣の芝生は青い」というわけですね。
    ところで、時期政権を狙っていると噂される鴻海の郭台銘氏は、親日なのでしょうか。現在のトップは親日ですので、私達も安心しています。もしも、次のトップが反日ならば、台湾の日本への対応が、ガラリと変わる可能性があります。気になるところです。ぜひ教えていただけませんでしょうか。

  2. アバター 葛西健二 より:

    名無しの子様

    おっしゃるように「隣の芝生は青い」のかもしれません。
    鴻海の創立者郭台銘氏ですが、2019年9月に国民党から離党、その後無所属で2020年の総統選に出馬予定でした(後に断念しています)。
    現在は鴻海の経営から離れているようですが、鴻海は中国に工場を構え、中国政府からも補助金を受けています。ですのでどちらかといえば「親中」寄りではないでしょうか。

    1. アバター 名無しの子 より:

      葛西様、ありがとうございます。そうですか。それは脅威ですね。
      でも、その方が次回のトップになるとは決まってはいませんよね。まだ先のことだし、ましてや日本人がどうにもできる問題ではありませんね。とにかく、親日派のトップが続くことを、切に願うだけですね。
      今の日本と台湾の関係が、これからも続きますように。

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