国際線パイロット解雇 コロナ感染に検疫違反
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
最新記事 by 葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼 (全て見る)
- 台灣隊前進東京 ”12強賽” 初の4強に熱狂 - 2024年11月19日
- 台湾はワクチンの恩忘れず 能登半島地震「義氣相助」 - 2024年1月28日
- 大谷選手めぐり台湾の記者”出禁”騒動 - 2023年7月9日
台湾の新型コロナウイルスの封じ込めは成功していたように見えましたが、思わぬところから綻びが始まりました。国際線パイロットとその家族による感染が見つかり、学校は臨時休校、感染者と接触した可能性がある人々に対して緊急メッセージが発せられる事態になりました。経済面の打撃も深刻な台湾社会では警戒レベルの解除を求める声とともに、水際対策に疑問を抱く人も増えています。
■新小1生「緊張しないが感染が怖い」
台湾での1日の新型コロナウイルス国内感染者数は数人に止まる日が続いています。8月25日には108日ぶりに国内感染者数ゼロとなり、人々の間にも「ようやく」というムードが漂い始めました。そして小中高校では9月1日の新学年開始に合わせ、105日ぶりの対面授業が再開されました。
感染予防のため学校ではマスク着用が義務付けられ、音楽の授業では吹奏楽器を使用しないこと、体育の授業では身体が接触するようなスポーツは行わないよう、また昼食時には机に仕切り板を設置すること等、校内活動には制限が設けられています。
台湾の学校では新学期の授業初日に生徒が保護者を伴って教室に入ることが慣例となっていますが、現在は感染防止のため部外者の立ち入りが禁じられており、保護者は校門で生徒の登校を見送ることになりました。
この日が初めての登校となる小学校1年生の生徒は、「緊張しないか」との問いに「我不緊張 但我怕確診 (緊張はないけれど感染が怖い)」と不安を露わにしていました(台視新聞 2021年9月1日)。新型コロナウイルスの影響下で制約の多い学校生活を過ごすことを余儀なくされる子供の姿に、やるせない気持ちになりました。
■桃園市内の高校生1名が感染
対面授業による新学期開始にあたっては、上記の防疫対策とともに、教員や生徒の新型コロナウイルス感染が発覚した場合には、学級閉鎖や臨時休校の措置が執られることになっています。
台北の小中高校では、クラス内で感染者発生の場合は14日間の学級閉鎖、2クラス以上の学級閉鎖となった場合は臨時休校になります。桃園市は台湾全土で最も厳格な対策が講じられており、校内で感染者が1名でも発生した場合臨時休校となります。
さて約3か月半ぶりの対面授業再開の喜びも束の間、生徒が新型コロナウイルスに感染する事態が発生しました。桃園市内の高校に通う生徒1名から新型コロナウイルス感染が確認され、これを受け当高校は9月3日に14日間の臨時休校となりました。
また、全校の生徒や職員合わせて約2400人を対象に検査が実施され、感染した生徒のクラスメートや教員には強制隔離の措置がとられました。
私は新学期開始からわずか3日後の臨時休校のニュースには驚くと同時に、1つの懸念を抱きました。以前から感じていることですが、台湾の人はとかく「白か黒」で判断する傾向があります。現在は新型コロナウイルス感染拡大を恐れるあまりに感染者を「黒」とする見方が広がってきているように感じます。感染した生徒がこれから理不尽な状況に遭遇するかもしれないこと、多感な時期である当該生徒の将来や人格形成にマイナスの影響を及ぼすかもしれないことがとても心配です。
■発端は帰国したパイロットから
上述の高校生感染については、長栄(エバー)航空にパイロットとして勤務する親から家庭内感染したことが判明しています。そして当パイロット以外に同じシカゴー台北路線の便に搭乗していた2名の乗務員、合わせて3名の新型コロナウイルスの感染が確認されました。
しかも1名は台湾入国後の自主健康管理期間中に、検疫規定を違反し友人らと会食を行っていたことが発覚しました。さらに当人は8月のブリスベン路線搭乗の際に健康声明書に虚偽の記載をしていたことも明らかになりました。なお長栄航空は9月4日、当該パイロットの解雇を発表しました(風傳媒 2021年9月4日)。
4名の感染判明に対し、中央感染症指揮センターは9月3日、実名登録システム(台湾では防疫対策として公共交通機関の利用時やコンビニエンスストア、スーパーなどの店舗、商業施設、市場への入場時に氏名・連絡先を記入することが義務づけられています)に基づき8月13日から9月2日の期間内に感染者と同時間帯に同所を訪れた記録がある約110万人に、「災防警細胞廣播訊息 Public Warning Cell Broadcast Service」による緊急メッセージを一斉送信し、注意を呼び掛けました。その後メッセージを受けた人々がPCR検査場に詰めかける騒ぎとなり、台北市では市内7大病院に設置されているPCR検査場の予約枠が全て埋まる事態になりました。
なお国際線パイロットの感染を受け、中央感染症指揮センターは国際線乗務員に対する検疫の強化措置を9月3日から開始することを発表しました(中央感染症指揮センター 2021年9月3日)。
■警戒レベル維持と行動制限に経済面で困窮する人々
台湾は防疫対策として警戒レベル「第2級」が敷かれ、社会活動に大きな制限が加えられています。店内での飲食提供の再開、プールや屋内運動施設、映画館の営業再開など徐々に規制緩和がなされていますが、バーやカラオケ、ゲームセンターなどの娯楽施設やレジャー施設等8分野では営業が認められていません。
これらの分野は「八大行業」と呼ばれ、5月の警戒レベル第3級発令から現在に至るまで営業が禁じられており、休業を強いられている人々から窮状を訴える声が日増しに強まっています。
台湾国内最大の商業会組織「中華民国全国商業総会」の許舒博理事長は9月2日の記者会見上、警戒レベルの継続によってサービス業は大きな打撃を被っていること、さら政府の補助対象は従業者のみに限られているため、経営者に対して何ら補助が為されていないこと、特に八大行業が「孤児」となっていることを問題視した上で、「已經『封』到快要發瘋 (『規制』で崩壊寸前である)」と、政府の早急な対策を強く求めました(聯合新聞 2021年9月2日)。
1日の感染者数が数人にまで収まり、人々の間には警戒レベルの解除を期待する雰囲気が高まっていました。そのような中での検疫規定違反を伴うエバー航空パイロットの感染事案発生、当分の間警戒レベル第2級は継続されるだろうと思います。水際の防疫対策で優秀な成果を挙げていた台湾ですが、かつてのように国内感染「ゼロ」の生活に戻ることができるのか、そして生活制限措置がいつまで続くのか。
黃珊珊台北副市長は自身のSNS上で、今回のパイロット感染の事例に触れ、「台灣也不可能完全鎖的住 (台湾も完全な鎖国は不可能だ)」と、水際対策の限界を指摘しています(黃珊珊 Facebookページ)。新型コロナウイルスの侵入阻止に対する疑問の声は次第に大きくなっています。