フィリピン人の悲劇 廊下に8秒で罰金36万円
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
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2月11日からの春節(中華圏の旧正月)に合わせ、多くの台湾人が海外から帰国しています。 新型コロナウイルスへの警戒がまだまだ必要な時期、台湾政府は「一滴も漏らさない」意気込みが感じられる水際対策を敷いています。1月中旬台湾へ帰国した知人の体験を紹介しつつ、帰国から自宅検疫までの流れもお伝えしましょう。
■防疫のホテルの部屋から8秒出ただけで…
2020年12月に防疫のためのホテルに待機中のフィリピン籍の男性が廊下に8秒間出たことで10万元(約36万円)の罰金を課せられるという事件が起きました。また今年1月には、検疫期間を終えた7名が自主管理期間中に人気アーティストの大型ライブに参加したことで、3万元から7万元(約11万円から25万円)の罰金を課せられています。
8秒で36万円ですから、1秒あたり4万5000円です。時給換算で1億6200万円ですから、バルサのFWメッシの年俸1億ユーロ(約135億円)と、どちらが高いのでしょうか。そのフィリピン籍の男性も「メッシも『高すぎる』と怒るぐらいの罰金を台湾に払ってやったぜ」と母国で自慢しているかもしれません。
冗談はともかく、これは罰則を設けてでもウイルスの国内流入と市中感染を絶対に阻止するという台湾政府の毅然とした態度と共に、新型コロナウイルスの世界的感染拡大を目の当たりにしている台湾の危機感も感じさせるものでした。もちろん、痛すぎるムチだけではありません。隔離対象者に対して規制を課すかわりに金銭的・物的精神的援助を行うあたりに、台湾政府の柔軟な対応力が現れているように思います。
■台湾の完璧な防疫、感染者累計924人
2021年2月6日の時点で台湾での新型コロナウイルス感染者累計は計924人、そのうち海外からの入国者で感染症の陽性が確認されたのは809人です(衛生福利部疾病管制署 2021年2月6日発表)。市中感染が76名に止まっている状況と合わせて考えると、台湾の水際対策が如何に徹底したものかが分かります。
2021年1月1日からは外国籍者の入国と検疫に関する規定が強化されました。これにより居留証(外国籍者が台湾で生活する際の身分証)保有者、台湾人の配偶者とその未成年の子女、ビジネス契約履行証明保有者等以外の外国籍者の入国が禁止されました。また2月10日からの春節大型連休による帰国者増加を受け、1月15日からは飛行機搭乗前3営業日以内のPCR検査の陰性証明呈示及び入国後14日間の隔離を行う隔離先に関する証明書提出が必要となりました。
隔離待機先は政府指定の集中隔離施設、または検疫旅館・検疫ホテル以外にも自宅検疫を選ぶことができますが、その際は「一人一戸」の規定に従わなければいけません。「一戸」とは独立した部屋を指します。部屋の中に独立したトイレ・バスがあり、隔離対象者はこの部屋から外へ出ることはできません。また同居者がおり且つ部屋にこれら独立した設備がない家の場合、同居者は14日間外泊をする必要があります。さらに一人一室の原則を違反した場合、10万元から100万元(約36万円から360万円)の罰金発生、及び検疫対象者は集中隔離施設や防疫ホテルへの強制入居が行われます。
日本の場合陰性証明を有する者は入国後台湾のように自宅検疫を選ぶことができます。しかし台湾のような「一人一戸」の義務はありません。厚生労働省からもこのような要請はなされておらず、同居者へ「注意すること」として「生活の中で、入国者本人との接触を避ける」「こまめに手洗いを行う」ことを励行しています。 (厚生労働省 「帰国された皆様へ」及び「水際対策の抜本的強化に関するQ&A」)。この点で個を尊重する日本と、強制力を以て公を優先する台湾、という違いが現れていると思います。
■入国前から始まる台湾の検疫と追跡システム
徹底した水際対策をとる台湾。帰国者の入国から検疫終了までを以下にまとめました。まずは、帰国しようと思ったら、滞在国で飛行機搭乗72時間(前3営業日)以内のPCR検査陰証明取得、搭乗時の提示が義務付けられます。
それをクリアした後に台湾に入国しますが、簡単に街中に出られるわけではありません。
(1)入国48時間以内に衛生福利部「入境検疫系統」にて個人の基本情報、フライト番号及び座席番号、台湾の携帯電話番号、渡航目的、宿泊する政府指定の検疫ホテル名や自宅住所等を登録。
(2)帰国後自宅検疫を選んだ場合は、「一人一戸」「14日間の外出禁止」に従うこと、違反の場合は罰金10万元から100万元(約36万円から360万円)を支払義務が発生することに同意する誓約書を作成。
(3)飛行機を降りた乗客はまず検疫スペースへ集められる。登録済み携帯電話番号へ送られてくるショートメッセージに記載されたアドレスから入国最終確認。個人情報検疫期間、滞在場所や誓約書の内容の正誤を確認。
(4)検疫官から携帯電話のGPS位置情報をオンにするよう指示、確認後税関へ。
(5)税関で再度陰性証明書提示
(6)検疫ホテルや自宅検疫場所への移動は自家用車または政府指定の防疫タクシーのみ使用可。
(7)検疫開始後は中央感染症指揮センターから毎日午前健康状況に関する確認連絡が入る。
(8)里長(後述)から一日2回朝晩の連絡。体温と身体状況の報告をする。
(9)最終日に中央感染症指揮センターから当日24時を以て検疫終了の連絡。ただしさらに7日間の「自主管理期間」が設けられており、この間は公共機関の利用、人の集まる場所、混雑する場所への出入りが禁止される。
(10)自主管理期間経過後、通常の生活へ。
(下記参照)
★中央感染症指揮センター 「『強化居家檢疫措施』之旅客入境前配合事項」
★中央感染症指揮センター「本署Q&A」 Q32~Q5
★台北市政府衛生局 「依據中央流行疫情指揮中心居家隔離追蹤管理機制」
書いているだけで嫌になってくるぐらいの手続きが並びます。検疫が終了した台湾人は、自由の素晴らしさをあらためて知ることでしょう。
台湾へ帰国した知人によると、空港では台湾の携帯電話番号のない外国籍搭乗客の為に検疫スペースでプリペイド式の携帯電話番号を販売しており、入国には必ず個人の携帯電話番号が必要になるとのことです。
これは携帯電話のGPSから入国者の位置情報を逐一把握するためでしょう。また14日間の検疫終了後も更に7日間の自主管理期間、合計21日間は生活の制限を受けることになります。台湾が外部からのウイルス侵入に非常に警戒していること、そして何重にも網を張り、徹底した水際対策を取っているのがわかります。
「入境検疫系統」。入国48時間以内に台湾での携帯電話番号、検疫場所等登録。
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