大谷選手めぐり台湾の記者”出禁”騒動

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葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

京都産業大学外国語学部中国語学科、淡江大学(中華民国=台湾)日本語文学学科大学院修士課程卒業。1998年11月に台湾に渡り、様々な角度から台湾をウオッチしている。

 台湾でも大人気の大谷翔平選手(ロサンゼルス・エンゼルス)について、メディアは連日報じています。その大谷選手に関する取材で、台湾メディアとエンゼルスとの間でトラブルが発生し、台湾では大きな問題となりました。今回はその問題を紹介しましょう。

◼️大谷選手へ質問で問題発生 国内で論議に

TVBSが放送した問題のシーン(その後、削除)、 画像はdisp bbsから

 台湾では大谷選手が本塁打王へランキング独走となる今シーズン32号ホームラン(2023年7月9日ドジャース戦)を放ったことについても、ニュースチャンネルはホットニュースとして大きく取り上げ、「二刀流超級球星、追上傳奇球星貝比魯斯 (二刀流のベースボールスーパースター、伝説のベーブ・ルースを追い越す)」と賛辞を送っています(華視新聞2023年7月9日・改打第1棒換手氣! 大谷單場三安 32轟也出爐 ※日本では視聴不可)。

 ところが、その台湾メディアがある問題を引き起こしました。エンゼルスの本拠地アナハイム球場にて5月26日に台湾デーのイベントが催されたときのことです。台湾プロ野球チーム「楽天モンキーズ」の人気チアリーダー「樂天女孩 Rakuten Girls」が招待され、華やかなダンスとコールのパフォーマンスを披露。華やかな雰囲気の中、最後に大谷選手とチアリーダー達との記念写真撮影が行われました。その直後に事件が発生します。大谷選手が控え室へ戻る際、台湾のTVBSの記者が大谷選手に対し「台湾のファンに何か言ってほしい」と声をかけたのです。

 大谷選手は驚きつつも何も答えずに、そのまま控え室へと姿を消しました。この直後エンゼルス職員は当記者に対し「No answer, You know what?  You’re not even supposed to be here. やめてください、わかっていますか? あなたはここにいるべきではないのですよ)」と警告を発しました。

 この行為についてエンゼルス側は、この記者はPre-Game の許可証のみを有しており、これはRakuten Girlsにはインタビュー可能であるものの、エンゼルスの選手に対するインタビューは許可されていないとして、以降当該記者のスタジアム出入りを禁じました。

 当記者は同日自身のSNSに、大谷選手の後ろ姿の画像とともに「我以後拒絕來棒球場 (もう野球場には行かない)」とコメントを付け加え大谷選手を非難するかのような内容のコメントを投稿、そしてTVBSは大谷選手とRakuten Girlsの記念撮影シーン及び記者からの質問を受けた大谷選手が驚いた顔をした後に背を向けて去る一連の映像を「獨家 (スクープ)」として放送(現在は削除)しました。

◼️記者の言動に台湾国民の批判

 記者の行為とその後の身勝手なSNSのコメント内容に、国内では取材姿勢に対する批判や疑問の声が起きました。台湾メディアは当記者の行為を「踩違規紅線 (レッドラインを越えた違反)」(三立新聞網 YouTubeチャンネル 2023年6月2日・沒採訪權限! 硬問大谷翔平 TVBS記者傳遭封殺)、「丟臉丟到國外 (国外でも恥をさらす)」(自由時報 2023年6月2日・丟臉丟到國外! 台灣電視台女記者「硬訪大谷翔平」 傳遭球團封殺)と報じました。

 また、国内外のプロ野球に造詣が深い人物が寄稿したコラムでは、メジャーリーグではインタビューに際し厳密な規則適用されていること、エンゼルスについては選手に対するインタビュー及び取材に関する詳細な規約が公式HPに掲載されていること、これを踏まえ今回のインタビュー行為が「試合前に行われ」「共同インタビューではない」そして「大谷選手の専属通訳である水原一平氏を介していない」、以上の3点から明らかに「違反行為」であると指摘しています(運動視界 2023年6月2日・「No answer!」妳的一件“小事”是我們所有人的“大事”!)。

 あるスポーツ記者は自身のコラムにて、当TVBSの記者はスポーツ専門外であり台湾デー開催に伴いRakuten Girlsの取材の為に初めてメジャーリーグを訪れた記者であることを述べた上で、限られた時間内での成果を求める上層部からのプレッシャーを理解するとしつつも、「一個人違反球團規範個人の球団ルール違反)」ではあるが「對駐美特派記者或深耕在地的臺灣媒體人而言,影響甚大 (在米特派員や当地で(メジャーリーグと)深く関わる台湾メディア関係者から見ると、今回の影響は甚だしく大きい)」と、メジャーリーグでの台湾メディアに対する扱いが変化することを危惧しています(換日線 2023年6月16日・大谷翔平遭「突襲採訪」:追求「獨家」的運動媒體,忘記了與球團共生)。

 一方で長年報道に携わってきた著名な業界関係者が、SNSで「採訪自有自的應變,破格,無規則,絕不會聽從別人的遊戲規則。 (インタビュー行為とは臨機応変であり、規則を破り 無規則である、決して他人のルールに縛られてはならない)」として、TVBS記者の行為を擁護する内容を投稿、これに対し2000件近くのコメントが返される事態となっています。コメントの多くがこの人物の考え方に異を唱えるものとなっているようです(陳季芳Facebookページ )。

 大手インターネット掲示板では、記者の行為を「丟臉 (恥ずかしい)」と指摘するコメントが多数を占めています。かつて王建民がヤンキースに所属していた2006年、トーリ監督への共同インタビューの途中に台湾メディアがインタビューの場から退場させられた一件がありました(台湾テレビ局の複数のマイクが監督の鼻先へ押し当てられ、さらに同じ質問を何度も繰り返したことに気分を害した監督が台湾メディア全てを途中退場させた事案です)。

 これは当時の台湾メディアの取材態度の問題点を露呈したとしてしばしば悪例として挙げられているのですが、今回も2006年の件と合わせ「台灣媒體就這水準 都沒變 (これが台湾メディアの水準だ 何も変わっていない)」、「把台灣採訪的習慣帶去國外 在國外有規定要遵守 (国内の取材態度を海外へ持ち出すとは 国外ではルールを守らないと)」等、自国メディアのインタビュー態度を嘆く声が多く見られました(『批踢踢實業坊』及び 『disp bbs』から)。

◼️自国メディアの問題点に目を向けた台湾の人々

台湾デイでの小さな出来事がトラブルに発展(三立新聞網画面から)

 筆者(葛西健二)も台湾のニュース等を見ていて取材姿勢に配慮が欠けている、身勝手だと思うことがあります。台湾の人々も自国のマスコミ態度に同じような気持ちを抱いているのだと感じました。

 なお、問題の記者はその後謝罪のコメントをSNSに投稿、またTVBSはメジャーリーグのインタビュー規則に違反したことを認めた上で再発防止に努めるとの声明を発表したことで自体は沈静化しました。

 今回の件は、台湾のメディアが、日本の選手を米国で取材する際に問題が発生したということは、それだけ大谷選手の情報がいかに台湾で求められているか、台湾での大谷選手の影響力の大きさを示すものと言えそうです。

 そして、単に「自国メディアの海外でのルール違反」だけではなく、台湾の人々が自国メディアの問題点に改めて目を向けたという点で意義深いものとなったのではないでしょうか。

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