日台の絆で実現 在台邦人ワクチン接種
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
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10月上旬から在台邦人を対象としたワクチン接種が開始されました。なかなか進まない台湾でのワクチン接種に、気を揉む日本人からようやく安堵の声が漏れました。日本政府から要請に素早く応えた台湾政府。日台の固い信頼関係と相互扶助の動きに、私は喜びと感動を憶えました。
■「友誼疫苗 (友情のワクチン)」は420万回分に
日本から贈られたアストラゼネカ製新型コロナウイルスワクチン30万回分が10月27日桃園国際空港に到着しました。これで日本から台湾へのワクチン提供は6回となり、6月4日の第一回目からのワクチン総数は420万回分になりました。
陳時中衛生福利部長は同日の中央感染症指揮センター定例記者会見上で日本からのワクチン提供は台湾のワクチン接種率向上の大きな助けになると述べ感謝の意を示しました(中央感染症指揮センター 2021年10月27日)。
また、総統府の張惇涵報道官は6回目となる日本からのワクチン提供について、各国提供のワクチンの中で提供数最多となる日本寄贈の「友誼疫苗 (友情のワクチン)」は台湾の接種率向上に大きく貢献しているだけでなく、台日の強い絆と両国間の「善的循環 良い循環」の表れであるとして、日本への深い謝意を表明しました(中華民国総統府 2021年10月27日)。
■日本政府の要請と台湾政府の迅速対応
日本提供の「友情のワクチン」は、台湾の人々だけでなく台湾在留邦人にとっても大きな助けとなっています。
台湾では6月15日から新型コロナウイルスワクチンの大規模接種が始まりました。政府は接種開始にあたり対象者を細分化、振り分けしました。開始当初の1か月は75歳以上の高齢者を接種の対象に、その後7月下旬からはワクチン供給が安定し統括的な予約システムが始動したこともあり、接種有資格者の年齢は48歳以上に引き下げられ、ワクチン接種速度の向上を図っていきます。
ところが、8月中旬にはモデルナ製ワクチンを中心に備蓄ワクチンが底をつき始め、国内で最長10日間となる接種事業の一時中止期間が発生、更に9月の新学期開始に伴う新型コロナウイルス感染拡大の懸念から、9月以降は12歳から18歳の青年層を優先にワクチン接種事業が進められていきます。
このため、19歳以上37歳以下の年齢層にあたる人々、中でもデルナ製ワクチンのみを選択した人々や、7月19日以降にワクチン予約システムで希望接種ワクチンのメーカーを再選択した人は接種の順番が後回しとなり、更なる待機を強いられることとなりました。
これに対し世間では「疫苗孤兒 (ワクチン孤児)」という言葉も生み出される等、壮年層を中心に不満と疑問の声が多く挙がっていました。台湾国内での1回目接種完了率は9月23日の時点でようやく国民全体の50%という状況でした。
■外国人の接種はどうなっているのか
遅々として進まないワクチン接種には台湾の人々も大いに気を揉んでいたでしょうが、それ以上に不安を募らせていたのは台湾在住の外国籍者ではないでしょうか。現に私も、ワクチン予約システム開放直後にワクチン接種意向登録をしたにも関わらずその後一向に連絡が来ないことから、「外国人は果たして登録完了となっているのか」との疑問が頭の中を幾度もよぎりました。
かつてコンビニエンスストアの端末を介した「マスク予約システム」の利用時には、外国人IDナンバーの配列が台湾人のIDナンバーと異なるためマスク予約が行えないという問題があったからです。
台北在住の日本人の友人も複数が同じように連絡待機の状況となっており、「また外国人は後回し」と愚痴をこぼしていました。台湾在留邦人1万3400人(2019年度內政部統計)、多くの日本人は異国の地で経験するコロナ禍に緊張とストレスを感じ、一向に回ってこないワクチン接種に不安を募らせる日々を過ごしていたと思います。
そのような中、思わぬ吉報が舞い込んできます。9月3日茂木敏充外相(菅内閣)は、台湾、タイ、ベトナムにアストラゼネカ製新型コロナウイルスワクチン計44万回分提供の決定を発表、今回の提供は現地の感染状況、医療体制、ワクチン接種状況に加え、在留邦人の接種ニーズや要望などを判断したものであると説明しました(日本台湾交流協会 2021年9月3日)。
これを受け陳時中衛生福利部長は同日の中央感染症指揮センター定例記者会見上、「在台的日本朋友 (台湾に在住する日本の友人)」に対し、ワクチン接種の為の名簿を作成すると発表しました(中央感染症指揮センター 2021年9月3日)。私の元には9月11日に日本台湾交流協会(日本の対台湾窓口機関)からアストラゼネカ製ワクチン接種意向調査のメールが送られてきました。
なしのつぶての台湾国内予約システムにいささか痺れを切らしていた私は、「これがチャンス」と接種希望登録を行いました。そして9月29日には同協会から、台北地区で10月3日~5日の3日間に意向登録をした在台邦人に対する特別接種が行われるとの知らせが入りました。日本人を対象としたワクチン接種は台北市での接種を始めとして、桃園市、新竹市、彰化市と、台湾各地で実施されるということです。
■舞台公演を控えた筆者に待望の接種証明
私は10月3日に日本人専用の接種会場として指定された台北市松山区の台安病院でアストラゼネカ製ワクチンの接種を行いました。病院の入口には日本語で書かれた接種案内板が置かれていました。
接種会場では日本語を解するスタッフが応対、また接種に関する注意事項書等現場で配布される各資料には日本語による翻訳が附されており、中国語に不慣れな人への対応もよくできていることに感心しました。
接種自体はスムーズに終了、「黃卡 (イエローカード)」と呼ばれる接種証明書が手渡されました。
台湾ではテレビや映画の撮影、舞台公演等に参加する場合、ワクチン接種証明書または自費検査による陰性証明が必須となっていることから、舞台公演を11月に控えている私としては「これでようやく」と安堵に胸をなで下ろしました。
なお、台湾ではアストラゼネカ社製の接種後の死亡事案が曾て大きく報じられていたこともあり接種後の身体状況変化に一抹の不安がありましたが、特に違和感もなく無事に帰宅できました(参照:ワクチン接種後に死亡 台湾の反応)。
ただ、接種完了12時間後から翌日夕方まで続いた38度を越える発熱は想像以上に辛いものがありました。
■互相幫忙の善的循環
在台邦人対象のワクチン接種、異国で不安な思いを抱く同胞に対する日本政府の行動に、「母国は私を忘れてはいなかった」と喜びと安堵の思いが素直にこみ上げてきました。
そして日本からの要請に誠実迅速に対応した台湾には感謝をしています。そして今回の件は、日台の良好関係及び「互相幫忙 (相互扶助)」を基とする「善的循環 (良い循環)」の表れだったのではないでしょうか。