八街飲酒暴走事故 無責任で無能な大人たち

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 千葉県八街市でトラックが下校中の児童の列に突っ込み5名が死傷した事故には、激しい憤りを覚える。伝えられる報道内容を見る限り、無責任で無能な大人たちによって子供が被害を受けたと言っていい(出典は特別な断りがない限り千葉日報「小学生の列にトラック 八街児童5人死傷事故 関連記事一覧」からピックアップした記事)。

■危険運転致死傷容疑に切り替えて送検

どうか皆様安全運転を(写真はイメージ)

 事故は6月28日、千葉県八街市八街はの市道で発生した。南武運送株式会社(親会社は南武株式会社)の運転手・梅沢洋容疑者(60)が運転する大型貨物トラックが下校中の同市立朝陽小学校の生徒を次々とはね、2名が死亡、1名が意識不明の重体、2人が重傷という大惨事。

 過失運転致死傷で逮捕された梅沢容疑者は昼食時に飲酒し、さらに居眠り運転をしていたとされ、減速せずに児童の列に突っ込んだ。現場には目立ったブレーキ痕はないという。捜査をする千葉県警では危険運転致死傷容疑に切り替えて容疑者を送検した。

 言葉を失うような凄惨な事故。飲酒運転をしていた梅沢容疑者だけでなく、危険な運転をさせていた会社、さらに、道路の整備を先送りしていた行政にも怒りが収まらない。10歳にも満たない子供が命を落とし、あるいは重篤な後遺症が残ることが確実と思われる状況で残りの人生を生きていかなければならない。子供に何の落ち度もない。悪いのは無責任で無能な大人である。

■梅沢容疑者の信じ難い遵法精神の欠如

 梅沢容疑者は過去にタンクローリーを横転させる事故を起こしたことがあるとされる。今回、酒を飲んで大型貨物トラックを運転という、プロのドライバーとして絶対にあってはならない行為をした。2005年4月に採用され、勤務態度は真面目であったという。母親の話でも幼い頃から「いい子」であったというが、帰社途中の飲酒運転であるから、どんな言い訳も許されない。

 僕も自動車を運転するし、小学生の登下校の道を通ることもある。車道と歩道が分離されていない通学路での徐行運転は当たり前で、小学生の近くを通る時は人が歩くより少し速いぐらいの速度に落とす。小学生が友達と喋りながら帰っている時には注意力が散漫になっていることは少なくない上、歩きながらいきなり車の前に飛び出してくることもあるから、運転する方としては、通常以上の注意が必要である。

 僕の運転速度が遅すぎるせいか、男子生徒がふざけて両手を広げて車の前に立ちはだかったこともある。それはそれで腹が立ったが、子供がふざけて飛び出してこられるぐらいの速度で運転をしていることの証左でもあるから、(これからも安全運転しよう)という思いも同時にもった。

 ドライバーとしてはアマチュアの僕でさえこれぐらい気をつけるのに、大型貨物トラックのプロのドライバーがどうして周囲を危険にさらすような運転に至ったのか、全く理解に苦しむ。危険運転致死傷罪は、死者が出た場合は1年以上の懲役(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)だから、梅沢容疑者は刑務所で人生を終える可能性はある。それはそれで当然であり、残りの人生は刑務所で反省と悔悟に費やしてもらった方がいいと思う。

■南武運送株式会社の安全対策に疑問

 梅沢容疑者を雇用していた南武運送株式会社、その親会社で南武株式会社の責任も重大である。まず、運転手のアルコール検査を実施しておらず、事故当日も行っていなかった。行っていたとしても、梅沢容疑者は昼食時に飲酒しているのであるから、会社として乗務を止めることはできなかったであろう。

 しかし、ドライバーに対し、飲酒運転は絶対に許されないことであるという雇用主としての姿勢を見せていたのかは疑問である。文春オンラインによると、2014年8月に南武株式会社の前身である「南武建設」が、建設現場で鉄柱が倒れ2人が死亡する事故を起こした。

 また、今回の事故車両は白ナンバーで、事業として許可を得た緑ナンバーではなかった。自社の荷物を運んでいたようであるが「同社が白ナンバーで客の荷物を運んでいるのを見かけることもありました」という証言もある。

 さらに、トラックの積載量は基準の1.5倍はあったのではないかとされ、同じ証言者は「いつもタイヤが潰れた状態で運んでくるんです」とする。違法状態を会社ぐるみで行っていた可能性があり、遵法精神の欠如が疑われる(文春オンライン:《千葉・八街“飲酒暴走“児童5人死傷》不祥事隠しで2度社名を「改名」 容疑者の勤務先親会社は7年前にも死亡事故を起こしていた!)。

 梅沢容疑者が起こした事故であるが、会社が厳格に飲酒をさせないための管理をしていれば防げた事故であったと考えると、会社も少なくとも道義的な責任は免れない。

■北村市長 現場は危険との認識

 こうした会社・運転手の無責任さによって尊い命が奪われたと思うと胸が痛む。そして忘れてはいけないのは、行政の不作為である。

 2016年11月2日、八街市文違の国道409号で集団登校していた小学生の列に2トントラックが突っ込み、4人が重軽傷を負う事故が発生した。運転していたのは19歳の少年で、自動車運転処罰法違反(過失傷害)の疑いで逮捕されている。被害に遭ったのは今回と同じ、朝陽小学校の生徒である。

 同小のPTAは2008~2011年度にかけて現場となった通学路にガードレールや歩道の設置を求める要望書を提出していた。これに対して市は、財源面などから他の交差点整備を優先させたと説明したという。市は事故後の対策として、登下校時に現場を通る児童生徒を対象に送迎バスを運行することを決めた。やらないよりはいいが、それができるのであれば、事前にPTAの要望を受けて安全対策を施すことも可能であったのではないか。

 6月30日、記者会見をした北村新司市長は「危険な通学路として認識はあったが、ガードレールなどの要望については知らなかった。十分な措置ができなかった。かつてより交通量も増えており、通学路の見直しは必要だと思っていた」と話した。

 危険を認識し、見直しが必要だと思っていたのなら、やれ、という話である。しかもPTAから要望が出されていた場所。要望が出され、見直しが必要と思っているのに、なぜ、やらなかったのか。それは行政の怠慢、無能と言われても仕方がない。

 政治において子供の命を守ることは最優先事項の1つ。八街市ではHPで「これまでの主な取り組み」として様々な実績を明らかにしているが、全てが事故現場の安全対策より優先されて行われるべきこととは到底思えない。

■無責任で無能な大人たち

 容疑者・会社・行政。この無責任で無能な大人たちが今回の悲劇を招いたと言っていい。2度とこのようなことを繰り返さないでほしいと切に望む。

 負傷した3人の児童の一刻も早い回復を祈り、亡くなられた2人の児童の冥福を祈りたい。

合掌

    "八街飲酒暴走事故 無責任で無能な大人たち"に3件のコメントがあります

    1. oisan より:

      この悲劇は、容疑者とその雇用先の会社、地元行政だけの責任によるものではなく、私達日本社会そのものから生まれた悲劇のように感じられてなりません。

      私は、日本社会は「酒社会」だと思います。何事も酒で成り立ち、酒で回っています。料亭政治、飲ませ食わせ商法、付き合い酒、合コン等々・・・
      酒そのもの、或いは飲酒自体は決して悪い事ではありません。また、酒のおかげで物事が円滑に進んでいるのは現実であります。
      しかし一方で、日本社会がどっぷり酒に溺れて、酒に対する甘えがあったり酒による不始末に寛容になり過ぎてはいないでしょうか。
      それ故、今回のような自覚や責任感に欠けたドライバーや企業が、今なお発生しているのではないでしょうか。

      飲酒運転による交通事故の被害者遺族が、飲酒運転の罰則強化を希望したところ、ひどいバッシングを受けた旨の報道を見た記憶がありますが、こうした事もその現れだったのだと思います。

      酒云々は別にして、この八街の悲劇を見てから、緊張感を持ってハンドルを握るようになりました。
      車の運転に際しては、事故を他人事と思わず、ドライバーとしての責任を常に自覚するようにしたいと思います。

    2. ななし より:

      松田さんこんにちわ
      車優先の亡霊が彷徨っています。
      歩道から車道に出る時でさえ歩行者の確認をしないドライバー、子供が横断歩道を歩いているのにクラクションで煽るドライバー、警備員が制止している横を通過していくドライバー。
      これらの行為に意味があるのでしょうか?
      そんなに急がなくてはいけない重要案件があるのでしょうか?
      そして嘆かわしいのは歩行者無視の危険運転は高齢ドライバーに多いのです。

      被害にあわれたお子様のご冥福とご回復を心からお祈りいたします

    3. 月の桂 より:

      痛ましい事故です。
      何の落ち度も無い子供達が、また犠牲になりました。親御さんなら、何故うちの子が?と思われるでしょう。本当に何故?どうして?です。危険な通学路を放置していた行政にも重大な責任があります。

      飲酒運転により大切な家族を失った方々が、何度も何度も何度も、飲酒による運転の危険性と遺された者の悲しみ辛さを訴えています。ハンドルを握っていれば、自分では防ぎようも無い避けようも無い事故に捲き込まれることもあります。だからこそ、常に予測運転をし、体調管理に務めなければならないのです。プロドライバーなら尚更であり、雇用側にも管理責任があります。

      この報道を耳にした時、直感的にこの人は飲酒運転は初めてではないな…と思いました。最初は出来心でやったのでしょうが、たまたまそれが上手くいった。次も大丈夫だった。この成功体験により、飲酒運転が重大な犯罪行為であることの感覚が麻痺していったのだと思われます。

      梅沢容疑者は生涯を刑務所で過ごすのかもしれませんが、私が被害者家族の立場であれば、私の払った税金で、この人の衣食住を賄うことなど耐えられません。この人の「生」を許すことは出来ません。

      松田さんの記事に、母親の話がありました。
      〉母親の話でも幼い頃から「いい子」で――

      この手の事故や事件では、加害者家族への取材もするのでしょうが、梅沢容疑者の年齢から考えると、母親は80歳は越えていると思われます。想像するに、息子の犯した重大事故に驚き、呆然としている状況ではないでしょうか。そんな老母に、コメント取りをする必要があるのでしょうか。
      母親は子供の頃の話をしたようですが、還暦になる息子の子供時代の話を聞いたとて、それが事故とどう関係があるのでしょう。
      人は環境や経験により、人格が形成されていきます。子供時代と変わらない性質の人間など、稀ではないでしょうか。

      私は、この母に同情します。
      今回の事故に母親は無関係です。未成年者が犯した罪ならともかく、還暦にもなった息子のことで何故、老母が取材に応じなければならないのでしょうか?ご近所の目もあり、そこでは暮らしにくくなるかもしれません。
      私にはマスコミによる私刑としか思えません。この母は、まさに報道被害者です。

      誰しも、加害者家族になる可能性がゼロとは言いきれません。特に、交通事故の加害者家族になる可能性は高い。
      家族というだけで、プライバシーを暴かれ、加害者と同一視されるのが現実です。
      これは重大な人権侵害であると考えなければならないのではないでしょうか。
      秋葉原事件の加害者の弟さんは、自ら命を絶ちました。加害者家族も苦しんでいます。

      松田さんには、いつか、犯罪加害者家族の現実も追って頂きたいと思っています。

      亡くなった子供達のご冥福と病床にある子供達の1日も早い回復をお祈りしております。

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