難航する分娩費用の保険化 第3回検討会
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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厚生労働省は21日、都内で第3回 妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会を開催した。前回に続き関係者からのヒアリングが行われ、妊産婦ら産む側の当事者からは厚労省が2026年度を目処に分娩費用の保険適用に必ずしもこだわりはないことが明らかになった。同時に地域の格差の解消や出産費用の「見える化」を望む声が多く出された。
◾️保険化ですべて負担減なのか
ヒアリングとしては2回目となる今回は妊産婦当事者と妊産婦の声を伝える者のヒアリングが行われた。妊産婦当事者は経産婦2名と現在妊娠中の女性1名の合計3名、妊産婦の声を伝える者は、(株)赤ちゃん本舗、(株)ベネッセクリエイティブワークス、一般社団法人全国妊娠SOSネットワーク(子どもと家族のための緊急提言プロジェクト)、コネヒト(株)の4者。
まず、妊娠当事者からの話があり、その後、健康保険組合連合会(宮永俊一会長)の佐野雅宏会長代理から「保険適用についての期待と不安は何か」という質問がなされた。
これに対して2子を出産したというS・Y氏(1980年生まれ)は「お金が安く済むというのを期待する。安ければ安いほどいい。できれば0円ならいい。保険適用することによって、今まで受けられていた医療が変わったりしないのかな、というところは少し不安」と話した。
現在、妊娠5か月のT・A氏(1995年生まれ)は「自己負担額が減るのを一番望む。…出産は病気ではないことは分かっているが、妊娠や出産を後押しすることはいいことだと思う」とし、1子の親であるT・M氏(1999年生まれ)は「(保険化の期待は)一番は負担額が減ること。無痛分娩でも多少でも手出しが減ればありがたいと思う。(その一方で)病院が分娩をやめちゃったらどうしようとか、選択肢が減ったらどうしようという不安がある」とする。
3名ともに、とにかく分娩費用を低くしてほしいという希望を口にした点では共通しているが、保険化による影響をどこまで理解できているのかは疑問が残った。
検討会の構成員の1人である株式会社ベネッセクリエイティブワークスのたまごクラブ前編集長の中西和代氏はこの検討会の中の発言で「保険適用イコール出費が減るというイメージだけで来ている。3割負担と今の一時金を天秤にかけた時に損をする人がいるというのに気がついているのかなという部分には疑問を感じている」と指摘している。
実際に現在の一時金(50万円)で全てカバーできている妊産婦も、特に地方では一定の数が存在する。そうなると保険化して一部(3割)負担であれば実際に手出しになってしまうのは明らかで、出席した妊娠当事者の認識は「保険化すれば全ての妊産婦の経済的負担が減少する」という思い込みをしているかのように思えた。
◾️保険化を望むと答えた者はなく
この後、妊産婦の声を伝える者4者からの報告が行われた。
赤ちゃん本舗では今年8月9日から11日にかけてアプリを利用したアンケートを実施(回答者数7500人)し、その結果を報告した。ポイントは妊娠中にかかる費用の認識としてほぼ全ての項目で90%近くが費用がかかること自体知らなかった、金額は分からなかったと答えている点。国や自治体、健保からの給付や、その他の控除についても制度への認知度が低いことなどが明らかになった。
以上の点を踏まえ、(1)各種制度(助成)の整理/見える化と情報発信から女性を受けやすい環境の構築、(2)各種手続きの工数の削減から手間を省く仕組み作り、(3)出産時以外の(産後も含めた)支援策の要望、の3点を顧客から示されたとして、検討材料とすることを要望した。
(株)ベネッセクリエイティブワークス たまひよメディア事業部は「たまひよ妊娠・出産白書2024」(web調査、有効回答数2062)に基づく報告。白書作成のためにさまざまなアンケートを実施し、「『日本の社会は、子どもを産み育てやすい社会だと思わない』母親75.0%、父親59.1%であり、2022年から増加傾向 理由は『経済的・金銭的な負担が大きい』が8-9割を占める」と結論づけた。その結果、子育て全般に関しての経済的・金銭的負担の不安があることが明らかになったとする。
一般社団法人全国妊娠SOSネットワークは、2018年1月1日以降に出産した人を対象にオンラインアンケートを実施(有効回答1228件)、その結果から分娩費用が高すぎることなどを指摘した。その上で妊娠・出産の無償化と国際水準の継続ケアの実現を求めた。
コネヒト(株)は自社の子育て支援サービス、アプリ「ママリ」で2024年7月25日から8月18日にかけて、妊娠中または出産経験者へのアンケートを行い(回答数3991)、その結果から以下の提言を行った。
(1)妊婦健診で妊婦の経済的負担軽減のため可能な限りの公費補助の充実
(2) 妊婦が効率的に、かつ納得度の高い選択が出来るよう全国各自治体ごとの公費補助額と、施設ごとの健診にかかる費用を一覧で可視化
(3)出産費用の内訳の透明化、妊婦が自身の経済状況やニーズに応じてサービスを取捨選択できること
(4) ニーズに応じた分娩方法やサービス選択ができるよう、施設の充実と、夜間・休日等でも希望の分娩方法が受けられるような医療体制の整備
(5) 産後に必要なケアが受けられるよう、メンタルケアの受け皿の整備など
(6) 費用の適正化や、申請手続きの簡略化、また子連れでもサービスが受けられるような体制の整備
◾️保険化へのこだわりの有無
以上のように4者が求めたのは、分娩費用の低廉化、費用の透明化、サービスの取捨選択を可能にすること、などであった。その中では出産費用の保険適用化を必要としていない点は注目される。
この点を踏まえ、日本産婦人科医会(石渡勇会長)の前田津紀夫副会長は、費用が少しでも安い方がいいという点に理解を示しつつも「それを保険化という手段で達成しなくてはいけないのか、費用負担を少しでも安くして安心して安全に産める環境を整えることが保険化以外で達成できるならば、それでもいいのか、あくまでも保険化にこだわるのか」と問いかけた。
これに対しては以下のような答えがあった。
赤ちゃん本舗コミュニティデザイン部・李輝淳統括部長:保険適用化については赤ちゃん本舗のアンケートでも特段そこに言及しているわけではない。どちらかと言えば出産費用、出産する時にならないと見えなかった自己負担額等、選択肢によってどれぐらい変わってくるのか、そういうものが見えないことへの不安が示されている。
ベネッセコーポレーションたまひよメディア事業部たまひよブランド広報・久保田悠佑子氏:読者は…(保険化というよりも)全体的にどうやって費用を抑えられるか、かかるお金ともらえるお金があると思うが、その情報が分かりやすく届いて…というのを一番気にしていると思う。…「保険でないと」という話ではなく、お安くできるとか、かかる費用を分かりやすくというところがポイントになってくると思う。
全国妊娠SOSネットワーク・佐藤拓代代表理事:保険化になると医療の内容が標準化できると思う。手厚いところ、プラスアルファをやっているところもあろうかと思うが、利用する側からすれば「見える化」、自分がどこで分娩するのか分かることができるということ…保険診療化してこの部分は最低限(必要)…プラスアルファここの部分は自分の持ち出しでサービスとして受けることができる、それを選択できると(制度として)考えやすくなるかなと思った。
コネヒト株式会社・青柳有香氏:一律保険適用をしたからと言って、安くなるかどうかは分からない中で…一概に保険適用をすればいいというものでもないのかなというのは感じている。費用が透明化され、何にいくらかかっているのか、その費用に対する納得感であるとか…選ぶことができることが重要になってくると思う。一律に保険適用すればいいということでなく、先の議論として深めていければいいのかなと感じている。
◾️見えてこない2026年度保険化実施
以上のように佐藤拓代代表理事を除く3名は保険適用化を費用の低廉価や費用の見える化の手段とすることについて、必ずしもそれにこだわる必要はないというスタンスであることが確認された。
佐藤氏は保険適用化に前向きな姿勢であるようにも思えるが、それでなければならない理由の明確な説明はなかった。また、提出した資料でも実際に出産にかかった費用を国が調査した平均48万円であるところを、自らの調査では64万円としている点、エステなどの費用によって出産にかかる費用が高くなったとする点、出産への手当てが厚い欧州の国と日本を比較している点を、構成員から「なぜ、そんなに金額が異なるのか」「大規模な施設ではほとんどエステなどやっていない」「進んでいる国とだけ比較するのはおかしい。たとえばアメリカではもっと費用がかかっていると思う」と指摘を受け、苦しい説明に終始した。
これらを受けて前田氏は「病気でないから保険化するなと言っているわけではないが…色々なサービス、産後ケアなど、精神的なサポートを含めたサービスが含まれてくるし、(初期費用や人件費が高い)東京が高くなる、地方が安くなるのは当たり前で、これまで我々がうまく説明をできなかったことに問題があると思う。保険化して一律に地方も東京も、同じ金額にすることに本当に意味があるのか、むしろ、他の方法を考えることが正しいのではないのかなと思っている」と改めて保険化に反対する意見を述べた。
また、日本産科婦人科学会(加藤聖子会長)の亀井良政常務理事は「妊娠出産にかかわるサービスについての情報提供のあり方、これに関してはわれわれ学会としても、反省すべきところはあると思う。今後は行政とも協力しながら、よく分かる形で検討させていただきたいと思う」と見える化に前向きな姿勢を示した上で「(費用の)100万円以上の負担はほぼ人件費にかかっている。そのあたりは一般の方に十分理解をいただいた上で議論を進めていただきたいと思う。どの地域でも産婦人科の専門家がいる、そういった体制を維持していただく形の結論を出してもらいたい」と注文をつけた。
ここまで保険化を進めたいであろう健康保険組合連合会(当然、厚労省を含む)と、保険化によって地域の医療体制が維持できなくなるとする日本産婦人科医会などの考えが対立しているのは明らかになっている。2度のヒアリングを終えた時点で、保険化しなければならない理由は明確になっていない。現時点では、政府が進める2026年度を目処に保険化は見えてこないのが実状である。