妊産婦の支援策検討会 新政権下で13日再開
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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厚生労働省保険局が実施する「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」が2か月ぶりに再開、11月13日に第5回目が行われる。9月11日の第4回終了後に自民党総裁選、衆議院総選挙があり、明日11日に発足が見込まれる第2次石破政権下で最初の開催となる。焦点の分娩費用の保険適用についてはここまでの議論では見通しが立たない状況となっており、関係者はその行方に注目している。
◾️新政権下で初の開催
第5回の検討会は都内で13日午後3時から午後5時の予定で開催される。議題はヒアリングと「出産費用の見える化等の効果検証について」とされている(厚労省・第5回「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」の 開催について)。
分娩費用の保険適用化を導入すれば現行の産婦人科の医療機関の経営に直結し、結果として世界一安全な我が国の地域周産期医療体制の崩壊につながりかねないとして日本産婦人科医会を中心に反対の声は強い(産婦人科医が不安吐露 出産費用の保険適用)。「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」は分娩費用の保険適用が中心的なテーマとなるが、第4回までの内容から、その先行きは不透明。保険適用化の本来の目的は少子化対策であるが、第2回から第4回まで関係者のヒアリングが行われた結果、制度導入の根拠が失われかねない状況となっている(少子化対策の効果「分からない」分娩費用保険化迷走)。
保険適用化は財務省の発案と言われており、菅義偉政権(2020年9月16日~2021年10月4日)下で持ち上がった。岸田文雄政権下の2023年12月22日に閣議決定された「こども未来戦略」において2026年度を目処に導入の方向で検討とされた。
ところが、第4回の検討会の時点で、岸田総理の自民党総裁選不出馬が決まっていた。厚労省としてはポスト岸田を見極めてから再開という意図があったのかもしれず、従来の1か月毎に行っていた開催だったものが、今回は2か月の間隔となったと見る者は少なくない。
結果として岸田政権の方針を引き継ぐとする石破政権が誕生したため、「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策」の検討の大きな方向性に変化はないと思われるが、分娩費用の保険適用化に限れば、第4回までのやり取りの中で、少なくとも保険適用化が少子化対策の切り札となるという関係性は証明されず、少子化対策となり得る妊産婦の負担減少という目的を達成するためには他の手段もあることが明らかにされているだけに、スンナリと決まるとは考えにくい。
◾️読売新聞報道を厚労省が否定
そのような状況にもかかわらず、第3回の検討会が行われる直前の8月13日、読売新聞は医療機関に支払われる報酬を原則として50万円以内とする、妊婦の自己負担をゼロとするなどの方向で政府が検討に入ったと報じた(読売新聞オンライン・出産診療報酬「50万円以内」、妊婦は自己負担ゼロ・現行一時金との差額支給も…政府検討)。保険適用化の是非を巡る議論が行われているさ中、既に政府内で結論が出ているとするこの報道は関係者を刺激した。
直後の第3回の検討会(8月21日)では厚労省の佐藤保険局保険課長が「『こども未来戦略』におきましては、2026年度を目途に出産費用の保険適用の導入を含め、出産に関する支援策のさらなる強化について検討を進めると閣議決定がされております。それを踏まえて、この検討会において検討策を議論していただいているところでございますけれども、もちろん現時点で政府において、その結論、方向性も含めてでありますけれども、決まった方針はございません。ですので、こういう報道というものは事実ではございません…」と強い表現で報道内容を否定した。
さらに、鹿沼保険局長も「今の段階で役所のほうで何か物事が決まっているというようなことはあり得ない話」とした上で、検討会での今後の自由な議論を呼びかける異例の展開となった。
これに対して読売新聞は10月18日に保険適用化が少子化対策の解決策にはなるのか、という検証タイプの記事を公開。(検討会で保険適用化の議論が始まっており、適用になった場合には通常3割の自己負担を妊婦には負担を求めない方針)と報じた(読売新聞オンライン・出産費用の保険適用、少子化対策の解決策になる?)。
このことは(政府が具体的な保険適用化の検討に入った)とする8月の報道を、(現在、保険適用化の是非をめぐる検討が行われており、導入されれば妊婦の負担はゼロの方針)へ後退させて、事実上、前の報道を修正したものと評価できる。
こうしてみると、鹿沼保険局長が言うように役所で何かが決まっていることはなく、保険化については今後の議論の中で決定されるという状況にあると受け取るべきであろう。
◾️即効性なら出産育児一時金増額
そもそも妊娠や分娩は疾病ではなく、国民健康保険法では、被保険者の出産については「条例又は規約の定めるところにより、出産育児一時金の支給」を行うとされている(同法58条1項)。診察や薬剤または治療材料の支給、処置、手術その他の治療、入院など療養の給付は被保険者の疾病及び負傷に限られている(同36条1項1号から5号)。
出産を疾病・負傷と同様に扱い一律保険適用というのは、国民健康保険法の趣旨からしても違和感を覚える者は少なくない。しかも、2024年の出生数は統計を取り始めて以来、初めて年間70万人を割り込む見通しとなり、少子化は加速度的に進行している(NHK・ことし上半期の出生数 約33万人 年間70万人下回るペースで減少)。
早急に対策を打つ必要がある中で少子化対策に効果が見通せない出産費用の保険適用の導入を急ぐ理由は見当たらない。即効性を考えれば、現行の出産育児一時金(50万円)を増額する方がよほど効果的である。
制度導入には石破政権の意向も大きく影響するとは思われるが、11月11日に第2次石破政権が発足したとして、いつまで続くか分からない。直近の総選挙で与党の過半数割れという大敗北を喫した総理の下、自民党が来夏の参院選を戦うことは考えにくく、夏前には政局となることが予想される。仮に積極財政派が政権を握った場合には、現行の出産育児一時金(50万円)を増額し、同時に妊産婦側が求める出産費用の見える化などを実現に切り替えることも考えられなくもない。
政治状況を見極めながら検討会は続くと思われ、新政権下で行われる初めての検討会(第5回、13日)でどのような意見が出されるのか注目される。
当サイトではこれまで通り検討会を取材し、報じていく。