侵攻で思考停止 池上彰・玉川徹氏ら掲げた白旗

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 ウクライナ侵攻で、安全保障に消極的だった人々が思考停止とも言える状況に陥っている。3月9日、池上彰氏がアエラに寄稿したが、ロシアへの甘い対応が今日の事態を招き、解決策については「何を考えればいいのか」と読者に委ねる、ジャーナリストとは思えない疑問で締めた。それ以外の言論人も、答えを出さなかったり、何の実現性もない答えを出したり、迷走ぶりが目立っている。

■池上彰氏「何を考えればいいのか」

池上彰氏(NHKアーカイブスから)

 池上彰氏はAERA2022年3月14日号にウクライナ侵攻に関して寄稿、それをAERAdot.が転載している。そこで池上氏はロシアの侵攻後に「『なんとかならないんですか』という質問を多くの人から受けている。『国連は何をしているんですか?』と詰問されることすらある。」としている。

 結論としてロシアの侵攻(暴挙という表現を使用している)より前に「国際社会が毅然たる態度を取るべきだったということだ。」とし、2014年のクリミア半島併合時に「国際秩序を力で変更することには多大な犠牲を伴うことを、もっと知らしめる必要があった。」としている。

 さらに亡命ロシア人の不審死にプーチン大統領の影がチラついており、いかに同大統領が恐ろしい人間であるかというイメージを刷り込むような記述を続けている。

 どれも事実として間違ってはいないが、それらは既に過ぎ去ったことであり、上述の「なんとかならないんですか」という質問に対する答えになっていない。どうすることもできない状態になった理由を説明しているに過ぎず、池上氏に聞きたいのは毎日ウクライナ人が殺されている現実を解決したい、まさに「なんとかならないんですか」ということである。

 それに対する答えらしきものは文末にあった。「世界史の大きな転換点を迎えたいま、私たちは何を考えればいいのか。」

 読者に質問を投げかけて終える文章が悪いとは言わないが、それは誰が見ても答えが分かっている場合に、読者に「これしかないよね?」と理解してもらうためにするのが一般的。池上氏がこの文章で自らの答えを用意しているとはとても思えない。

 ジャーナリストを名乗るなら「私では答えが出せません」という文章を公開することは恥ずかしいことであるという認識を持つべきであろう(以上、AERAdot.・池上彰、ロシアの暴挙に「世界は変わってしまった」 もっと国際社会が毅然とした態度を取るべきだったと後悔の念 から)。

■江川紹子氏ツイートの無理筋

「江川紹子の『あれやこれや』」から

 このような答えが分からないとするジャーナリストや有名人は少なくない。江川紹子氏はツイッターでさかんにウクライナ侵攻に関する情報発信をしているが、その内容には首を捻らざるを得ない。

(1)プーチンのロシア国内に対する情報統制はあまりに古典的。一方ウクライナではスマホを持つ市民は誰でも情報戦に参加可能。情報戦争は「スターリン対TikTok世代の人々」の戦い、と →ウクライナ侵攻は「第一次情報大戦」 市民も草の根で対抗(3月8日午前9時50分投稿、ウクライナ侵攻は第一次情報大戦、という記事を引用)

(2)今の状況で、ウクライナに対し、今後のこの国に何の責任も持てない人間が、引くべきとか、最後まで戦うべきとか、テレビなどで安直に言うのは最も慎むべきことの一つと思う。(3月8日午前9時13分投稿、玉川徹氏がテレビでウクライナが降伏すべきと言ったニュースを引用)

(3)「必要な時に」と。今でしょ。ウクライナからも要請されたんだから。あれこれ条件をつけずに実行してもらいたい(3月8日午前8時37分投稿、中国の外相が仲裁に言及したニュースを引用)

 (1)は戦争に関する情報発信について両国の違いを示したもので、(2)はウクライナの戦い方について安直に言及するなというもの。江川氏が求めているのは(3)中国による仲裁の実行であるが、同国はロシアの非難決議について、安保理、総会ともに棄権し、ロシアの侵攻の事実認定も拒んでいる(CNN・中国、ウクライナ侵攻の事実認定拒む姿勢維持 米に反論)。

 侵攻の事実すら認めない、ロシアの利益を代表する国の仲介でウクライナが納得する案が出されるはずがない。ウクライナが乗れるような案なら、ロシアが乗るはずもない。人道回廊に地雷を設置するような国と、相手への脅威となる力の背景なしにまともな話ができるはずがない(朝日新聞デジタル・「人道回廊ルートに地雷埋められていた」 赤十字国際委が明かす)。中国による仲裁など絵に描いた餅で、仲裁をしている間にも死者はさらに増え、悲劇の時間が長くなるだけである。

 結局、江川氏はウクライナの悲劇を止めるための具体的、現実的な案は持っていないという点で、池上氏と大差ない。

■ウクライナ国歌「我らは認めぬ 他者による支配を」

 テレビ朝日のコメンテーター玉川徹氏は、先ほど紹介したようにウクライナが早期に降伏すべきとしている(デイリースポーツ・玉川徹氏が持論「ウクライナが引く以外にない」早期に降伏すべきと発言)。

 これも信じ難い話で、ゼレンスキー大統領はキエフにとどまり、最後まで戦うとしている。国を守る指導者としては立派であるが、同時に当然のこと。降伏後に待っているのはウクライナという国が独立を失い、ロシアの属国として生きていく奴隷の平和に甘んじる暗い未来でしかない。

 ウクライナ国歌「ウクライナは滅びず」の歌詞の2番を示そう。

Станем браття, в бій кривавий, (同胞よ、戦場であろうとも)

від Сяну до Дону (我らは立とう サン川からドン川まで)

В ріднім краю панувати (我らは認めぬ)

не дамо нікому. (他者による支配を)

※YouTube・World National Anthems JP:ウクライナ 国歌「ウクライナは滅びず(Ще не вмерла України)」から

 玉川氏が自分の考えに自信があるなら、渋谷や新宿でデモ行進をしているウクライナ人の前で「早く降伏してください」「戦うより、命を大事にしてください」と言ってみたらどうか。一体、どんな答えが返ってくるか。安全な場所で、毎月の給料が保証されている日本人のコメンテーターの言葉が世界でどう受け取られるかを知ることになるであろう。

 自由を求め人々は戦い、市民革命の過程で多くの人が落命した。それでも人々が戦いをやめなかったのは自由こそが人間が人間として生きていく証であり、ある意味、命より尊いから。玉川氏が事実上18世紀以降の近代社会の歴史を全て否定し、人が人を抑圧し、自由を奪う社会を実現しろと主張するのは、自由を否定すること、人間らしさを否定することに気づいていないからと思われる。フランス国歌「La Marseillaise」の歌詞、特にリフレインの部分をよく噛み締めていただきたい。

Aux armes, citoyens ! (武器を取れ、市民よ)

Formez vos bataillons ! (隊列を整えよ)

Marchons ! marchons ! (進もう、進もう)

Qu’un sang impur abreuve nos sillons ! (汚れた血が田畑を染めるまで)

 自由の祖国フランスは、「戦争反対」「戦争より奴隷の平和」などとは言っていない。暴君からの圧政に対し、戦ってでも自由を守るという考えが国歌によく示されている。玉川氏がテレビで自由にモノが言えるのも、その源流をたどれば18世紀、フランスで流された血に由来していることを忘れてはならない。

■前提が崩れた中での主張の難しさ

妄想的平和主義と言えば辻元氏も該当か(同氏ツイッター画面から)

 このように多くの識者が答えが分からない、あるいはとても現実性があるとは思えない主張をする理由ははっきりしている。彼らが日頃、安全保障に関して集団的自衛権や核の抑止力などに極めて否定的な立場に立っており、その根拠が「戦争は絶対悪」「核兵器を世界で廃絶」「日本が攻撃されるなどありえない」「外交努力で攻撃されないようにすることが大事」などに依っていたからであろう。

 端的に表現すれば「戦争は起きない」「日本は戦争をしたがっている」「戦争をさせないために軍備を最低限にとどめる」といった考えに基づく主張と言っていい。

 しかし、ウクライナで実際に戦争が始まってしまった。「戦争は起きない」という前提で「戦争反対」「平和を」と叫んでいた人は、その前提での議論ができなくなってしまった。かといって、実際に武力を行使して武力を止めるのはこれまでの「戦争反対」の主張に反する。

 そこで池上氏は「私たちは何を考えればいいのか。」とお手上げ状態、江川氏は中国が仲裁しろと、玉川氏は戦わずに降伏しろと、ともに非現実的な解決策を口にする。このことから、彼らの日頃の主張は脆弱な前提の上に立ち、その前提だけで通用する限定的なものでしかなく、前提が覆った状況では全く機能しないことが明らかにされたと言っていい。

 ウクライナ侵攻はその意味で、空想・妄想で平和主義を語っていた人々をも抹殺したのである。

■NATOの介入を望む

 最後にもう一度、僕の主張を明らかにしておく。僕はNATO(北大西洋条約機構)がウクライナの求めに応じて飛行禁止空域を設定すべきであると考える(参照・誰も言わないなら僕が言う「飛行禁止空域設定」)。「戦争なんて起きない」という前提が崩れ、そしてロシアがウクライナに親露政権を打ち立てるためにウクライナ国民がどんなに死んでも構わないという指導者の確定的故意の下に侵攻し、人々を殺害している以上、即効性のある対策を打つ必要がある。

 そのためには強力な経済制裁では侵攻を直ちに止めることは難しい。NATOはまず戦う姿勢を見せて(これ以上、やるならこちらも黙っていない)という姿勢を見せるべき。そうすることで、停戦協議でも力を背景にしたウクライナとの交渉で変化が出るのは間違いない。

 戦闘機の供与という形で徐々に協力を拡大しているのは分かるが、時間との勝負という面もあり、まずは戦う姿勢を示すことが必要と考える。幸いと言うべきかゼレンスキー大統領からの介入の要請もあり、国際法上の集団的自衛権行使の要件は満たされている(参照・同上)。

 もちろん、NATO(加盟国である米国が中心となるのは当然)とロシアの全面戦争になる危険性はある。しかし、戦争を止めるという大きな、そして必要なゲインを得るためにリスクを恐れている時期ではない。迷っている間にもウクライナの人々は死んでいく。

 まず、NATOが戦う覚悟をして戦う姿勢を見せることが、戦争を止める第一歩と信じる。

"侵攻で思考停止 池上彰・玉川徹氏ら掲げた白旗"に8件のコメントがあります

  1. 通りすがり より:

    最適解を用意できないのに、いっちょ前に無責任な批判だけはきっちりやる。
    それがあちら界隈の常套手段。ただし今回ばかりは言い逃げが難しいようでw
    あろうことかロシア擁護とも受け取れる発言も飛び出す始末。

    池上彰お得意のウソも最近はかなり苦しいものを連発してますねw
    彼らの雇い主が特定アジアだけではないことがよくわかるというもの。

  2. 名無しの子 より:

    松田さん、今日もキレのある記事をありがとうございます。ところで、このような記事を見つけました。

    https://tweetsoku.com/2022/03/08/%e7%bf%92%e8%bf%91%e5%b9%b3%e3%80%8c%e5%85%a8%e8%bb%8d%e6%88%a6%e4%ba%89%e6%ba%96%e5%82%99%e3%80%8d/

    習近平氏、国際情勢緊迫で「全軍が戦争準備を」…軍を海外派遣する根拠法を整備へ。

    台湾有事、そして日本有事が、現実のものとなる可能性も出てきました。もう、ジャーナリストもどきの戯言に付き合っている場合ではありません。私は、松田さんと山口敬之氏の記事しか信用しないことにしました。
    ところで山口氏は、ロシア問題に対し、ウクライナ大統領を批判しています。私は最初、少し驚きました。でもよく読んでみると、意味がわかりました。隣りに敵国がいるにもかかわらず、防衛をもっときちんとしておくべきだったという意味です。
    また、このようなことも言っていました。「平和が大切などと言い、安全保障を怠ったウクライナの政治家や著名人などを軽蔑する。そして今も尚、平和主義だ、憲法を護るべきだなどと言っている日本の政治家達を腹ただしく思う。私は、日本国内を、中国の戦車が我が物顔で行き来するのを見たくはない」というようなことを。
    このような危機的状況に陥った時、人の本質が問われるのでしょうね。間違いなく松田さんと同様に山口氏は、他の「ジャーナリストもどき」と差をつけました。
    また、私はあまりテレビを見ませんが、たまに見ても、ロシア問題ばかりやっているように思います。でも今は、まさに日本の危機です。危険が迫っている事をきちんと報道し、安全保障について、現実的に議論するように持っていく事が、メディアとしてのつとめでしょう。本当に、残念でたまりません。
    最後に、松田さんが、いろいろな歌を教えて下さったので、私も歌をお送りしますね。
    「戦士の休息」野性の証明 主題歌 – YouTube
    愛する人を残し、一人戦地に赴く兵士の悲哀を歌った曲です。この二番の歌詞の最後の方を引用します。
    「あ〜夢からさめるな。あ〜美しい人よ。
    頬に落ちた熱い涙、知られたくはないから。
    この世を去る時きっと、その名前、呼ぶだろう」
    一人でも多くの兵士の方々が、愛する人の元に帰れますように、心から祈ります。

    1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

      戦士の休息、懐かしいですね。高校生の時に映画が公開され「薬師丸ひろ子って、いいなあ」と言ったら、同級生に「子供だろう! 変態か」みたいに言われました(笑)。確か彼女は中一だったと思います。

      個人的には人間の証明のテレビ版ですね。このエンディングの「騒がしい楽園」が最高でした。
      https://www.youtube.com/watch?v=8JPJ3RXpgIk

      山口敬之氏の話はwill増刊号で視聴しました。彼はその他のジャーナリストとは一味も二味も違う見解で勉強になります。戦争反対とだけ言っていた人たちは、過去の自分の発言について説明してからウクライナ後の発言をすべきと思います。

      コメントをありがとうございました。

  3. まいまい より:

    >ウクライナ侵攻はその意味で、空想・妄想で平和主義を語っていた人々をも抹殺したのである。

    同感です。
    でもそのような輩は、自分たちが「抹殺」されたことにも気づかずに、騒ぎ続けるのでしょうね。

    1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

      >>まいまい様

       コメントをありがとうございます。

       こうしてみると、その類の輩が本当に多いと感じます。政府と同じことを言っていては商売にならないというのもあると思いますし、また、ジャーナリズムの世界はそういう考えを持たないと入っていけないというような誤解があるのだと思います。

       プラハの春の時のチェコ侵攻でも同じようなことがあったのですが気付かない振りをしていたようです。ただ、さすがに今回は厳しいと思います。

  4. 秋吉万葉 より:

    今回のロシア侵攻については、本当に日本の安全保障について考えさせられる出来事でした。
    日本にも自分の国の領土を守る力や制度が必要だと痛感しました。
    しかし、社民党や日本共産党などは戦争反対、核保有反対、更にはウクライナに防弾チョッキを提供するのも反対だとか。
    戦争は良くないことなど子供だった分かることを叫ぶばかりで、それでは何も変わらないのだから具体的に何をするのか、政治家なら示して行動して欲しいわけですが。
    共産党の支持者からは、戦争反対の声を上げ続けることが政治や世界を変えるそうです。
    また、使えない核を持ったり、軍備を増やしてそちらに金を使うより、経済に回せという主張。
    しかし、声を上げている間にもロシアの攻撃でどんどん人が亡くなっている現状が分からないのだろうかと思います。
    そして、分からない人を相手に議論することの意味の無さと虚しさを知りました。

    1. 匿名 より:

      > 分からない人を相手に議論することの意味の無さと虚しさを知りました。

      本当にそうですね。不毛な議論。

  5. 月の桂 より:

    〉僕はNATO(北大西洋条約機構)がウクライナの求めに応じて飛行禁止空域を設定すべきであると考える

    私も同様に考えます。ウクライナの人々の命を救うことを第一に、NATOによる介入を求めます。国際法上の集団的自衛権行使の要件が満たされているのに行使しないのは、ウクライナを見捨てたも同然だと思います。
    有事には、人の本性が出ますね。

    明後日には、3・11から11年になります。
    あの日の瓦礫の山の光景が、今のウクライナと重なり鬱々となります。

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