台湾人の思いさまざま 52年ぶり日米共同声明
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
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4月16日、米ワシントンで行われた日米首脳会談の結果を受け発表された共同声明に、「台湾海峡の平和と安定の重要性」とする文言が明記されました。首脳会談の成果文書で台湾に言及したのは、1969年の佐藤栄作首相とニクソン大統領の会談以来52年ぶりです。
■日米共同声明に総統府・外交部が謝意
共同声明で台湾に触れた部分は以下のようなものです。
We underscore the importance of peace and stability across the Taiwan Strait and encourage the peaceful resolution of cross-Strait issues.
仮訳:日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す。
これを受け中華民国総統府は17日にコメントを発表。張惇涵報道官は、日米双方が台湾海峡安定を重視していることに謝意を示し、「インド太平洋地域の平和と安定に利益をもたらす」と歓迎しました。そして台湾海峡の平和と安定は台湾と中国の両岸関係の範疇を超え、インド太平洋地域だけでなく世界的関心となっていることに言及し、北京当局が両岸和平の責務を担い貢献を果たすことに期待していると述べました(聯合報2021年4月17日)。
また中華民国外交部も同日、今回の声明に感謝と歓迎の意を示し、台湾にとって重要な国際パートナーであるアメリカと日本そして理念を近しくする国々と緊密に協力し、自由で開かれたインド太平洋地域の実現に取り組むとのコメントを発表しました(自由時報 2021年4月18日)。
蔡英文総統も20日、自身のSNSにて今回の共同声明を評価するコメントを英語と日本語で投稿、その上で「民主主義や人権などの価値を共有する台湾は、平和で繁栄したインド太平洋を作り上げるため、これからも我々のパートナーと一緒に取り組んでいきたいと考えています」と語っています (蔡英文 Twitter)。
■国際ニュース枠のトップ記事
台湾の各メディアも日米共同声明を当日の国際ニュース枠のトップ記事として、台湾に言及した今回の共同声明が52年ぶりであることを強調し報じています。また、日米が台湾海峡の重要性を再認識し「對抗中國的挑戰 (中国の挑戦に対抗)」「組抗中陣線 (対中国陣形を組む)」ことを示したと評価しています(台視ニュースほか)。
とりわけ菅首相が台湾海峡の平和と安定の重要性を示したことに注目、菅首相が「重振反共大業 (反共の大業に再び立ち上がった)」(今日新聞 2021年4月22日)、「力圖擺脫「恐中症」 (『中国恐怖症』から抜け出そうとしている)」(聯合新聞 2021年4月19日)と好意的に論評しています。
テレビの討論番組でも共同声明を議題とした議論が交わされ、複数の専門家が、共同声明の発表は菅首相の自民党内親中派に対する「抗衡 (対立)」であり、今後のインド太平洋戦略に於いて「扮演更重要更關鍵性的角色 (より重要で鍵となる役目を担う)」と指摘しています( 三立テレビ討論番組『鄭知道了』2021年4月18日放送回)。
■国民の関心はタロコ号脱線事故?
このように各メディアで好意的に報じられた今回の共同声明、上述のようにテレビや新聞では国際ニュースとして大きく扱われ関心の高さが窺えました。ただ台湾メディアでは、4月2日に発生した台湾鉄路管理局(台鉄)の特急タロコ号脱線事故に関連した報道が多くを占め、社会的関心も多くがそちらに注がれています。
この事故は人為的ミスにより線路近くの斜面補強工事地域から作業車両が線路に落下、直後に走行中の特急列車と衝突、死者49名重軽傷者146名の大惨事となったものです(参照:台湾鉄道事故は人災 悲しみの四連休)。
その後、補強工事施工の規定違反、危険防止措置の不備、さらに作業車両の運転手と見做されていた責任者の虚偽説明(実際は不法滞在のベトナム人が当車両を操作、その後逃走)等が露見、発注及び審査を行った台湾鉄道のずさんな運営体制に非難が集中、経営体質の改善を求める声が日増しに強まっていました。
これを受け、台鉄を管理する交通部(郵政、電信、運輸、気象及び観光に関する業務全般を担当する省)のトップである林佳龍交通部長(交通相)が4月20日付で引責辞任をすることになり、一連の動静に大きな注目が集まっている状況です。
■日米共同声明は米訪問団来台の延長の印象も
この事件の最中の共同声明発表、台湾ではあくまでも国際ニュースの一つとして報じられたのが実情です。またこれに先立つ14日、クリストファー・ドッド元上院議員とリチャード・アーミテージ、ジェイムズ・スタインバーグ両元国務副長官が台湾を訪問、バイデン政権下初のアメリカからの訪問団として台湾メディアは大きく報道、政権発足後わずか3ヶ月での「拜登盟友 (バイデンの盟友)」(聯合新聞 2021年4月15日)ドッド元上院議員の訪台が大きな注目を集めました。
蔡総統は15日に代表団と会談、バイデン政権下での台米関係の強固さを再確認した、と訪問団歓迎を示しました( 中央通訊社 2021年4月17日)。16日の日米両政府による共同声明は、アメリカ訪問団来台の延長記事として扱われていたように感じます。
■一枚岩ではない台湾 米中対立を懸念する声も
自由で開かれたインド太平洋地域の一翼を担う台湾の重要性を再認識する内容が盛り込まれた共同声明、しかし当の台湾は一致団結で独立を守っているわけではありません。台湾で対中政策を担当する大陸委員会の邱太三主任委員は、現在のアメリカと中国の対立関係は、両岸(台湾と中国)の将来、発展に衝撃を与えることになるとの懸念を示しています(中央通訊社 2021年4月20日)。
国民党の馬英九政権(2008年から2016年)の対中政策は「三不 (統一せず,独立せず,武力行使させず)」という、現状維持路線を基にした両岸の経済交流発展でした。民主進歩党の陳水扁政権(2000年から2008年)時には制限されていた台湾企業の中国進出を緩和、中国観光客の受け入れや台中直行便の増加、両岸の経済的交流が盛んになりました。中国に経営基盤を持つ「台商」や中国で就業している台湾の人は今や40万人近くに達しています (2019年度 國家發表委員會 『國際人力移動』)。
また国民党と共に台湾へやってきた外省人(特に高齢者)の帰属意識は今でも「大陸」にあります(参照:高齢者で賑わう台湾の公園 外省籍が集う場も)。外省人の中には、彼らが故郷と考える中国へ積極的に投資をしている人も少なくありません。
2020年10月に台湾国際戦略学会と台湾国際研究学会が約1000人を対象に行った民意調査によると、過半数の人が両岸関係の「現状維持」を望み、台湾独立を支持する人は約1割だったということです(今日新聞2021年4月21日)。独立でも併合でもない現状を望む人、片や中国への帰属を求める人、そして独立を目指す人、それぞれの思惑が重なる台湾は決して一枚岩ではありません。
■台湾に暮らすさまざまな思いを抱く人々
台湾は、面積が九州、人口は東京都と神奈川県の合計とほぼ同じという、コンパクトな国家です。しかし、国の成り立ちからして複雑で、さまざまな思いを抱いた人々が暮らしています。
昨年、蔡英文総統が再選された際、史上最高の817万231票(得票率57.1%)を得ました。しかし、忘れてならないのは、国民党の韓国瑜候補も552万2119票(得票率38.6%)を得ている事実です。
日米共同声明が台湾に触れ、台湾が謝意を示したことで、直ちに「日米台同盟vs中国」の図式に台湾の全国民が一つになって熱狂しているのかと言われると、そこは慎重に見極めた方がいいと思います。
政治的な状況に対する国民の中の温度差は、民主国家であれば、どの国にも生じるものです。台湾もその例から漏れないという点には言及しておきたいと思います。
香港の様を見れば、次は台湾かと、心配になりますね。
日本語でコメントを出すトップなんて、そりゃ応援したくなりますよね。
そう簡単に話が進まないのが外交の難しいところですが。
日米とも踏み込んだ声明を出したのは、良いのか悪いのか。
この辺の評価は、だいぶ後の歴史で知ることになるでしょうけど。
裏で何かが進行し始めているのでしょうね。
日本も早いとこ独自の憲法を掲げないと。
台湾も独立支持一辺倒でないのは意外でした。
現状維持が一番なのでしょうか。次の総統次第もあるのでしょう。
4年ほど前、台北に家族旅行で行きました。どことなく懐かしく、
熱気があって、現地の案内人も良い人で、ご飯も美味しくて
いい思い出しかありません。
コロナが終息したらもう一度行きたいと思ってます。
またの台湾情報、楽しみにしています。
ぷんぷん丸様
コメントくださりありがとうございます。
後から振り返って、今回の日米共同声明が歴史的な変換点となるのかもしれません。
台湾では 国の将来よりもまずは自分達優先、現実的な人が多いと思います。
これも 多数の現状維持支持に関係していると思います。