台湾鉄道事故は人災 悲しみの四連休

The following two tabs change content below.
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

京都産業大学外国語学部中国語学科、淡江大学(中華民国=台湾)日本語文学学科大学院修士課程卒業。1998年11月に台湾に渡り、様々な角度から台湾をウオッチしている。
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

最新記事 by 葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼 (全て見る)

 台湾東部花蓮県で4月2日、台湾鉄路管理局(台鉄)の特急列車タロコ号408号が線路脇の斜面を滑落してきた工事用車両と衝突した事故は、死者50名負傷者200名を超える大惨事となりました。これは公営台湾鉄路管理局 (以下台鉄)過去73年間で最悪の鉄道事故です。報道を見る限り、偶発的な事故ではなく、保安・管理体制の杜撰さが引き起こした人災と言っていいでしょう。

■台湾のお盆「清明節」の悲劇

桃園野球場で掲げられた半旗(撮影・葛西健二)

 4月2日は台湾のお盆「清明節」の四連休初日、例年の帰省ラッシュと海外渡航制限による国内旅行需要の増加で、台湾国内では移動ラッシュが起きていました。私は4月1日と2日に私用で台湾高速鉄道(台湾新幹線)搭乗の必要があったのですが、例年の清明節連休だと当日も購入可能な昼間の座席指定券が二日前には売り切れとなり、今年は立ったままでの移動を余儀なくされました。

 断崖絶壁が続く台湾東部を縦断する台鉄北回り線、その特急列車タロコ号は帰省客や観光客からの人気が高く、もともと座席券購入が難しい列車として知られています。特に今年の清明節のお盆帰省時運行便の指定席券は国内移動の増加を受けて早くに売り切れとなっていました。今回の惨事となったタロコ号408号も指定席乗車372人に加え自由席122人と、満席状態で台湾南東部台東県へ向け走っていました。

 運輸安全調査委員会の発表によると、午前9時28分ごろ花蓮県秀林郷の大清水トンネルに入ろうと時速130kmで走行中の408号は、斜面補強工事区域へ至る落下防止策の講じられていない道路から約1分前に線路へ落ちてきた工事用車両と衝突脱線、先頭から5車両がトンネルの壁に激突しながらトンネル内に侵入、停車しました。ニュースで伝えられたトンネル内で変形した車両の映像が、衝撃の凄まじさを物語っています。

 帰省と観光で最も混雑するお盆初日午前の特急列車の目前にありえないタイミングで大型工事用車両が滑落してくるという最悪の事態、政府はただちに「台湾鉄道災害対策センター」を設置、中華民国軍も出動し災害救助にあたりました。

 民間からの義援金も多く寄せられ、4月3日から4月30日まで受け付けられる民間からの義援金は開始からわずか3日間で6000万元(約2億1000万円)を超えました。全国では弔意を示す半旗が3日間掲げられ、連休中に行われる各地のイベントでは黙祷が捧げられました。

■斜面補強工事区域の安全施策問題

 列車に衝突した工事用車両が関わっていた事故現場付近の斜面補強工事について複数の台湾メディアは、台鉄が清明節四連休中の工事一時停止を通達していたにもかかわらず当工事用車両の運転手である建設会社の責任者を含め複数人が事故発生時に工事区間にいたことを、事故当日朝に撮影された監視カメラの映像(古タイヤを満載して走る当工事用車両)や、事故直後に乗客が撮影した画像(現場に複数の工事関係者がいる)を交え報道、連休中に無断で作業が行われていた可能性に言及しています(自由時報 2021年4月5日)。

 そして工事用車両の滑落原因は当初伝えられていたサイドブレーキのかけ忘れではなく、運転を誤って茂みに嵌まった当車両を重機(油圧ショベル)で引き上げていた際に滑落させたとして、当工事責任者の説明が虚偽である可能性を指摘しています(三立新聞 2021年4月8日蘋果日報 202148)。

 行政院公共工程委員会は4月8日、斜面補強工事について別の建設会社が施工を請け負ったものを当運転手である建設会社の責任者が担当していたと述べ、工事に規定違反があった可能性を指摘しています(中央通訊社)。また台鉄は補強工事施工の規定違反を台鉄の審査でも見抜けなかったとして、審査担当部署の責任を追及する方針を示しました(三立新聞 2021年4月4日)。

 さらに事故当日、台湾最大の掲示板「PTT」にて本年1月1日に事故現場を通過するタロコ号の先頭車両から撮影された映像が紹介され、大きな反響を呼んでいます。線路に隣接し、ブロックやガードレール等転落防護措置が執られていない工事用道路をカメラは捉えており、少なくとも事故発生までの約3ヶ月間問題の工事区域では何の安全対策も執られていなかったことがわかります。台湾メディアもこぞってこの映像を紹介しました(ETtoday 2021年4月2日)。

 為什麼旁邊有工地卻沒有裝個護欄,看來管理也問題 (なぜ隣が工事区域なのにガードレールが設置されていないんだ、管理にも問題があるぞ)

 真扯,完全沒圍欸 (ありえない、まったく<柵で>覆われていないよ)

 問交通部啊,發包施工沒監督 (交通部に問い合わせろ、工事の発注をしていながらしっかり監督していない)

 台灣工程SOP真的很差 (台湾の施工標準作業手順は酷すぎる)

 このように、工事現場の安全対策や運輸担当である交通部への批判の声が多く挙がっています(PTT 批踢踢實業坊「太魯閣駕駛反應時間是不是很短」、YouTube映像は1時間59分44秒から問題の工事用道路と事故現場通過の映像を視聴可能)。

■台湾総督府鉄道から台鉄へ その問題点

滑落現場に隣接する転落防止対策のとられていない工事用道路(YouTube画面から)

 今回の直接的な事故原因は滑落した工事用車両運転手の過失にありますが、台湾社会では台鉄の管理体制や運営体質に対する批判の声も多く挙がっています。日本統治時代に運行されていた台湾総督府鉄道は1945年公営事業である台鉄に移管され現在に至ります。一方、2007年開業の台湾高速鉄道(台湾新幹線)は民間企業が運営しています。

 台鉄に対しては「よく遅延する」「危険(脱線事故が多いため)「サービスが良くない」といったあまりよくない声を耳にします。かたや、台湾高速鉄道は「定刻通りの運行」「安全」「快適」等、高い評価を得ています。私は台湾高速鉄道を頻繁に利用します。隣り合わせで並ぶ台鉄と台湾高速鉄道の駅を見比べると、台鉄の駅は設備自体も古く照明も控えめです。お隣の台湾高速鉄道の駅は近代的設備で照明も明るく、対照的です。また台鉄は運行状況も「誤點 (遅延)」と記されているのをよく目にします。

 公営(台鉄)と民営(台湾高速鉄道)の違いはありますが、私自身は台鉄に対して比較的ネガティブな印象を抱いています。台鉄は約3年前の2018年に同じ北回り線で特急プユマ号事故を起しました。これは運転手のミスによる速度超過が原因で、死者18名負傷者215名の大事故となりました。台鉄はこれ以前にも1981年に新竹市で脱線事故(死者30名重軽傷者130名)、 1991年苗栗県で列車同士の衝突事故(死者30名重軽傷者112名)、2012年桃園県で脱線事故(死者1名重軽傷者25名)を起こしており、相次ぐ列車事故に台鉄の管理体制改善を求める声はプユマ号の事故を受けさらに高まっていました。

 今回の大事故の直接的原因は上述のように工事用車両の滑落ですが、斜面補強工事を発注したのは台鉄であり、事故の再発を防ぐことができなかった台鉄に体質改善を求める声は更に強まると思われます。

■人災防止に向けた対策を

 「車両の滑落が列車通過後だったら、滑落場所がカーブの先ではなく見通しの良い直線区間だったら、衝突地点にトンネルがなかったら、高速特急ではなく普通区間の列車だったら、連休初日でなかったら」…様々な条件が最悪のタイミングで重なり合って起きた今回の惨事。重要なのは「工事用道路に落下防止の柵が設置されていたら」、車両滑落が起きる可能性は低くなっていたということです。

 今回は保安・管理体制の杜撰さが引き起こした人災です。このような事故が二度と起きないためにもあらゆる点で改善改正が為されることを願っています。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。