GDP世界4位に転落へ 格差社会批判も一因か

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 2023年の日本の名目GDPがドイツに抜かれ世界4位に転落する見通しとなっている。既に5位のインドが後ろに迫っており、「経済大国」「世界第2位のGDP」という聞き慣れた修飾語は遠い過去のものになりつつある。

◾️脱力感満載の企業時価総額ランク

日本企業の存在感のなさ…

 IMF(国際通貨基金)の予測では日本のドル換算の名目国内総生産は前年比0.2%減の4兆2308億ドルで、ドイツは同8.4%増で4兆4298ドルの見込み。12日付けの産經新聞が1面で報じているが、GDPの4位転落は円安の効果もあり、十分に予想されていたことであった。

 2023年1月時点のドル円相場は1ドル132.70円だったが、11月10日時点で151.52円と、14%を超える下落となっている。2023年の経済成長は概ね1-2%と予測されているが、ドル換算では減少するのは避けられない。

 この原因を産經新聞の万福博之記者は円安、低物価、低賃金という「安い日本」が定着したことを原因としており、「低金利下にありながら成長戦略を欠いて、投資や賃上げを活性化できずに、安い日本が定着してしまった」と解説している。

 異次元の金融緩和策をとっていたことは、デフレ退治という名目はもちろんのこと、要は市中に出回る通貨量を増やして経済を活性化させる目的があったのは言うまでもない。ところが、肝心の企業の側に設備投資に費やすマインドが欠けていたら、あるいは起業を目指す者への投資に対してリスクを過大評価し、そのハードルを高くしていたら、市中の通貨は銀行の中に眠ったままという事態も想像できる。

 実際に世界の企業の時価総額のランキングを見ると、1989年にはトップ10に日本企業が7社がランクインしていたものが、2023年10月には最高でもトヨタ自動車の38位という有様。バブル経済の時代を知る者にとっては、脱力感を覚える代物である(Think 180 around・世界時価総額ランキング2023年10月)。

◾️格差社会への批判が成長力を削ぐ

 経済には素人の筆者があれこれ言うのもおこがましいが、こうなった原因の1つに格差社会への批判があったように思う。特に安倍政権下で格差が広がっているという趣旨の政権批判が出ていたことは記憶に新しい。

 格差の拡大は中心は富の再分配が不十分であることを指すことが多いが、こうした批判は「金持ちは悪いこと」「儲けた分を貧しき者のために吐き出せ」といった価値観に支えられているかのように見える。再分配の象徴が累進課税制度であるが、2023年1月時点で日本では所得税の最高税率が45%で、米国の37%よりは高いものの、英独仏の三カ国とは同水準にある(財務省HP・主要国における所得税率の推移の比較)。

 他の先進諸国と比べて日本が再分配について富裕層に甘いという評価は当たらないように思われる。稼いだ人は多くの税金を払えというのも度を超えると、頑張って稼いだ人を(どんなに稼いでも、怠け者のために吐き出さないといけないなら、馬鹿馬鹿しくてやってられない)という気持ちにさせてしまう部分はあるように思う。支払う側のノブレスオブリージュ的な発想にも限界がある。

 競争こそが経済の発展を生み出す源泉であると思うが、その競争の勝者が得られる果実を競争の敗者や不参加者のために多く費やすことを強制するのは競争そのものの否定であり、経済成長を阻害する要因となりうる。それを弱者の論理で正当化し、気がつけば年々経済はドルベースでは縮小、結果、日本の世界での相対的地位の低下が止まらない。それが2023年の日本の現在地であるように一国民として感じている。

◾️ユニコーン企業ランクも日本番外地

 ここで、前出の世界の企業の時価総額のランキングをあらためて見ていただきたいのだが、トップ10のうち7社は1970年代以降に設立された企業であることに気付く。バークシャー・ハサウェイ社の創業は綿紡績事業の会社設立年であり、現在の投資業が本格化したのが1970年代からということを考えれば、実質、トップ10のうち8社である。かつてはトップ10の常連だったIBMも今は50位以下。企業の興亡はこのように激しい。

 日本ではそのような新興企業が大きくなった例としては、ファーストリテイリングが1963年、キーエンスが1974年、ソフトバンクが1981年、楽天が1997年といったところ。日本ではトップ企業となっているが、世界的に見れば、まだまだである。

 「ユニコーン企業」と呼ばれる企業群がある。これは評価額10億ドル以下、設立10年以内の未上場ベンチャー企業を指すが、その世界ランキングを見ると、1位バイトダンス(中国)、2位スペースX(米国)、3位SHEIN(中国)といった状況で、上位に日本企業の名前は見えない(CB INSIGHTS・The Complete List Of Unicorn Companies)。

 社会の変化を見据え、「1発当ててやろう」という若者の”山っ気”が社会を豊かにする原動力になっているのは間違いない。山っ気が成功する可能性は決して高くないが、だからこそ社会全体で支援し、山の裾野を広げて頂上を高くする工夫をしなければならない。それも重要な経済政策である。

◾️岸田政権のスタートアップ育成計画

写真はイメージ

 2022年11月に政府は「スタートアップ育成5か年計画」を策定した。これによると起業への投資を5年で10倍(8000億円から10兆円)とし、スタートアップ10万社、ユニコーン企業100社を目標とするという。

 ようやく日本も起業を促進する政策に舵を切ったかと思うが、それにしても遅い。もう少し、早く出来なかったのかと思う。本来、こうした政策を主張すべき野党が格差社会の弊害ばかりを訴え、成長よりも再分配に国民のマインドを向かわせていたのではないか。そして与党も長期的な視野を持たずに、目先の選挙を考えて成長戦略を後回しにしていなかったか。

 そうしたことが現在の日本の凋落につながっていると考えることもできる。もういい加減に裕福層は悪、貧しき者こそが正義、競争社会を否定という考えを捨ててはどうか。最低限のセーフティネットの重要性は言うまでもないが、大勝ちする者を生み出さない社会システムは夢のない社会とほぼ同一であることに、政府も国民も意識してほしいと感じている。

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