決選投票のカギ握る麻生太郎氏

The following two tabs change content below.
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

最新記事 by 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 (全て見る)

 9候補が乱立した自民党総裁選の最後のカギを握るのは麻生太郎氏と思われる。高市早苗氏への投票を指示したなどの報道が先行しており、ここに来ての動きを見ると高市政権誕生を目指しているように見える。

◾️「日本の将来を考えないと」の意味

麻生太郎氏(公式サイトから)

 総裁選を2日後に控えた25日、NHKから注目すべき報道がなされた。各候補が議員票の上積みを目指して激しく動いていることを伝えるもので、その中で上川陽子氏に関する部分である。

 「上川外務大臣は25日午後、議員会館の麻生副総裁の事務所を訪れ、およそ15分間面会しました。同席した議員によりますと、上川氏は『最後まで頑張りたい。応援してほしい』と述べ、麻生氏は『日本の将来を考えないといけない』などと述べたということです。」(NHK・自民総裁選 27日に投開票 議員票の上積み目指し動き激しく

 15分の面会の中の一部分を切り取ったものであろうが、上川氏と麻生氏のやり取りが食い違っている点に注目したい。引き続き支援を求める上川氏に対して麻生氏も「頑張れよ」ぐらいは言ったかもしれないが、「日本の将来を考えないといけない」という言葉もかけているわけで、これには様々な意味が含まれていると考えるべき。具体的には以下が考えられる。

(1)我々は1回目の投票までは支援するが、その先は日本の将来を考えないといけない。

(2)上川氏も決選投票では日本の将来を考えて行動してほしい。

 もっと分かりやすく言えば、「決選投票では高市を支援せよ」ということである。報道では19日に麻生氏は「高市に入れろ」と指令を出したと報じられている(FRIDAY DIGITAL・「日本の将来を考えないといけない」)。もともと上川氏は出馬に必要な推薦人の確保に悩んでおり、最終的に麻生派から山口俊一氏、井林辰憲氏ら9人に推薦人になってもらい立候補にこぎつけた。麻生氏がいなければ立候補もままならなかった。現状、上川氏が決選投票に進む可能性はゼロに近い。その場合は上川氏に日本の将来を考えて自分が推す高市氏を頼む、というのが麻生氏の言葉の真意であるように思われる。

 上川氏についた麻生派の9人は決選投票で高市氏に投票することになるであろうし、それ以外の推薦人も上川氏の意向を汲むことは十分に考えられる。おそらく上川氏支持の多くが決選投票では高市氏に流れると思う。

◾️キングメーカーとしての責務

 報道を見ると、麻生氏の行動原理はキングメーカーとして自らの影響力を保持することのみに汲々としているように感じられるが、これも報じ方次第である。リベラルから保守系までウイングの広い大政党にあっては、各政治家は考えの近い人と連携して政策を実現していくことを目指すのは当然。それが自民党内の派閥になっているわけで、それ自体は責められることではない。そうしなければ自民党のような大政党は政権運営の機能を果たせないからである。

 麻生氏のように実力のある政治家は自身が首相になって目指す政策を実行することが可能であるが、首相在任期間だけで全てを成し遂げるのは困難。そうすると自らの政治信条に近い人に責任ある立場に立ってもらい、自らの政策を実行してもらうことを目指すしかない。そのために派閥を利用し、時にキングメーカーとなるわけで、それ自体を悪であるかのように報じるのは偏った価値観を国民に植え付けるに等しい。

 悪いのは派閥が利権集団になって私利私欲を満たすために行動する政治家が出てくることであり、公私混同、違法な資金集めは断固として排除する必要がある。そのような派閥のマイナス面を排除して健全な運営をしてくべきであり、マイナス面を解消するためにメリットも捨てて全て解散してしまえというのは暴論であろう。おそらくそうしたことを考えて麻生氏は派閥を解消しなかったものと思われる。

 そのような背景を考えれば前出の「日本の将来を考えないといけない」という言葉は、麻生氏が考える理想に近い日本を作り出すために努力するのが自らの責務であり、それに協力してほしいといった意味を持つ。

◾️小泉進次郎氏の動きの真意は?

小泉進次郎氏(自民党HPから)

 麻生氏のもとに24日、小泉進次郎氏が訪れ、支援を求めた(共同通信・小泉進次郎氏、麻生副総裁と面会 「力を貸してください」)。党員・党友票の郵送がほぼ終了したのを見越してのタイミングと思われるが、いかにも時機に後れている。仮に告示前後、小泉氏が圧倒的有利と言われる状況下で要請していれば、派閥全体として冷飯を食わされることを免れたいと考える麻生氏も1回目の投票から力を貸す可能性はあったかもしれない。

 ところが小泉氏の評価が急落、決選投票に進むのが難しくなり、かつ、麻生氏が高市氏支援にハンドルを切った後に頼みに行くのであれば支援の条件は厳しくなる。麻生氏にすれば小泉氏を支援して総理大臣になっても菅義偉氏の強い影響下にある小泉氏では自らの考える政策を実行してもらえる保障などないから、全力で応援する気にはなれない。

 この時期の依頼、要請に対しては支援の方法も、決選投票で小泉vs石破になった時だけという限定的なものにならざるを得ない。逆に小泉氏も手ぶらで「応援してください」と言っても聞いてもらえるわけはないため、勝った場合にはポストを用意するのは当然として、自らが決選投票に進めない場合は高市氏を支援という交換条件は持ち出しているはず。そうなると、石破vs高市の決選投票になった場合、小泉氏支持のグループは高市氏に一定程度流れることは想像がつく。

 また、小泉氏は既に石破氏と2、3位連合を組んでいる可能性はある。その場合は高市氏1位、石破氏2位なら、3位の小泉氏は決選投票で石破氏に入れ、高市氏1位、小泉氏2位なら、3位の石破氏から支援を得られるというもので、仮に石破氏が1位の場合には石破氏に投票する義務はない。石破氏が1位の時に高市氏を推す麻生氏と2、3位連合を組みましょう、というのが支援を求めた理由かもしれない。小泉氏と麻生氏の話し合いが決裂している可能性はあるが、可能な範囲での協力で合意できていれば小泉陣営の票が高市氏に流れる。

◾️コバホーク どこに向かって飛ぶ

 高市陣営としては石破氏との決選投票では上川・小泉陣営からは一定の票が期待できる。別の陣営を見ると、小林鷹之氏はどうか。多くの議員票が集まっているとされるが、小林氏自身は前回2021年の総裁選では高市氏の推薦人であった。それが今回、真っ先に名乗りを挙げ、高市氏の立候補を難しくした。

 仮に決選投票で再び高市氏の相手陣営に投票することがあれば、高市政権誕生時には「最も許し難い敵は小林鷹之」という位置付けになってしまう。2025年秋までに行われる総選挙で小林氏の推薦人の多くは公認されないかもしれず、小林氏も高市政権が続く限り冷飯を食べ続けることになりかねない。

 小林氏がそこまでのリスクを負う必要などなく、石破vs高市なら、文句なく高市氏への投票が考えられる。そうすれば、小林氏を最も推したと言われながら推薦人にならなかった福田達夫氏が高市政権で閣僚となることは可能であろうし、小林氏自身も入閣や党内でのポジションを得られるかもしれない。そうなると、小林氏陣営の多くが高市氏に流れるのではないか。

麻生氏と高市氏(ともに公式サイトから)

 河野太郎陣営は推薦人は18人が麻生派で、こちらはほぼ決選投票で高市氏であろう。残るは林芳正氏、加藤勝信氏、茂木敏充氏である。この中で政治信条が高市氏に近いのは加藤勝信氏であろう。菅義偉内閣での官房長官という関係から、小泉氏が決選投票に残れば、そちらの支援に回ると思うが、石破vs高市となれば、安倍内閣で拉致問題担当大臣も務めた経緯もあり、政治信条が近い高市氏支援に回るように思う。

 これに旧安倍派の一部が世耕弘成氏(裏金問題で離党)を中心に会合を開いていると伝えられており、小泉氏も世耕氏と24日に面談している。世耕氏を中心とした旧安倍派が仇敵の石破氏を倒すためなら小泉氏を支援する可能性はあるかもしれないが、石破vs高市なら間違いなく高市氏の支援に回るであろう。

◾️茂木派と旧岸田派はどう動く

 こうしてみると、石破vs高市で石破陣営に行くのではと思われるのは、塊としては茂木派と旧岸田派(林芳正氏)あたりか。

 以上、分析を続けてきたが、あくまでも報道などをベースに検討したものにすぎない。また、27日当日までに状況が変化する可能性はある。

 それでも麻生氏が総裁選の最後の決定権を事実上握っているのは間違いない状況であり、麻生氏の影響力によって高市政権が誕生する可能性は十分あると考えられる。

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です