藤田菜七子騎手 処分も引退も当然

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 JRA(日本中央競馬会)の藤田菜七子騎手(27)が11日付けで現役引退した件について、筆者は処分も引退も当然と考えている。今回の騎乗停止は二重処分ではないか、JRAに落ち度ありなど、藤田元騎手がかわいそうと主張する声がSNSを中心に見られるが、報道されている内容からは処分は妥当で、突然の引退の理由も周囲の事情を考慮すれば当然のことと思える。

◾️騎乗停止発表翌日に引退

10日発売の週刊文春から

 9日に文春オンラインが、藤田騎手のスマホ不正使用疑惑を報道。調整ルームにいる時間帯に外部とメッセージのやりとりや通話の事実を確認していると報じた(文春オンライン・《証拠データ入手》JRA騎手・藤田菜七子(27)に“スマホ不正使用”疑惑「SNSのやりとりには日時も記録されており…」)。

 同日17時頃にJRAからの聞き取り調査に対して藤田騎手は2023年4月までに「複数回に渡り外部と通信をしたことを認めた」(netkeiba・突然の引退劇!藤田菜七子騎手は「虚偽の申告および他者との通信」についての処分 JRAが経緯を説明)。

 翌10日にJRAが藤田騎手の騎乗停止処分を発表。それによると「2023年4月頃まで複数回にわたり、調整ルーム居室内に通信機器(スマートフォン)を持ち込み、通信していたことが判明しました。…本会の騎手として重大な非行があったものと認められるため…本事案について裁定委員会に送付するとともに…裁定委員会の議定があるまで同騎手の騎乗を停止することとしました」(JRA・騎手 藤田 菜七子の騎乗停止)と、文春オンラインの報道を肯定するものであった。

 9日発売となった週刊文春10月17日号を見ると、藤田騎手は申告したインターネットの閲覧だけでなく、LINEでメッセージのやり取りをしていたことが明らかにされている。これに対して同騎手は騎手免許の取消申請を行い、11日付けで騎手免許が取り消された(同・藤田 菜七子騎手の引退)。

◾️当初の説明を覆す

 そもそものきっかけは2023年5月3日付けで今村聖奈騎手(当時19)ら6人が、競馬開催中にスマートフォンを不適切に使用したとして30日間(開催日10日)の騎乗停止処分を受けたことに遡る。この時、6人の騎手は本来、調整ルームや競馬場での携帯電話の使用が禁じられているにもかかわらず使用したことで、日本中央競馬会競馬施行規程第147条19号の「競馬の公正確保について業務上の注意義務に違反した者」に該当するとされた。

 6人の騎手はオッズや騎乗馬の動画などを見ていたそうで、そのうち2人は外部の者と通信をしていたと認定された。そのため騎乗停止処分となったが、実はこの時、藤田騎手も事情聴取に対して、YouTubeとツイッター(現X)を閲覧したことを申告し、厳重注意を受けていることが藤田騎手の師匠である根本康広調教師によって明らかにされた(Sponichi Annex・【藤田菜七子が引退届】師匠・根本師「辞めたくないよ、菜七子も。でも本人に納得いかない部分がある」)。

 ただし、その際、外部との通信はしていないと説明していたという(J CASTニュース・藤田菜七子騎手のスマホ使用は「二重処分」? JRAは反論、聞き取りで「他者との通信」めぐりウソあったと説明)。

東京競馬場(撮影・松田隆)

 こうした事情から、JRAは二重処分ではないか、あるいは騎手を辞める必要はない、といった声がSNS等を中心に上がっている。

 しかし、この問題は二重処分にあたらないのは明白である。そもそも処分とは「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」(最判昭和39・10・29)とされる。JRAは農林水産大臣の監督下に置かれる、日本中央競馬会法に基づく特殊法人であるから、同様に考えて差し支えないであろう。

 そうなると、施行規程上の処分とは、たとえば騎手免許の取消し、騎乗停止、あるいは戒告などが相当し、厳重注意は「今後気をつけろよ」と言われるだけで権利義務に何ら影響はないから処分性はないと考えていい。つまり、藤田騎手はこの件に関して何の処分も受けていないのであるから、二重処分の類には当たらない。

 その上、厳重注意を受けた時には、外部との通信はしていないと虚偽の説明をし、実際には通信していたと報じられ、自身もJRAの聴取に対してそれまでの説明を覆して通信の事実を認めたというのである。

◾️なぜ翌日に現役引退?

 多くの人が不可解に感じるのは騎乗停止処分とされた翌日に現役引退をしたことであろう。しかし、これは考え方によっては、ある種当然と思える。藤田元騎手は今年7月にJRAの職員と婚姻している。

 JRA職員は競馬の公正確保が最大の使命と言ってよい。ところがその夫人が騎手として、競馬施行規程147条19号の「競馬の公正確保について業務上の注意義務に違反した者」として、騎乗停止処分となったのである。その上、その義務違反について虚偽の申告をして処分を免れていたというのであるから公正競馬の根幹を揺るがしかねない悪質な事案と言える。

 JRA職員の身内に公正競馬を揺るがしかねない行為を行った騎手がいれば、その職員を通じて公正が害される危険性は否定できない。そうなると、当該職員は少なくとも審判関係などに従事させられない。筆者が当該人であれば藤田元騎手に「何で嘘をついていたんだ」「嘘をついている間に僕と結婚したのか」と責めたくなるであろうし、職員自体、JRAに居づらくなるのは避けられない。

 実際、そのようなやり取りがあったのかどうか分からないが、夫が公正競馬確保のため日々頑張っていますという横で妻が公正競馬を害した可能性があるため競馬に出られませんという状況を1日でもつくるわけにはいかず、そのためには自ら身を引くしかないと考えての引退だったのではないか。

 自らの行為で夫に迷惑をかけて夫婦共倒れになるよりは、自身が競馬の世界から身を引き、おそらく事案とは無関係の夫に累が及ばないようにするのが人としての責任の取り方というものであろう。その意味では当然の選択をしたと言える。

 本来であれば、その間に公正競馬を害する行為を行っていなかったか、JRAは十分な調査を行うべきところ、藤田騎手の現役引退によって事実上困難になったのはいかがと思うが、夫を通じて調査が可能という担保を得ているのかもしれない。そうであればグレーな状態がズルズル続くよりは、ここでケジメをつけるべきという判断は間違っているとは思えない。

◾️根本調教師の責任

藤田元騎手(公式インスタグラムから)

 最後に根本調教師について。藤田騎手が大泣きして引退の書類を書いたというお涙頂戴の話をするのはいいが、まず、自身が事実の隠蔽、虚偽の説明に関与していなかったかどうかを明らかにすべきと思う。

 仮に藤田騎手に虚偽を言うように指示していたとしたら、責任は重大である。全く知らなかったとしたら、管理責任を問われる。いずれにせよ、根本調教師は全く責任がないわけではないことは意識すべきであろう。

 報道を見る限り、そうした責任を感じるより、JRAを批判する立場をとっている(Sponichi Annex・大泣きしながら万年筆で…菜七子、電撃引退 JRA過去の違反さかのぼり処分「虚偽申告が…」)のは、あまりに常識が欠如しているように感じられる。

 厩舎村の常識は世間の非常識と言われることが多い。今回の件を見ていると、筆者が仕事をしていた90年代と本質的に厩舎世界のモラルハザードは変わっていないことを思わされる。

    "藤田菜七子騎手 処分も引退も当然"に2件のコメントがあります

    1. nanashi より:

      少なくとも最初の聞き取り調査で嘘を吐かなければ、この様な引退劇にはならなかったでしょう。
      「時代が変わっているのだから…」とか言う人もいますが、公平性を保つ為には厳重な処分になる事は致し方無いと思います。
      こう見ると、若手騎手(特に美浦所属)が中々台頭出来ないという状況が出来てしまい、それに焦りを感じているから、この様な不正行為に走ったという可能性があるかもしれません。
      美浦を強調する理由は、美浦の有力厩舎は、馬主(特にクラブ法人)や生産者の意向に伴い、ルメール騎手などの栗東所属の有力騎手に鞍上を託すケースが多く、その事から若手を中心にチャンスを失うケースが発生しています。
      また、有力馬に鞍上が被り、同じレースに出走させれば、共倒れになる可能性も考えられる事から、使い分けをして鞍上を確保するというケースも目立っています。
      そのため、ベテラン騎手も含め騎乗機会を求め、所属は美浦のままで、栗東を拠点にする騎手も出ています。
      秋華賞までのGⅠを見ていると3歳牝馬路線に限り、美浦所属馬が勝利していますが、そのうちの2勝(優駿牝馬、秋華賞)は何れもルメール騎手によるものです。
      残りの1勝(桜花賞)もモレイラ騎手で、美浦所属の騎手での勝利ではないのです。
      美浦所属の騎手での勝利となると、栗東所属馬だけになり、横山和生騎手(ベラジオオペラ)、戸崎圭太騎手(ジャスティンミラノ)、津村明秀騎手(テンハッピーローズ)、横山典弘騎手(ダノンデサイル)、菅原明良騎手(ブローザホーン)の5人です。
      言い方がキツいかもしれませんが、美浦有力厩舎の「ルメール依存症」や「外国人騎手依存症」が如何に酷いかという証拠でもあります。

      1. 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 より:

        小さな嘘をついたために職業も経済力も名誉も、全てを失ったのは間違いなく、「少なくとも最初の聞き取り調査で嘘を吐かなければ、この様な引退劇にはならなかったでしょう。」はその通りだと思います。

        最初は「大泣きして引退届を書いた」などの話から、JRAを批判する声が強かったように思いますが、徐々に実態が分かってきて、引退も当然という声が強くなってきているように感じます。

        外国人騎手への依存は、やはり馬主も厩舎関係者も勝ちたいから仕方がないのでしょう。優勝劣敗は馬だけでなく、騎手にも当てはまる世界です。ただ、それがひどい状況になれば、業界そのものが衰えていくことは覚悟しないといけないと思います。

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