「国は理解」26年度見送り分娩費用の保険適用
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
最新記事 by 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 (全て見る)
- 「国は理解」26年度見送り分娩費用の保険適用 - 2025年1月9日
- 毎日•スポニチ王将戦から撤退 終焉は近い… - 2025年1月8日
- 森永卓郎さん頑張れ かつての編集協力者エール - 2025年1月6日
分娩費用の保険適用化の問題について8日、日本産婦人科医会の石渡勇会長が、制度導入に反対する同医会の立場を政府が理解している認識を明らかにした。同日、都内で開催された記者懇談会の場で語ったもの。当サイトの調べでは2026年度を目途に導入という当初のプランは既に見送りが決まっているが、それを暗に示すものとして注目される。
◾️石渡会長の発言詳細
注目の発言は、8日に行われた日本産婦人科医会の定例の記者懇談会の場で行われた。毎回、懇談テーマが決められるが、この日は「不妊治療保険化後の現状」に設定されていた。現在、厚生労働省が実施している「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」でも触れられたことはあるものの、分娩費用の保険適用化とダイレクトに関わる問題ではない。
このテーマで懇談が進み、不妊治療保険化が少子化対策に直接的与える影響はこの先5年程度見ていかないと分からないという医会側の説明の後で、日本経済新聞の記者から以下のような質問が出された。
「出産費用の保険適用を不妊治療の保険適用と同じようにされた場合、(その影響、効果は)どうなのかな、見立てがもしあれば聴かせてください。」
この日は2人の幹部が懇談テーマについて説明をして質問に答えていたが、この質問はテーマとは離れていたためか石渡勇会長がマイクを握った。
「私たちが一番懸念していることは、今の世界に冠たる周産期医療のレベル、これを保険適用化したところで維持できるのかということです。私たちは万全を尽くしてお産に臨んでいるわけなので、人件費とか物価とか色々上がってますけども、そういうのも考えていくと、やはり保険適用するのは時期尚早ではないかと考えております。それから(さまざまな出産に対する)ニーズも高まっておりますので、そういうことを考えて、これから少子化対策ということも視野に入れて考えても、産婦さんがお産しやすい環境を作っていくことが重要ではないかと思っています。その中で東京都と地方では全く環境が違いますので、それを保険ということで全国に一律にすることについても色々と問題点が多くあります。」
以上の点は、これまで検討会の中でも同医会や、日本産科婦人科学会などの構成員が繰り返し述べてきたことである。石渡会長はそれを踏まえた上で、以下のように続けた。
「やはり保険に関しては、我々は慎重にやらないといけないと思いますし、保険に対する懸念というものを持っていますので、国もそういうところをしっかりと理解されてきているのではないかというふうに思っております。」
この部分、特に後半部分は注目に値する。分娩費用の保険適用化について反対する産婦人科医の立場を国が理解してくれるようになっていると、医会のトップが言っているのである。
◾️2026年度導入見送りを報じないメディア
そもそも分娩費用の保険適用化は、岸田内閣で2023年12月22日に閣議決定された「こども未来戦略」に明記された。「2026年度を目途に、出産費用(正常分娩)の保険適用の導入を含め、出産に関する支援等の更なる強化について検討を進める。」というもの(こども未来戦略p15)。
ところが、これを話し合う厚労省の「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」では真っ向から意見が対立。制度の導入を進めたい立場を明確にする健康保険組合連合会や連合の構成員に対して、日本産婦人科医会の前田津紀夫副会長、日本産科婦人科学会の亀井良政常務理事、日本医師会の濱口欣也常任理事らが1つ1つ丁寧に反論し、制度導入の根拠とされるものを悉く潰し、少なくとも検討会の中では導入の大義が見えなくなっている(参照・分娩費用の保険適用化問題)。
この結果、2026年度の導入のための意見の集約が困難で、スケジュール的にも無理と判断され見送られることとなった(参照・分娩費用の保険適用化 26年度導入見送りへ)。もっとも、当サイトがその事実を報じた後もマスメディアは沈黙を続けており、多くの国民の間では2026年度を目途に導入されるという認識が広がったままのように思える(参照・マスメディア沈黙の事情 分娩費用の保険適用化)。
そうした中でのこの日の石渡会長の発言である。従来の主張に加えて、制度導入を目指す国がそれに協力に反対する同医会の立場に理解を示しているということは、暗に2026年度導入を断念したことを示唆するものと見ることができる。それを同医会のトップがメディアとの懇談の場で発言する意味を軽く考えるべきではない。
◾️出産育児一時金アップも選択肢か
この日の懇談会には2024年5月に実施された懇談会で保険適用化に反対の熱弁をふるった木下勝之名誉会長も出席(参照・出産費用の保険適用化 危機感抱く産婦人科医会)。本来のテーマである不妊治療保険化について言及した後で分娩費用の保険適用化についてもコメントした。
分娩は人により千差万別で数時間で終わる場合もあれば、10時間以上かかる場合もあり、それらを一律に保険化できるはずがないこと、赤ちゃんが出てくることだけが出産ではなく、陣痛が始まってから赤ちゃんが出て、分娩後の母体へのケアを含めてすべてが出産であり、そこには目に見えない多くの関係者(医師、助産師、看護師ら)の努力があって、それは保険で点数化できないことなど、従来からの主張を説明した。その上で以下のように話した。
「軽々に(保険)点数をつければいいというのは絶対に違うんだということから、とても(保険適用化に)同意できないというのが基本的な考えであります。これは必ずしも妊産婦さんが分娩費用の負担減少にならないということではありません。保険の代わりに出産育児一時金が出ていますが、50万円を70万円、80万円にすればいいじゃないかということが基本的な話としてあるわけですが、それの何がいけないのか。保険化に対するメリットばかりではなくデメリットもあることを理解した上で、やってまいりたいと思います。」
この発言は、保険化が導入されない場合でも、妊産婦の負担減少については出産育児一時金のアップで実現できるという趣旨ととれる。26年度導入見送りの場合でも妊産婦の負担減少は図れるという代案の提示という見方も可能で、検討会でこのような案が出されるかもしれない。
この日の懇談会は、さまざまな点で今後の保険適用化問題の行方を見通す上で貴重な機会となった。