高齢者で賑わう台湾の公園 外省籍が集う場も
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
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台湾の65歳以上の人口は2018年度で323万人、人口比14.6%、WHOと国連が定めた高齢化の定義では65歳以上人口の割合が7%超で「高齢化社会」となります。つまり台湾は日本と同じく既に高齢化社会となっています(日本の65歳以上構成比は28.1%=内閣府:令和元年高齢社会白書)。
■早朝から年配者が続々と公園へ
中華民国国家発展委員会は、4年後の2025年に台湾は超高齢化社会へ変化すると予測しています(中華民国国家発展委員会:高齢化時程)。個人的な感想ですが、台湾では高齢者が積極的に戸外へ出向き公園で同世代の人々と交流を図ったり、身体を動かしたりしているのを目にする機会が多いように思います。
台北市の公園では、鳥のさえずりが聞こえ出す早朝から年配の方々が公園へ出向き散歩や柔軟体操をしたり、複数人で音楽を流し太極拳を楽しんでいます。朝の運動終了後は近くの市場やスーパーで買い物をして帰宅、午後から再び公園で交流を楽しむ、という人が大勢います。午後の公園では「火気厳禁」の立て看板もなんのその、簡易コンロとやかんや湯飲み、そしてお気に入りの椅子持参で集まって、お茶を飲みながらおしゃべりをしたり、ガジュマルの樹からの午後の優しい木漏れ日の下で中国囲碁を楽しんだりしています。
その隣では「洗濯物の天日干し禁止」の注意書きを余所目に干された毛布の傍らで読書をする老婦人がいたり、奥の方では社交ダンスを楽しむ集団がいたりと、台北の公園は高齢者の憩いの場、社交場となっています。そして気心知れたご近所さんが集まると始まる恒例のカラオケ大会。カラオケセットとスピーカー、時にはモニターまでが持ち込まれ、年配の方々の熱唱が街にこだまします。
年配の方々がカラオケで好んで選曲するのは台湾語歌曲や日本の演歌です。私が台湾へ来て間もない2000年代初頭は実際に日本語教育を受けた世代の方達がお茶を飲みながら台湾語で話をし、流暢な日本語でカラオケを楽しんでいました。今はその世代の方はずいぶんと少なくなったと思いますが、それでも日本の演歌が聞こえてくると、日本語を使う親の影響を受けて育った第二世代がたくさんいること、そして演歌好きの層はまだまだ健在であることを実感します(参照:台湾語歌謡と日本演歌 政治に揺れた75年)。
台北市内で「公園カラオケの聖地」は、萬華区青年公園と南港区南港公園です。両公園ではカラオケセットとテレビまでもが公園内に持ち込まれ、早朝から多くの年配者が自慢の喉を披露しています。最近では薫陶を受けた若い世代(といっても50歳代以上)が「青年公園派」や「南港公園派」として街のカラオケ喫茶で演歌の歌唱力を競い合っているということです(小載的日語演歌藏經閣)。
■公園のコミュニティに地域性 カラオケ選曲も地域性 眷村地区の公園
公園にも地域性が表れるのが台北の興味深いところです。台湾各地には中国国民党と共に台湾へ来た外省籍の公務員、軍人及びその家族(眷属)が多く居住した地区があります。これら外省籍の人々が特に多く居住した地域は「眷村」と呼ばれています。
眷村は外省籍の人々による比較的閉鎖的な社会で、独自の文化を有していました。近年になって眷村地区と眷村文化は台湾のサブカルチャーとして注目されており、台北市の四四南村や台中市の光復新村は人気の観光スポットになっています。
台北市文山区も外省籍の人々が多く移住してきた場所で、私の家からそう遠くないところにも小さい規模ですが眷村があります。眷村地区の公園に集う高齢者には外省籍の方が多数います。使用言語も台湾語ではなく國語(北京語・中国標準語)の頻度が高いのが特徴です。他の公園と同じように煎りたてのお茶を飲みながら皆さんが話す言葉には、大陸北部出身の方が多いのでしょうか、捲舌音が多用される北方訛の國語で歓談をしながら、賑やかな午後が過ぎていきます。
時にはカラオケ大会も催されますが、そこで歌われるのは台湾語歌謡でも日本の演歌でもなく、古い國語歌謡や中国の古典民謡です。眷村で育った人々が青春時代や昔年に思いを馳せ國語歌謡を歌う様を見ると、台湾文化・コミュニティの多様さや複雑さを実感します。
■賑やかすぎて騒音問題も
エネルギッシュで賑やかな台北の公園ですが、近隣から苦情が寄せられることも多々あるようです。上述の青年公園や大勢の人が集う国父紀念館や中正紀念堂の広場周辺は住宅密集地でもあり、早朝からのカラオケや社交ダンスの騒音問題に付近の住民は長年悩まされています。行政は「噪音管制法」「社会秩序保護法」に則り法的処置を行うことができます。
しかし管轄の曖昧さ (公園の管轄は台北市政府工務局・騒音関連は台北市政府環境保護局の管轄)や警察機関は証拠蒐集の困難を理由に挙げ、公園等公共区域での騒音問題に対しては積極的な対策を行っていないのが現状です。そのため痺れを切らした住民が刃物持参で公園の集会に直談判に出向くという少々穏やかではない事態も発生しているということです (中國時報2019年6月9日)。
盛り上がると周りが見えなくなる台湾の国民性ゆえでしょうか。人生の先輩として良き手本として(節度を保ちながら)、これからも元気に過ごしてほしい。素敵な台湾の高齢者の皆様です。