中国製ワクチンなんて使えるか!日本から ”及時雨”

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葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

京都産業大学外国語学部中国語学科、淡江大学(中華民国=台湾)日本語文学学科大学院修士課程卒業。1998年11月に台湾に渡り、様々な角度から台湾をウオッチしている。

 5月中旬から新型コロナウイルス感染の市中拡大が続く台湾では、ワクチンの早急な調達と接種体制の整備が進められています。そのさ中での日本からのワクチン提供には、感謝の声が広がりました。メディアもトップニュースでワクチン問題を扱っています。

■ワクチン余りから不足へ 混乱と大規模接種計画の進行

自由時報 2021年6月3日公開記事から

 ワクチン提供が大きな関心事となっている台湾では、メディアも第一報から進展を逐次報じています。6月3日には「台湾への120万回分提供決定」、続いて「6月4日に台湾到着」の報が、台湾各メディアはトップニュースで一斉に伝えました。

 日本からのワクチン提供が最初に報じられたのは5月28日です。ワクチンの入手先に苦労していたところに「日本政府が国内供給用に調達するアストラゼネカ製ワクチンの一部を台湾に提供する検討」というニュースが飛び込んできました。

 蔡英文総統は自身のツイッターで「困難な時代を、支え合ってともに切り抜けようという姿勢がこれまでにも増して鮮明になったとうれしく思っています。その深い友情に、心から感謝します」と日本語で謝意を示しました。(蔡英文Twitter)。

 謝長廷駐日代表(大使に相当)も同日Facebookに日本からのワクチン提供は「及時雨  (恵みの雨)」であり、「對日方的善意非常歡迎也十分感謝  (日本の善意を大いに歓迎するとともに深く感謝する)」と綴っています(謝長廷Facebookページ)。

 また外交部や中央流行疫情指揮センターも「充分發揮患難見真情的珍貴友誼  ((台湾が)辛い時に真の友情を見せてくれた)」「我國一定也會感到非常溫暖  (すばらしい暖かさを感じた)」と日本の対応に感謝の意を表しました(台湾Yahoo! ニュース 2021年5月28日)。

 中国の圧力によってワクチンがなかなか入手できない台湾にとって、日本からの提供は大きな助けになったのは言うまでもありません。

■日本人は恩を返す 台湾の大親友

 以下、第一報が伝えられた5月28日から台湾国内のポータルサイトやSNS、BBSに投稿されたコメントを紹介しましょう。

台灣現在急需疫苗,真的是功德無量  (台湾はワクチンが急ぎ必要だ、日本の功労と恩徳は本当に計り知れない)

日本是我們的好鄰居 (日本は私たちの良き隣人だ)

我們感謝日本在我們痛苦時伸出友善的援手 (我々が苦痛にあえいでいる時に手を差し伸べてくれる日本に感謝)

 このように、日本に対する感謝のコメントが大多数を占めています。

日本人會報恩.果然是台灣好朋友 (日本人は恩を返すことができる人々だ、道理で台湾の大親友なわけだ)

 日本のワクチン提供を、昨年4月台湾から大量のマスクが寄贈されたことへの「報恩 (恩返し)」と解釈、日本を「義理堅い」と称賛するコメントも多く見られました。そして日本の恩に対し、次回は我々が恩返しをする番だ、といった未来へ希望を繋ぐ声も寄せられていました。

疫情過後,首站消費地,一定貢獻給日本 (コロナ禍収束後は真っ先に日本へ行って消費貢献するんだ)

之後可以出國的時候,第一個去的國家一定是日本 (将来出国可能になれば、最初の行き先は日本だ)

■ワクチンで深まる台日兩國情誼

日本からのワクチン提供を伝えるTVBSニュース(2021年6月3日)

 台湾へのワクチン供給検討に際し中国から日本へ外交圧力がかかっている、と報じられた時は、中国の横槍に対する不安や、今計画の成功を願うコメントが複数投稿されました。

希望日本抵擋住中國壓力,讓這批疫苗順利來台,台日兩國情誼更加深植人心 (日本よ、中国の圧力に屈しないでくれ、ワクチンが台湾へ無事届いたら、台日の情誼はより深まることだろう)

希望日本能硬下去不要讓中國阻擾了 (日本が意志を強くして中国の邪魔立てを防ぎますように)

 もちろん、日本人にとって残念な声もありました。

可以挑莫德納的嗎? (モデルナ製は選べる?)

日本不敢用的要給我們,可憐 (日本は恐くて使えないものを我々によこした。悲しい)

人家不要 AZ…我們卻沒得選擇…哀… (必要のないアストラゼネカ製…私たちに選択肢は無い…哀れ…)

アストラゼネカ製ワクチンに不安を抱く声や、背に腹は代えられない、といった諦めの声も見られます(コメントは 台湾Yahooニュース、Facebook、PTT(批踢踢)関連スレッドから抜粋)。

■蔡英文総統が中国の妨害を批判

 ここで、ワクチン提供までの経緯を簡単に振り返ってみましょう。

 新型コロナウイルスの感染症対策で世界で最も成功したと評価される台湾国内では、3月22日から医療従事者等の優先接種以外にも、600元(約2400円)の自己負担で一般人もアストラゼネカ製ワクチンの接種を受けることが可能でした。

 もっとも、副作用の懸念などから一般のワクチン接種はほとんど普及していませんでした。5月初旬のワクチン接種率はわずかに1%、ワクチン約24万回分の廃棄期限が迫っているという状況でした(CTWANT 2021年5月6日)。

 しかし、その後の感染拡大で状況は一変、瞬く間にワクチン不足に陥ったのです。これを受けワクチン調達が早急の課題となりましたが、国内外で混乱が生じています。蔡英文総統は5月26日、中国の介入によりビオンテック社(独)とのワクチン購入契約が進んでいないと中国の妨害を批判、これに対し中国国務院台湾事務弁公室スポークスマンは、蔡総統の発言内容は偽りであり国内での責任を政治的問題へとすり替えていると指摘しました。

 また、蔡総統は中国が台湾へワクチンを供給する意思を示していることについても、安全性や有効性に高いリスクが生じると懸念を示しこれを拒否する構えを見せています(経済日報 2021年5月27日)。中央感染症指揮センターの陳時中指揮官は26日の会見で、「他們沒在打的我們有點興趣,他們在打的,我們不敢用。 (彼ら(中国)が打っていないワクチンには興味があるが、彼らが打っているのなら、我々は恐くて使えない)」と、中国製ワクチンの使用に懸念を示しました(衛生福利部疾病管制署 2021年5月26日定例会見)。

 最大野党である国民党の元中国国民党主席の洪秀柱氏は、ワクチンの迅速な調達のためには中国の提案を受け入れるべきであるとし、実現のためには自らが中国との交渉に立つと発言(Newtalk新聞 2021年5月22日)、さらに地方自治体の南投県林明溱知事も、中央政府を介さず直接中国を通じてビオンテック製ワクチンを購入する予定であること明らかにしました (Newtalk新聞 2021年6月1日)。

■大型接種会場等を設置 簡易化された予約システム導入へ

 民間でも鴻海集団の郭台銘氏が自身の慈善団体を通じビオンテック製ワクチン500万回分を購入すると発表する等、中央政府の対応の遅さに痺れを切らした地方自治体や民間企業は自らワクチン輸入に動こうとしていました。

 これを受け、中央流行疫情指揮センターは5月28日に地方自治体や企業によるワクチン購入を条件付きで認めました。ところが翌29日の発表では一転、「輸送に高度な技術が要求されるため、中央政府が責任を持って直接メーカーと契約し、各自治体に分配する」ことになりました (衛生福利部疾病管制署 2021年5月29日)。

 突然のワクチン不足に混乱する中、中央流行疫情指揮センターは5月30日、海外から購入の2000万回分と国内生産の1000万回分を調達したと発表(衛生福利部疾病管制署 2021年5月30日)。そして6月2日にはワクチン大規模接種計画の詳細が発表されました。

 接種場所として地域小コミュニティ会場、大型接種会場等を設置、簡素化された予約システムを構築し多くの人が短時間でワクチンを接種できるよう準備が進められているということです(衛生福利部疾病管制署2021年6月2日)。

 またマスク予約購入システムとして人々の間に浸透している衛生福利部のモバイルアプリ[全民健保行動快易通] から接種の予約が可能になるということです。デジタル政策を担当する唐鳳(オードリー・タン)行政院政務委員によると、モバイルアプリ以外にコンビニエンスストアや薬局からでも接種予約が可能になるようシステムの開発構築が進めてられているとのことです(中央通訊社 2021年6月1日)。

■日本のワクチン提供に大きな反響と注目が

台湾へワクチン提供を伝える産経新聞(6月4日付)

 新型コロナウイルス発生直後に中国からの人の動きを止めて、世界でも例をみないほど感染の抑え込みに成功した台湾ですが、そのためにワクチン入手では遅れをとってしまったのは皮肉な事態と言うしかありません。

 そしてワクチン入手という人道上の問題でも国際的な圧力で妨害されるというのが、台湾の現状です。そうした中での日本からの「友情」は安全の確保とともに、自分たちは孤独ではないということを確認できたという意味で、二重の喜びとなったと言えるでしょう。

 日本の対応に感謝の意と称賛の念とともに一日も早いワクチンの到着を希望する、行動制限措置下の台湾の人々の姿が浮かび上がってきます。

"中国製ワクチンなんて使えるか!日本から ”及時雨”"に4件のコメントがあります

  1. Show Mitoya より:

    いやぁ久々に良いニュースですね。
    (もちろん、これで終わりという訳ではありませんが)3.11での台湾からの支援に恩返しが出来て良かったです。

    アストラゼネカ製というのに引っ掛かりを感じるという話もありますが、既に台湾国内(敢えて”国”)で接種実績があることや、他社(ファイザー、モデルナ)製のワクチンと比べて温度管理がシビアではないので日本→台湾への移送が容易なこと、たまたま日本で公的接種に採用されなかった(ので手持ちに余裕があった=早期提供が可能)こと等を考えれば、日台双方に取って良い選択だと思います。
    #うれしさのあまりの独り言ですので、返信は不要です。

    1. 葛西健二 より:

      Show Mitoya 様

      ワクチン到着に台湾の人々は大いに喜び
      感謝の声が湧き起こっています。
      日台の絆はますます深まっていくと思います。

  2. ぷんぷん丸 より:

    天安門事件の日に間に合わせた、と言うのは穿った見方でしょうか。
    人道的支援ですので、中共も表立って批判も出来ないでしょうし、
    日本政府も強気に進められたのでしょうか。
    安部さん、麻生さんの裏での動き、どのマスコミが報道するでしょうかね。

    困った時はお互いさま。良いニュースです。

    1. 葛西健二 より:

      ぷんぷん丸様

      台湾でも 「6月4日」に合わせたことが
      話題になっています。
      ワクチン到着に台湾は喜びに湧いています。

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