108億円当選 キャリーオーバー41回”威力彩”
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
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当選者不在でキャリーオーバーすること実に41回、1等賞金が27億元(約108億円)にまで膨れ上がっていた番号選択式ロトくじ「威力彩」の当選者が8月23日に出ました。単独当選者は20%の所得税が引かれますが、21億6000万元(約86億円)を手にしました。これは単独当選としては台湾史上第3位の高額賞金です。
■高額賞金とキャリーオーバーで人気の「威力彩」と「大樂透」
日本円にして100億円以上という考えられないような当選を出した新北市三峡区の宝くじ販売店スタッフは、「店裡位置不是在明顯的熱門地段,過去最多也只開出過刮刮樂10萬元獎項 (店の立地は賑やかな場所ではないし、過去にはスクラッチで10万元(約40万円)が出たくらい)」でしたが、「年初開始養的黃金角蛙帶來了好運氣。 (今年初めから飼っている金色のツノガエルが運気を運んできてくれたのかもしれない)」と語っています (中央通訊社 2021年8月23日)。
金色のツノガエルは「財蛙」とも呼ばれ、財を集めるカエルとされています。
台湾ではスポーツくじ「台湾運動彩券」(参照:躍進台湾支える五輪くじ 売り上げ5割増)の他に、ロト、スクラッチ、ナンバーズやビンゴいった9種類の宝くじが「台湾彩劵」(中国信託商業銀行が業務委託)から発行されています。「彩券行」と呼ばれる宝くじ販売店は全国に5400箇所以上あります。これは台湾国内のセブンイレブン6000店に次ぐ店舗数、台湾国内のファミリーマート店舗数3680を大きく上回っています(天下雜誌)。
「彩券行」経営者やスタッフには、身体的精神的理由で安定した職に就けない人や経済的困難を抱えた人が優先して採用されており、社会的に弱い立場の人々の就業を後押しする役割も担っています。2021年7月31の時点で約4万3000人が「彩券行」で宝くじの販売に携わっています(台灣彩劵)。
■キャリーオーバーは青天井
台湾の宝くじで一番の人気は賞金が高額に設定されているロトくじの「威力彩」、次に「大樂透」です。
「威力彩」は 2008年1月から販売が開始されました。 購入方法は、第一区1~38までの数字6つを選択し、第二区の1~8の数字から1つを選択します。第一区と第二区で選択した数字が抽選結果と全て同じであれば1等で2億元(約8億円)を獲得できます(的中確率は2209万分の1 台灣彩劵)。第一区の選択数字のみ全て的中の場合は2等で、賞金は6800万元(約2億7000万円)となります。等級は10等100元(約400円)まで設けられています。1口100元から購入可、抽選日は毎週月曜日と木曜日です。
2004年12月から発売の「大樂透」は、1~49の数字から6つを選択するくじです。日本のロト6に相当します。ただし大樂透はロト6より数字が多い分、当選確率も低く1398万3816分の1です(計算式は1/49C6)。
なおロト6の1等当選確率は約610万分の1と言われています。1等賞金は1億元(約4億円)、1組50元(約200円)から購入可、抽選日は毎週火曜日と金曜日です。
威力彩と大樂透の魅力は、高額賞金以外にキャリーオーバー制度が導入されていることです。また威力彩と大樂透はキャリーオーバー時に日本のロト7やロト6のような1等賞金限度額が設定されていません(日本のロト6は最高6億円、ロト7は最高10億円、宝くじ公式サイトから)。
賞金額に上限がない、いわゆる青天井のため、当選者が現れるまで1等賞金額が際限なく上がっていくのです。41回の持ち越しで1等27億元(約108億円)となった今回の威力彩ですが、過去には一人で総取り30億元(当時のレートで約110億円:2015年4月)、 28.7億限 (当時のレートで約104億円:同年9月) も出ています。まさに一攫千金、威力彩が人気なのも頷けます。
また大樂透もキャリーオーバーで過去に9億3700万元(当時のレートで33億7000万円:2009年6月)の独り占めが起きており、こちらも人生一発逆転が狙えることで人気のくじとなっています。
■相次ぐキャリーオーバーに熱狂 廟は願掛けで賑わう
今回の威力彩キャリーオーバーは、東京五輪が終わり、世間が一息ついた8月10日頃からメディアでも盛んに報じられるようになりました。中には専門家おすすめのラッキー干支、ラッキー星座、ラッキーアイテムを連日紹介するニュースチャンネルもありました(年代新聞2021年8月23日、中国時報2021年8月22日)。
日増しに盛んになるキャリーオーバー報道に、多くの人が「我も 我も」と威力彩購入に走り、持ち越し額も膨れ上がっていくことになりました。台中市のある町内会では1等当選率を高めるために町内823人から66万元(約260万円)が集められました。里長(町内会長)は威力彩を購入の為市内33カ所の彩券行を駆け回り、購入後はお金の神様をまつる財神廟へ赴き願を掛けたそうです。しかし、結果は当選総額15万6400元(約62万5000円)、あえなく撃沈です(東森新聞 2021年8月24日)。
8月23日の抽選直前にあたる週末は、多くの人が必中祈願の為各地の財神廟(お金の神様をまつる廟)を訪れました。新北市萬里区にある金山財神廟ではコロナウイルス感染拡大措置として入場制限を行うほどの人出となりました(聯合新聞 2021年8月23日)。
なお、日本では神社で祈願後に売り場へ行き宝くじ購入の流れになると思いますが、台湾では購入したくじを廟へ持って行き手に挟んで拝んだり香炉の煙にかざしたりと、くじ本体を「当たりくじ」に変えるのが主流のようです。
それも国民性の違いからくるものなのでしょうが、普段、信仰心のない人が「宝くじを当ててくれ」とお願いに来ても、そう簡単には願いを叶えないという点では、日本と台湾の神様に変わりはありません。
台湾彩券によると、2014年から2021年7月までの宝くじによる累計利益は2148億円(約8600億円)に達したということです。このうち50%は地方政府の福利厚生事業に用いられています。45%は国民年金に充てられ、5%は国民健康保険の補助として中央政府に納められています(民視新聞 2021年8月25日)。
■1年に5000万円消費しても172年
それにしても気になるのは、キャリーオーバー41回、1等賞金27億元(約108億円)を手にしたのはどんな人だったのかということです。もちろん、これは日本と同じで当選者のプライバシーに関わるため、報道されることはありません。
冒頭で示したように手取り86億円、家族で1年に5000万円使っても172年かかるわけですから、一生かけても使い切るのは簡単ではありません。しかも、当選者は「頑張ってお金を稼ごう」「お金持ちになって家族を幸せにしよう」という人生の目標を失ってしまいます。高額賞金を手にした人の末路は悲惨ということが話題になることがあるのも、頷けます。
宝くじの当選をお願いされた廟の神様は(ヘタに当てて、お願いに来た人を不幸にしてはいけない)と当選させないのかもしれません。「100億円当たって、残りの人生が悲惨になることを回避できて良かった」と思えば、精神衛生上もよろしいのではないかと思います。
支払ったお金は、買ってから当選発表までワクワクドキドキ、一瞬の夢をみさせてもらったコスト。しかも、その収益は福利厚生事業に回るのですから一種の社会貢献、いいお金の使い方ではありませんか。たとえ外れても(また、明日から仕事を頑張ろう)という気持ちになれるというものです。