躍進台湾支える五輪くじ 売り上げ5割増

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葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

京都産業大学外国語学部中国語学科、淡江大学(中華民国=台湾)日本語文学学科大学院修士課程卒業。1998年11月に台湾に渡り、様々な角度から台湾をウオッチしている。

 台湾は東京五輪での自国代表選手の活躍に大興奮です。選手を対象としたスポーツくじも販売され、売れ行き好調。自国選手への応援が台湾スポーツ界のレベル向上にもつながる、台湾のスポーツくじをご紹介します。

■台湾のギャンブル事情

台湾運彩販売店。撮影日は文姿云選手が空手組手に出場(台北、撮影・葛西健二)

 台湾では公営ギャンブル(日本の競馬や競輪に相当)が存在しません。また賭博罪が規定されており、公衆の場での賭博行為や営利のために賭博の場を提供する行為も禁止されています。

 一方2009年には離島の経済発展促進を目的とした「離島建設条例」が可決され、台湾本島周辺の離島でのカジノ経営が可能となりました。

 しかし、本条例は住民投票で過半数の同意が必要となります。離島ではカジノ開設による物価の上昇や治安の悪化を懸念する声が根強く、2016年澎湖諸島で行われたカジノ開設是非を問う住民投票では、開設反対票は81%を占め、カジノ建設は否決されました(中央選挙委員会 澎湖縣地方性公民投票按第2案)。では宝くじはといいますと、台湾でも日本と同じようにロト、スクラッチ、ナンバーズやビンゴいった宝くじが販売されています。

 また2か月に一度抽選が行われる「レシートくじ」も人々のささやかな楽しみの一つです (参照:台湾でレシート捨てるな 3600万円の夢)。スポーツの試合を対象にするスポーツくじ「台湾運動彩券」も近年売り上げを大きく伸ばしています。

 「台湾運動彩券(以下 台湾運彩)」は台湾国内のスポーツ界発展とアスリートの育成に寄与することを目的に2008年から販売が開始された合法スポーツくじです。くじ売り場は全国で1700件以上もあり、街の至る所で台湾運彩ロゴマークが描かれた看板を目にします。2014年からはインターネット販売も行われています。

 台湾運彩が発行するくじの対象種目は野球、バスケットボール、サッカー、アメリカンフットボール、バレーボール、テニス、ゴルフ、F1レース更にはeスポーツと幅広く、常時6種以上の競技を取り扱っています。くじの販売方式も試合全体での勝敗をえらぶもの、試合の正確な得点を予想するもの、得点差で選ぶもの等多彩です。サッカーに至っては22種類もの購入方法が用意されています。

 さらに台湾国内だけでなく世界中の試合が対象となっています。例えば野球では台湾プロ野球(中華職棒聯盟)の試合の他にMLBやNPB(日本野球機構)開催の試合もくじの対象となります。サッカーではラ・リーガ(スペイン)やブンデスリーガ(ドイツ)、Jリーグ等各国のプロサッカーリーグの試合が含まれています。また各国リーグ戦以外にもサッカーW杯や野球のWBCなど国際試合も対象として販売されており、ここには当然、五輪も含まれます(後述)。

 台湾運彩はインターネット販売開始以降成長率約6%を維持しながら売り上げを順調に伸ばしています。2018年、2019年、2020年の売り上げは3年連続で400億元(約1600億円)を超えました(信傳媒 2021年8月3日)。

 台湾運彩は「運動彩券発行条例」に基づき、売り上げの10%が国家スポーツ発展基金として用いられています。売り上げが好調な近年は毎年40億元(約160億円)以上が基金に充てられており、台湾運彩は台湾国内スポーツ振興とアスリート育成に重要な役割を果たしていることがわかります。

■五輪も対象 応援が自国のアスリートレベル向上に

台湾運彩販売店のマーク(台北、撮影・葛西健二)

 台湾運彩はオリンピック特別企画と銘打って自国選手が出場する種目を中心にオリンピックくじを発行しています。東京五輪での対象はサッカー、バスケットボール、野球、等20競技で、このうち16項目は台湾代表選手が出場する競技になります。

 台湾運彩発表のオッズでは、ウエイトリフティング女子59キロ級で金メダルに輝き史上初の国際競技大会グランドスラムを達成した郭婞淳(かく・こうじゅん)選手の試合前オッズはわずか1.01倍に設定されていました。「舉重女神 (ウエイトリフティングの女神)」郭選手の過去の実績の素晴らしさと彼女が金メダルに最も近い位置にいたことがわかります(聯合新聞網 2021年7月25日及び台湾運動彩券公式ホームページ)。

 今回のオリンピックくじの売り上げは8月2日に目標である12億元(約48億円)を突破しました。前回リオデジャネイロ大会期間中のオリンピックくじの売り上げは7億9000万元(約31億円)、今回開催終了を待たずして約50%増の伸びを見せています(工商時報 2021年8月3日)。

 代表選手68人という歴代最大規模での参加や郭婞淳選手やバドミントンの載資㯋選手といった世界トップレベルの自国アスリート出場で金メダル獲得への期待と関心度が例年になく高いこと、新型コロナウイルスの市中感染拡大に伴う生活行動制限措置下での娯楽の欠如、インターネット販売の利便性、さらに東京からの時差がわずか1時間のためより多くの人が観戦できる(深夜や早朝観戦の必要がない)といった条件が前回と比べての売り上げ急上昇に影響しているのではと推測できます。

■違和感を覚えたくじも応援の気持ちに納得

 私は台湾運彩がオリンピックに特別企画で台湾代表選手を対象としたくじを販売しているのを今回初めて知りました。個人的にスポーツの祭典だと考えている五輪を賭博の対象とすること、且つこの対象がサッカーや野球のようなチームならまだしもウエイトリフティングや空手といった個人であることに、私は疑問や違和感を抱いていました。

 しかし実際に台湾運彩販売店を訪れる人の中には記念として購入する人もいるようです。また店内での会話を聞いていると、賭け事というよりも自国選手応援の気持ちで購入している人が多いように感じられました。

 自国選手への応援が国内のスポーツ環境向上とアスリート達の国際舞台でのパフォーマンス向上に寄与し、そして今後の自国選手の更なる活躍につながる。オリンピックくじはこのような一面を有していると思います。

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