台湾でレシート捨てるな 3600万円の夢

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葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

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京都産業大学外国語学部中国語学科、淡江大学(中華民国=台湾)日本語文学学科大学院修士課程卒業。1998年11月に台湾に渡り、様々な角度から台湾をウオッチしている。
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 日本の皆さんはコンビニやファストフードで買い物をした時、レシートは「不要レシート入れ」に入れて捨ててしまう人が多いのではないでしょうか。しかし、台湾ではほとんどの人が後生大事に持ち帰っています。果たして、その理由は…。たかがレシートですが、よくよく考えると台湾と日本の国民性の違いを感じることができます。

■レシートが大金を生む宝くじに

 台湾人がレシート(統一發票と呼ばれます)を持ち帰る理由は簡単です。統一發票」が宝くじになっているからです。日本のガイドブックや雑誌でも紹介されたことがあり、ご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 統一發票は公的な領収書でもあります。發票上にはアルファベットとアラビア数字による通し番号、事業者の販売店名や会社名及び住所と、統一發票を発行した商店の統一編号(台湾の営利機構に付与される個別番号)、売買成約日、品名、数量、単価、課税別、総額などが記載されています。

 この統一發票に記されたアルファベット以降の8桁の数字が当選番号です。

・特別賞 1000万元(約3600万円)

・特賞 200万元(約720万円)

・頭賞 20万元(約72万円)

・二賞 4万元(約14万4000円)

・三賞 1万元(約3万6000円)

・四賞 4000元(約1万4400円)

・五賞 1000元(約3600円)

・六賞 200元(約720円)

 2020年度最少額の買い物で最高額の特別賞1000万元を手にしたのは、2020年5-6月期抽選のもので、新北市のセブンイレブンで20元(約70円)のドリンクを購入した人でした(財政部稅務入口網 109年05-06月期統一發票特別獎及特獎中獎清冊)。

 この宝くじシステムは外国人にも当選の権利があり、台湾国籍以外の者が当選しても支払いが行われます。過去に台湾短期滞在のタイ国籍の人物が特賞1000万元に当選、支払いを受けた翌日に台湾の住まいを引き払い母国へ戻ったという話がありました。抽選は2か月に一度行われ、翌月25日に発表されます。最新では2020年9-10月期の抽選結果が11月25日に発表されました。今回の抽選、特別賞1000万元当選者は10組、特賞200万元は16組もおり(財政部稅務入口網 109年09-10月期統一發票特別獎及特獎中獎清冊)、これが2か月ごとに一度の抽選ということで、人々のささやかな楽しみとなっています。

六賞当選の紙レシート。セブンイレブン発行 (撮影・葛西健二)

 我が家も毎期の抽選で六賞200元(統一発票の数字下3桁の数字と並びが一致) が少なくとも一回は当たり、多いときには六賞複数や五賞当選もあります。今期は六賞当選レシートが2組(紙の統一発票、クラウドレシート(後述))ありました。わずか400元ですが当たりは当たり、それまで一緒にレシートと睨めっこをしていた妻と「やったね」と笑顔、2か月に一度のこの時間が小さな幸せを感じさせてくれます

 統一發票制度は、1950年任顯群財政庁(現財政部)長官により発案、1951年から施行されました。財政部賦稅署長 や台北市国税局長を務めたこともある王得山氏は、統一發票制度は「民衆の射幸心を借りて」事業者の「申告漏れや意図的な脱税の防止及び税収増加」を主眼としたと述べています。統一發票制度実施の結果、1951年の税収は約5100万元となりました。これは制度導入前1950年度税収約2900万元の1.7倍にあたります(Gateweb『統一發票的由來』)。「民衆の射幸心」をうまく使った見事な政策です。また制度導入前は売り上げのごまかしが当たり前となっていたということも知ることができます。

 このあたりが日本と考え方が異なる部分でしょう。日本は売り上げを正しく申告するように、遵法精神を説き、違反者には追徴課税、悪質な場合には刑事罰を与えて法を遵守させます。しかし、台湾では宝くじという形で消費者にアメを与え、小売店に統一發票を発行するように消費者サイドから圧力をかけるようにしているのです。もちろん、違反者には追徴課税、刑事罰の可能性はありますが、その前に正しい申告をさせるためのアプローチが台湾と日本では全く異なります。

 どちらが優れているかという問題ではなく、国民性の違い、文化の違いということなのでしょう。これをもって台湾人の遵法精神が希薄という評価はすべきではありません。この制度が日本の台湾統治が終了した5年後の混乱期に始まったことなども考慮する必要があるのではないでしょうか。

■デジタル化が進む統一發票

 行政のデジタル化を積極的に進めていく中で、2000年8月から財政部はオンラインシステム「e-invoiceシステム」を導入、統一發票番号,各店舗の売り上げ詳細、そしてくじ当選情報も財政部が詳細に把握できるようになりました。2013年からは「エコロジー・資源削減」として雲端發票(クラウドレシート デジタル化されたレシート。スマホアプリを用いてレシートを利用者のスマートフォンに保存する)を開始、クラウドレシートを対象にした賞を増やすことで(100万元15組 2000元1万5000組)、紙媒体からデジタル媒体への転換を推奨しています。

 またサービス面も強化、アプリに表示される個人の「手機條碼(携帯バーコード)」を会計時にレジで読み取ることで、領収済みレシート番号や購入履歴をクラウドに保存することができます。そして当選通知もアプリを通じて送られてくる仕組みになりました。そして2019年1月からはスマホアプリにて統一發票当選金額を個人指定の銀行口座へ直接振り込むサービスが開始されました。しかしアカウント紐付けの煩雑さから、クラウドレシート当選者の約6割がなお、当選番号をプリントアウトして換金している状況です(ETtoday財経雲 2020年10月9日)。

 このように財政部は交易記録のデジタル化によりお金の流れを把握しているわけですが、アプリを使用することで個人の消費動向だけでなく氏名、住所や銀行口座等の個人情報も全て詳細に知られることに、私は少々不安を感じています。ただ政府の情報管理に対する声はあまり上がっていない状況で、おそらく大半の台湾人が利便性の高さに満足しているのではないでしょうか。またここからは国民の政府に対する信頼度の高さもうかがい知ることができます。

■誰でもわかる「当選情報」

 財政部税務ポータルサイトでは特別賞と特賞の統一發票発行店や購入金額等が公表されています。例えば 2020年9-10月期の特別賞当選10組のうちある一組のレシート発行店は基隆市の「ファミリーマート七堵新明徳店」、販売品は「ドリンク1点 94元」です。

2020年9-10月期当選統一發票の特別賞詳細。財政部稅務入口網から

 毎期抽選後はニュースでも高額当選者を「幸運兒 (ラッキーな人)」として、どの地域のどの店で何を購入したかを具体的に報道します。統一發票高額当選店に対する人々の関心は高く、大きな話題となります。このあたり、プライバシーに対する考えは日本と異なります。自分がいつ、何を買ったかを多数の人に知られてしまうのはあまり気持ちのいいものではありません。このあたりは日本との意識の違いを感じる部分です。

スーパ入り口の「祝特別賞当選」貼り紙。經濟日報 2020年6月23日から

 高額当選者の出たコンビニやスーパーは、「特別賞出ました」と書かれたのぼりを立てたり紙を貼ったりして「当選店」大きくアピールします。その様はまるで日本の宝くじ売り場のようで面白いです。「同じ買うならこの店の幸運にあやかって」と考える人もいるでしょう。

 実際、家の近所のコンビニが特別賞を一度出したことがあり、その後何週間かは店が大賑わいという現象が起きました。政府が情報を開示することで、消費者にとっては購入先の選択肢が増え、事業者にとっては売り上げの増大を試みることができる、情報透明化のよい一例だと思います。

 2か月に一度の当選発表に胸を躍らせる統一發票制度、そこにはどんな漏れも見落とすまいとする国税局の思惑があります。デジタル化による情報の一元管理が進められていく中でこのような漏れはますます減っていくでしょう。行政のデジタル化を進める台湾で、国の財源である税収管理を担う財務局がいち早くIT技術を利用したのも自然な流れだったのでしょう。

 ペーパーレス化が進むことは資源削減に繋がり環境保護では良い面もあると思います。そして消費者としては、紛失の心配もなく、また抽選結果発表後、家で当たりか否か大量の統一發票と睨めっこをする時間(幸せな一時ですが)も省けるスマホアプリはとても便利だと感じています。

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