雪に憧れる台湾人 関越道2100台足止めの反応
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
最新記事 by 葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼 (全て見る)
- 台湾はワクチンの恩忘れず 能登半島地震「義氣相助」 - 2024年1月28日
- 大谷選手めぐり台湾の記者”出禁”騒動 - 2023年7月9日
- 大谷vs神鱒の「神劇本」侍ジャパンに台湾熱狂 - 2023年4月2日
12月16日からの3日間、関越自動車道で自動車約2100台が雪のため立ち往生したニュースは、台湾のメディアでも大きく報じられました。そこは平地では雪が降ることがない台湾のこと、人々の反応は、日本とは異なるものでした。
■南国ゆえの雪への憧憬
北部は亜熱帯気候、南部は熱帯モンスーン気候に属する台湾は一年を通して温暖で、基本的に雪が降りません。故に生涯一度も直に雪景色を見たことがない人も少なくありません。私の周囲でもそのような人が複数存在しています。
台湾の人々にとって雪は特別な存在であり、「賞雪 (雪見、雪景色鑑賞)」という言葉に代表されるように、雪景色は憧憬の対象です。冬の北海道旅行が台湾の人々に大人気なのもそのためです(聯合新聞網 2020年12月12日「台灣人為何愛去北海道?」)。
台湾国内でも1年のうち冬季には何日間か雪が降る場所があります。それは標高3000m以上の高山です。険しい山地が島の中央部分を南北に貫いており、標高3886mの「雪山」や、北東アジア最高峰の「玉山(日本統治時代は新高山)」主峰はおよそ4000mに達します(正確には3952m)。これらの高山では山頂付近で12月から3月の期間断続的に冠雪が確認されます。
■ 雪見で7時間の大渋滞も
台湾国内での「賞雪」といえば合歡山(標高3417m)です。これは山頂付近の標高3100mの場所に、台湾の中央部を東西に横断する「中部横貫公路」が走っているためです。この道路は一般車両も通行可能な一般道。ちなみに日本で最高点を走る道路は乗鞍スカイラインで最高標高点は2700m、一般車両の通行は禁じられています。
マイカーで標高3000m超えの地点まで行くことができるこの「中部横貫公路」は私もお気に入りで、125ccのマイスクーターで幾度か合歡山越えの旅をしています。毎年、冬になると「合歡山に雪」のニュースが大きく報じられ、「賞雪」のために多くの人がマイカーで中部横貫公路を合歡山山頂へ向かい、渋滞が起きるのが風物詩となっています。
近年では山頂付近で7時間以上の大渋滞が発生しました。また日没後に下山ができなくなる事案も頻繁に発生、2019年12月には積雪見たさに繰り出した無鉄砲な若者達の運転するスクーターが山頂付近で故障、救助隊が出動する騒ぎになりました(中国時報 2019年12月9日)。このため最近は冠雪時の一般車両に対する通行規制を強化、路上駐車の禁止や一般車両の段階的進入等の措置がとられています。
このように台湾で冠雪が確認できるのは3000m以上の高峰に限られます。合歡山は例外的に交通手段が確立されていることから一般の人も訪れることができますが、冬に高峰を訪れるのは容易なことではありません。雪を見たければ国外へ旅行する方が手軽ですし、その対象として台湾から距離、精神的にも身近な場所である日本、そして北海道が人気なのも頷けます。
■大雪立ち往生のニュースに台湾ネット民の反応は
大雪の影響により新潟県内の関越自動車道で2020年12月16日から約2100台の車が立ち往生したニュースは、台湾では自然災害として大きく報じられました。
ネットでもこのニュースに対して多くのコメントが寄せられ、台湾の関心の高さが窺えました。ただネットに寄せられた声には、正直、眉をひそめたくなるものが多数ありました。(以下YouTube、Facebook、批踢踢實業坊(PTT)から抜粋)。
很浪漫 (すごくロマンチック)
好想滑雪 (スキーがしたい)
羨慕 好想飛去賞雪 (羨ましい、雪見に飛んで行きたい)
可以免費賞雪欸 台灣人還要特地出國 (ただで雪を鑑賞できるなんて 台湾人なら海外に行かないとだめなのに)
切迫した状況を無視した、対岸の火事といったスタンスの発言には反論の声も挙がっていましたが、それはごく僅かでした。
下這種雪沒心情賞的 (こうした雪の情景で鑑賞しようなんて気はおきない)
觀光客體驗一下拍拍屁股就走當然浪漫羨慕 真的在當地實際生活雪天根本大麻煩 (観光客はほんのちょっと雪体験をするだけだから、当然ロマンチックとか羨ましいとか思うわけだが、当地で実際に生活をすれば雪の日は本当に大変なんだよ)
■雨は夜更け過ぎも雪には変わらない
ネット故の無責任な発言なのかもしれません。また新型コロナウイルスの感染症の拡大による各国の入国規制のため、海外へ自由に行けないというもどかしさや苛立ちもあるのかもしれません。ネットに寄せられた多数のコメントからは、台湾の人の雪景色への憧憬(好想飛去賞雪)や雪国に対する羨望(羨慕)、正のイメージ(浪漫)といった、雪に対する格別な想いが強く立ち現れているように感じられました。
雪のもたらす危険や雪国の冬の厳しさを台湾の人がそもそも理解できない、想像できないのは仕方のないことかもしれません。
日本で実際に雪で苦しめられている方には「イラッ」とする発言もあるかもしれませんが、そうした事情なのでご容赦いただければと思います。クリスマスが近づくと日本では雨は夜更け過ぎに雪へと変わるといったロマンチックな歌詞をよく耳にしますが、台湾では基本的に「雨は夜更け過ぎも雪には変わらない」のです。