台湾の今年の漢字「換苦茫翻亂疫」
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
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昨年12月8日聯合報・中国信託文教基金会共催の「台灣2020年度代表字大選」発表会が行われ、2020年の世相を表す漢字として「疫」が選出されました。
■清水寺の「今年の漢字」に倣って2008年から
2008年から聯合報と遠東集団徐元智氏紀年基金会の共催(2016年からは中国信託文教基金会)で始まった「台湾年度代表字大選」は、毎年インターネットの一般投票で最も多くの票を集めた漢字一字を、世相を表す「今年の漢字」として選出、各界の著名人による推薦を合わせ12月6日(2020年は同8日)に発表されます。
「台湾年度代表字大選」は、京都清水寺で毎年12月に行われる「今年の漢字」(日本漢字能力検定協会主催)キャンペーンに倣う形で立ち上げられたという経緯もあり、台湾版「今年の漢字」と言うことができるでしょう。発表会場では台湾各界を代表する人物(近年は台湾スポーツ界)により「今年の漢字」が記されます。
2020年は台湾マラソン界を代表するアスリート陳彥博氏が揮毫しました。2020年で13回目を迎えた「台湾年度代表字大選」は、台湾の年末恒例行事として定着しており、1年を代表する漢字決定のニュースはマスコミを通じて大きく報道されます。2015年から2019年までの世相を表す漢字は、以下です。
★2015年「換」:2016年1月に行われる中華民国総統選挙に対する期待。
★2016年「苦」:2016年2月6日に発生した地震によるマンション倒壊、これに伴う手抜き工事発覚・複数の大型台風直撃による各地の被害発生。
★2017年「茫」:8月に発生した大規模停電やサントメ・プリンシペ民主共和国及びパナマ共和国との国交断絶による台湾外交発展の不透明感。
★2018年「翻」:ひっくり返る、倒れる、の意。各種法令の改定及び2018年度統一地方選での与党民主党の大敗から。
★2019年:「亂」:社会や教育方面での価値観の変動。5月同性婚を合法化する法案が可決されたこと、「課程綱要(日本の学習指導要領に相当)」の新課程移行に伴う教科の再編。
いずれも台湾の世相を表す的確な一文字だと思います。
さて台湾が選んだ2020年を表す漢字は「疫」でした。2020年は11月11日から12月6日にかけてインターネットによる一般投票が行われました。投票総数は8万2631万票、「疫」には2万8441票が投じられました。これは投票数全体の約34%にあたります。
過去3年の得票数第1位の漢字が総票数に占めるパーセンテージは、2017年「茫」約14%(1万2445票獲得)、2018年「翻」約19%(1万929票獲得)、2019年「亂」約13%(1万323票獲得)であることから(以上筆者算出)、新型コロナウイルスの世界的感染拡大を表す字が「疫」であることに多くの人が賛同・共感していることがわかります。
また今回の選出にあたり「疫」を推薦した台湾の陳建仁前副総統は、世界中が「疫」で恐慌をきたした1年間であり、疫病流行、防疫、疫苗(ワクチン)等、「試煉與盼望 試練と切望」を表しているとしました (聯合新聞網 2020年12月9日)。
なお、日本の今年の漢字は2015年から順に「安・金・北・災・令・密」です。
■ネットの予想も「疫」多数
11月からインターネットで一般投票が行われる「台湾年度代表字大選」、台湾では毎年夏頃から「今年の漢字」予想が話題となります。SNSやインターネット掲示板には予想関連の話題が多く挙がり、人々の関心度の高さが窺えます。台湾で最大規模のオンラインコミュニティを形成しているインターネット掲示板「批踢踢實業坊(PTT)」でも毎年8月から複数の「漢字予想」スレッドが立ち上がり、多くの人が各々の「今年の漢字」を予想しています。
2020年8月から複数立ち上げられた予想スレッドにも多くの人の投稿が寄せられていましたが、中でも「疫」を予想する人の多さが一際目立ちました。
除了疫還會有別的嗎 (「疫」以外何がある)
當然是「疫」。全球還在大流行 (もちろん「疫」。世界中で流行している)
といったコメントも同スレッドに複数寄せられており、PTTに立ち上げられた予想スレッド中、「疫」の字予想数は全体の約3割を占めました(批踢踢實業坊(PTT) 「2020年度代表字?」)。これは例年の同掲示板の「今年の漢字」予想スレッドでは見られないことです。2020年1月から始まり今も猛威を振るう新型コロナウイルスの感染拡大が人々の生活に大きな影響を及ぼしていると感じました。
■希望を持ち前向きにする5つの漢字
世相を表すとしてネガティブな言葉が選ばれた2020年の「台湾年度代表字大選」ですが、投票順位第2位から第10位までの漢字は順に「蓄、悶、安、韌、惜、勇、偽、茫、封」となっています。私はこのうち「蓄」「安」「韌」「惜」「勇」の5文字にポジティブなイメージを感じます。
なお過去3年の投票順位第10位までに含まれる漢字を見ると、私が抱くイメージとして、ポジティブなのは各年2文字しかありません(赤文字で表示)。
2017年「 茫、勞、憂、亂、虛、盪、滯、厭、變、惜」
2018年 「翻、醒、轉、鬥、變、假、悶、選、憂、淆」
2019年 「亂、謊、憂、跨、驚、慮、啟、詐、換、孤」
2020年はポジティブな意味を含む漢字が5つも選ばれていることに、私は人々の「前へ向かって進もう」というポジティブな気持ちが込められているように感じました。
「疫」で大きく変動した2020年の台湾社会、しかし人々は暗闇から希望の光を見いだそうとしているのではないでしょうか。