中国人留学生の沈黙 国外でも及ぶ政治的圧力か

The following two tabs change content below.
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

最新記事 by 松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵 (全て見る)

 最近の中国人留学生を見ていると、自由に発言できなくなっているように感じることが多い。中国政府からの圧力が日本にいる留学生にも及んでいるのかもしれない。留学生と接するようになって6年目、彼らの雰囲気は確実に変わっている。

◾️タンクマンを教えた6年前

UKRINFORM画面から

 筆者は2018年から日本語学校で1年、2019年からは専門学校で足掛け5年、中国人を含む留学生に日本語での小論文の書き方などを教えている。2018年頃は政治的な話も「あくまでも個人的な見解であるが」と断った上で、普通に話していた。

 中国人留学生も(先生の個人的な考えだから)と割り切って聞いていたのか分からないが、特に反論されたり反発されたりということはなかった。逆に天安門事件について「知らなかった、教えてくれてありがとう」というお礼を言われたこともあった(参照・中国人留学生に伝えた天安門事件とタンクマン)。

 2022年の秋頃のこと。いつものように筆者は留学生に小論文の問題を出した。ウクライナに関する話題で、ウクライナに武器の支援を続けるべきか否かを問うもので、NHKが昨年8月に放送した話題をベースにした。日本の高校生がウクライナからの避難民を招いて話を聞き、軍事侵略について聞くイベントの中で、日本人が「武器を供給したら戦争はいつまでも終わらない」と言ったのに対して、ウクライナの女性は「武器の供給は必要。装備がないとウクライナの民間人が死んでしまう」と応じた(NHK・日本の中高生たちとウクライナの避難者が「平和」について議論)。

 この時に7、8人いる中国人留学生のうち3人の主張がほぼ同一だった。その内容を簡単に説明すると(ロシアとウクライナが戦っているのであるから他の国は介入すべきではなく、中立を守るべきだ。両国が戦えばすぐに決着するはずなのに、ウクライナに武器を支援する国があるため、戦争が長引いている)というもの。

 提出は授業内に出せない者は翌日に集め、この3通の小論文はいずれも学生が自宅に持ち帰って書いたものであった。3人のうち2人は授業中に中国語であれこれ話しており、内容について話をしているように見え、実際に提出されたものはほぼ同じ主張である。

◾️中国政府の意向に反対するのは困難か

 この3人の起案について言えば、中国政府の主張をほぼ上書きしたものと言っていい。2022年秋の時点での中国政府の立場は概ね以下のようなものであったとされる。

 「中国はウクライナ情勢に関して総じてロシア寄りの中立という姿勢を維持している。中国はロシアの侵攻を侵略とは呼ばず、対露制裁に加わることもない。さらにロシアとウクライナの間を仲介するような動きもみせていない。ただし戦争を積極的に支持するわけでもない。」(防衛省防衛研究所主任研究官 山口信治・ロシア・ウクライナ戦争における中国外交 経団連タイムス)

 この起案に対して、筆者は「ウクライナの抵抗は個別的自衛権によるものであって正当であり、国連憲章51条で集団的自衛権が認められているのであるから、武器支援も国際法上正当なものと判断できると思う。日本の大学を受験するのであれば、書かれているような主張では高い評価は得られないのではないか」と意見を添えて返却した。

 この時に、中国人留学生も中国政府の意向に反対することは言いにくい、起案するのは難しいという立場があるのかもしれないと感じさせられた。というのも、この小論文は添削して返却する時に、学生1人1人に対して口頭で、日本語表現と内容に関するアドバイスをしており、クラス全員が起案者が何を書いたかが分かるようにしていたからである。

 もし、中国政府の意向に反対するような趣旨の起案をしていれば、他の中国人留学生に「あいつはこんなことを主張していたのか」と分かるから、彼らは書きたくても書きにくいことがあったのかもしれない。

 期末試験では、この問題を含む3つの問題から選択させて解答させる形式にしたが、件の中国人留学生3人はいずれも、ウクライナの問題を回避して別の問題を選択して起案した。この問題を中国政府の主張のまま書いても高得点は得られない、かといって中国政府に反する主張も書けない、それなら別の政治とは無縁の問題をという考えに至ったのかもしれない。

 実際、この3人は日本語はかなり上手く、選択した問題に対しては良い起案をして、良い成績を取った。

◾️期末試験に書かれた中国政府批判

 ウクライナの小論文以後、筆者は授業中に政治的な話題に触れ、質問する際には「政治的な理由から言いたくなかったら、言わなくて結構です」と注意するようになった。

 さらに、別の科目の期末試験では自国の政治・経済などの状況で問題になっている点を挙げて、それに対して自分の意見を述べるという問題を出し、「書いた内容は基本的に外部に出さない。特に書いた本人の国の政府機関や、関係する団体や個人に示すことは絶対にしない。内容の一部を外部に紹介する時には、本人が特定されないようにする」と注意書きをつけた。

 このように秘密を守るとしたせいか、中国人留学生の一部はこれまでにない、大胆なことを書いてきた。留学生たちの安全を考えて詳細を明らかにするのは控えるが、簡単に言えば、中国に自由はない、1人(習近平国家主席を指しているのは明らか)が考えた通りの社会になっている、政府が変わらなければ中国はいつか解体される、あるいは少数民族に対する迫害を問題視する内容であった。

 もちろん、中国の留学生全員が同じ考えではなく、巧みに政治的な話題を避けるような書き方をしてきた学生もいた。留学生によって政治的な立場は様々であることは分かり、さらに中国政府にあからさまに反する言動は、授業中であれば非常に難しいことを、筆者は理解した。

◾️帰国後に逮捕された香港出身の学生

天安門事件で有名になったタンクマン(TIME画面から)

 4月19日、産経新聞電子版があるニュースを報じた。日本に留学していた香港出身の女子学生が今年3月、帰国した際に日本での言動を理由に逮捕されたというもの。香港の独立を支持するスローガンを自身のフェイスブックに転載した行為が香港国家安全維持法(国安法)に違反するとされた。

 逮捕された学生は2年前、フェイスブックに香港の学生デモを支援するスローガン「香港独立は唯一の道」を転載。おそらく「香港獨立是唯一出路」という言葉と思われるが、それを香港当局は問題視し、国安法を適用したものと思われる。

 学生はその後、身柄の拘束を解かれたものの、パスポートを没収されて日本に戻ることができず、5月以降に起訴されるかどうかが決まるという(産経新聞電子版・香港当局、日本での言動を問題視 国家安全維持法違反で香港人留学生を逮捕)。

 以上は2020年6月に成立した香港国安法の問題であるが、それに先立ち、中国本土では2015年7月に国安法が制定されている。「国家安全維持義務の不履行又は国家の安全に危害を及ぼす行為があったときは、ともに法的責任が追及される」(第13条)(国立国会図書館調査及び立法考査局 主任調査員 海外立法情報調査室 岡村志嘉子・立法情報 【中国】国家安全法の制定)という内容であり、たとえ国外にいても、この法の対象となるようである。

 最近の留学生は、この法の存在を意識し始めているのは間違いないと思われる。何かと批判を受けることが多い中国からの留学生であるが、そうした事情があることは日本人として理解していく必要があると考える。

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です