台湾Vに熱狂 3ラン陳傑憲のドラマに”涙腺崩壊”
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
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台湾チームが24日のプレミア12決勝で日本を4-0で下して優勝、全土を熱狂の渦に巻き込みました。キャプテンの陳傑憲選手は高校時代に日本に野球留学も、NPBのドラフト漏れという屈辱を味わい、その後、若手を率いて日本を下して優勝するという劇的な展開です。3年前と昨年、早逝した父母を思って涙を堪えてインタビューに応じる姿は、多くの台湾人の涙を誘いました。
◾️勝利の瞬間に湧き上がる歓声
台湾チームは「ラグザス presents 第3回WBSCプレミア12」で初のスーパーラウンドに進出、1勝2敗の戦績ながら決勝戦に駒を進めました。24日の決勝の相手は今大会で既に2度対戦し2敗していたライバル日本。世紀の一戦に、台湾各地ではパブリックビューイングが催されました。
私はこの日クリスマスイベント参加で新北市市政府広場にいたのですが、この広場でも大スクリーンで決勝戦が放映され、立錐の余地がないほどの人が集まりました。多くの人で賑わう台北101のカウントダウン花火よりも密集度は高いと感じました。会場では中華民国の国旗が翻り、チャイニーズタイペイの帽子やTシャツを着た人、台湾プロ野球のひいきチームのユニフォームを身に纏った人が、台湾代表選手の一挙一動に大きな声を挙げていました。特に5回に陳傑憲外野手が3ランを放った時には、会場を揺り動かさんばかりの歓声が起きました。
キャプテン陳選手の3点本塁打などで4-0とリードした9回裏、ダブルプレーで試合終了、日本の27連勝を止めて大会の頂点に立ちました。プレミア12、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)、オリンピックの三大国際大会を通じて初めての優勝です。勝利の瞬間に湧き上がった歓喜の声は、永らく台湾に住んでいる私が初めて耳にする大きさでした。
抱き合い喜ぶ親子、むせび泣く中年男性、この瞬間を思い出に残そうと自撮りをするカップル、感動と喜びが会場を包み込んでいました。また呼応するようにクラクションを鳴らす沿道のバイクや車、それに「台湾」のエールで興奮気味に答える人々。皆本当に嬉しそうで、幸せそうな面持ちをしていました。
◾️岡山県の高校に野球留学
陳選手は5打数3安打3打点、外野の守備での貢献によって大会MVPに選出されました。ご存知の方は多いかもしれませんが、陳選手は高校時代に岡山県共生高校へ野球留学し、日本でプロ志望届を提出しましたが指名漏れで帰国、台湾の社会人野球の台湾電力でプレーしたのち、台湾プロ野球の統一ライオンズに入りました。
その後 2023年WBC以降はキャプテンとして選手を引っ張ってきました。なお、このWBCで台湾代表は大量失点、第1ラウンド最下位で予選落ちとなりました。不名誉な結果を導いた原因として、若手選手主体で編成されたことによるピッチャーの経験値の少なさや、各選手のプレッシャーへの弱さが挙げられました。
30歳の陳選手は今大会の参加に際し、平均年齢24.7歳の若手台湾代表を一つに束ねました。日本のドラフト指名漏れから12年後に決戦の地日本で、WBCでも世界一に輝いたことのある日本を破り優勝トロフィーを掲げた、彼の喜びや想いは、優勝後のインタビューからも強く伝わってきました。
最後まで熱い応援のファンに感謝の言葉を贈ったのに続けて「真的沒想到會有這一步,賽前我就跟隊友說,走到現在,有機會就要去抓住它,謝謝隊友很團結。 (まさか本当に一歩踏み出すことができるとは。試合前チームメイトに『ここまできたんだから、それ(優勝)を掴むチャンスはある』と言いました。彼らの団結に感謝します。)」と、一致団結して優勝へ向かったチームメイトへ感謝の言葉を述べました。
さらに、3年前と昨年、ともに52歳で早逝した父母への言葉として、「謝謝天上的爸媽,你們的兒子很驕傲,希望你們在天上有看到 (天国の父さん母さん、そちらからも見られたことでしょう。息子をとても誇らしいと思ってください。)」と、涙を堪えながら両親への想いを言葉に綴りました。彼の天を見る眼差しに、日本人の私も胸が熱くなりました。
◾️王建民投手コーチらの貢献
台湾メディアも悲願の優勝を大きく取り扱っています。25日の各新聞は1面で台湾代表の快挙を「世界冠軍 (世界チャンピオン)」 (自由時報2024年11月25日付 第1面)「3大賽首稱霸 (3大大会で初の制覇)」 (聯合報 2024年11月25日付 第1面)」と報じました。
大会期間の台湾代表の躍動の軌跡を11日間の「奇蹟之旅 (奇蹟の旅)」と称し、大会前は低評価だった代表が試合を経て洗練されていく様を、若手主体のチームならではの有利な点であったと評価しています(聯合報 2024年11月25日付 第3面)。
課題であった「ピッチャーの経験値の少なさ」を克服したことについては、MLBでアジア人史上初の最多勝利のタイトルを獲得した元ニューヨーク・ヤンキースの投手だった王建民投手コーチ、現役時代は速球投手として活躍し、引退後は「大餅」のニックネームで選手達から慕われ、統一ライオンズ監督として二連覇の実績を持つ林岳平投手コーチ、この両コーチの功績が挙げられています。
自由時報では、王建民コーチは投手の「最強後盾 (最強の後ろ盾)」を演じ、林岳平コーチは「最善於解讀選手心態的教練 (選手の心情を最も良く理解するコーチ)」となることで投手陣に安定をもたらした、としています(自由時報2024年11月25日付 第12面)。
◾️代表選手1人に報奨金3300万円
自国の英雄達の凱旋を台湾政府は最大の敬意と待遇で出迎えています。25日の帰国では桃園空港で蕭美琴副総統が待つ中、F16戦闘機4機が併走し代表団を出迎えました。そして到着後は消防車4台がウォーター・サルート(水門礼)を行いました。国賓でも最多2台の消防車によるウォーター・サルート、その倍というのは異例中の異例とのことです(空港勤務経験のある知人談)。
26日午後からは総統府を中心としたルートでの凱旋パレードが行われました。台湾代表チア「CT AMAZE」のダンスパフォーマンスと大量の紙吹雪が舞い上がる演出の中一行を乗せた複数の車が走行し、沿道に詰めかけた大勢の人々は歓声を上げ選手達を出迎えました。パレードの最終地点は台湾総統府で、賴清徳総統が選手団を出迎えるというものでした。またこのパレードは7つの政府系youtubeチャンネルにて同時ライブ配信されるという大がかりなものでした。パレード後は総統府にて頼清徳総統が代表団と会見しました。
頼総統は「我國贏得史上第一座世界級的冠軍。感謝你們將台灣推上世界第一,你們都是台灣之光,也因為有你們,國際社會會看見台灣,知道台灣不是只有半導體,台灣還有棒球。 (我が国は史上初の世界的なチャンピオンの座を勝ち取りました。皆さん台湾を世界一に押し上げくれてありがとうございます。皆さんは台湾の光です。皆さんがいたからこそ、国際社会に台湾を見せつけ、台湾には半導体だけでなく、野球もあるのだということを知って貰えました。)」と、感謝の言葉を述べました(FTNN新聞網 2024年11月26日・全文/請林昱珉不要學王建民「這一點」!賴清德接見棒球冠軍中華隊致詞)。
台湾の国技といえる野球での国際大会初優勝という悲願を達成し、台湾を世界に知らしめた功績に、政府として一連の壮大な出迎えを行うことで、最上の敬意を示したということでしょう。
また台湾代表選手には、金銭面でも破格の好待遇が施されます。教育部体育署の「国光体育奨章」により、台湾代表選手には1人当たり700万元(約3300万円)の報奨金が支給されます。
この他世界野球ソフトボール連盟(WBSC)からは優勝賞金として150万ドル(約4800万元、約2億3000万円)と、中華民国野球協会辜仲諒理事長による7000万元(約3億3000万円)のボーナスが台湾代表団に贈られます(自由時報2024年11月25日付・辜仲諒澄清打擊三流是WBSC說法 不怕被看不起努力拚)。
◾️お祭りムードの台湾、経済効果も期待
優勝記念として、コンビニエンスストア大手4社や飲食店も期間限定セールを始めました。コンビニエンスストアや飲食チェーン店では飲食の「買一送一 (1つ買ったらもう1つ無料で貰える)」を開始、このチャンスを逃すまいと多くの人が購入に走っています。またピザ宅配店やレストラン大手での半額セールも始まり、こちらも食事時には多くの人で混雑している状況です。
国技といえる野球で国際大会での優勝という悲願の目標を達成した台湾代表、台湾の人々はその快挙に歓喜しています。キャプテンの陳選手は試合後のインタビューにて、カメラを見つめこう言いました。
「我們台灣要去跟世界各國對抗一定有很大的挑戰性 但我們創造了歷史 創造了奇蹟 我相信只要有夢的人 就一定可以的。(台湾が世界と戦うときは、必ずとても大きな挑戦が必要となります。しかし我々は歴史を造った、奇蹟を起こした 。夢を持つ人がいれば、これは必ず成せることだと信じています。)」
台湾が世界へ挑戦し、国際大会で優勝することでその名を歴史に刻んだ事実は、台湾の人々に「夢は努力でつかむことができる」という希望をもたらしました。国際状況の変化に翻弄される台湾と台湾の人々に、自信と希望をもたらした台湾代表のプレミア12優勝は、とても重要且つ意義のあるものだと思います。