また”虚婚”ニュースで年明けの日刊スポーツ

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 日刊スポーツが1月1日、もはや新春恒例と言っていい「虚婚」ニュースで1年をスタートした。お笑い芸人の田渕章裕氏(37)が、セクシー俳優の美乃すずめ氏(26)と年内に婚姻すると報じたもの。元日の午前中には田渕氏がYouTubeで完全に否定した。当事者には迷惑、読者を欺き媒体としての信用を落とす新春虚婚ニュースはいい加減やめたらどうかと思う。

■「無茶苦茶ウソじゃ!」と田渕氏

報道を否定する田渕氏(左、インディアンスのぃやぁっとうー!TV画面から)

 問題の記事は1月1日午前3時に日刊スポーツ電子版で公開された。それによると田渕氏が「セクシー女優、美乃すずめ(26)と年内にも結婚する意向であることが1日、わかった。…昨年7月には写真週刊誌で交際疑惑も報じられており、大きな決断を下した。」とし、「最愛のパートナーも得て、芸人としてのさらなるステップアップも目指す。」と締めた(日刊スポーツ電子版・インディアンス田渕章裕、セクシー女優の美乃すずめと結婚へ 3年連続M-1ファイナリスト、2023年1月1日閲覧)。

 当人のコメントもなければ、関係者の話もなし。全く根拠が示されないまま、「大きな決断を下した」と当人しか知り得ないであろう内心を断定して語っている。

 これに対して田渕氏の反応は早かった。午前中に自身のYouTubeチャンネルで動画をアップ。10分余りの動画の中で報道を否定した。

 「僕の年内の結婚報道ですけども、無茶苦茶ウソじゃ!…なんやこれ、おい! ザ・フェイクニュース。…中身に1個でもほんまのことがあったら、『いや、盛りすぎじゃ』『自分で発表させろ』って言うけど、ゼロ百(1%の真実もないという意味か)やからな。ゼロやで。」と強く否定した。さらに、昨年7月に2人の関係が写真誌に報じられて以降、一度も会っていないとした(インディアンスのぃやぁっとうー!TV・インディアンス田渕からご報告があります。)。

 報告そのものをネタにしているあたり、さすがにお笑い芸人ではあるが、日刊スポーツのこうした報道姿勢は非難に値する。根拠もなしに年内に結婚の意向となぜ断定できるのか。せめて本人にぶつけてから記事を書けばいいと思うが、それすらしていないようである。最初から田渕氏にネタを提供するために報道しているかのように思えてしまう。そこに読者に対する思い、真実を届けるという使命感はあるのか疑問に感じる。

■元日付け紙面の結婚報道はスポーツ紙の定石

 この元日付け紙面での結婚報道はスポーツ新聞がよく使う手口。2022年1月1日公開の記事は「女優深田恭子(39)と不動産会社シーラホールディングスの杉本宏之会長(44)が年内にも結婚する方向で調整していることが12月31日、分かった。」(日刊スポーツ電子版・深田恭子結婚へ 交際中の杉本宏之氏が周囲に意思示す2023年1月1日閲覧)というもの。

 あれから1年経過したが、深田氏が結婚したとは伝えられていない。それどころか破局説が飛び交っている状況である。

 2021年1月1日付けの紙面では、河北麻友子氏、徳井義実氏、藤森慎吾氏、狩野英孝氏の4人が結婚すると報じた。このうち河北・狩野の両氏は結婚したが、徳井・藤森の両氏はいまだに結婚していない(参照・日刊スポーツ誤報3発 結婚報道4組中3組が否定)。「的中率5割で大成功」と思っているのか分からないが、2人の芸能人に関して誤報を流しているわけで、これは媒体として真剣に考えなければいけない。

 こういう報道がされるのも芸人の宿命という芸能界とスポーツ新聞の”プロレス”のような筋書きのあるドラマという慣行かもしれず、また、読者もそれを分かって楽しんでいるという面もあるのかもしれない。しかし、新聞は公器であり、裏付けのない報道をするのは媒体としての使命を放棄したに等しい。また、結婚を予定している人がいる芸能人に別の人物との結婚報道が出れば、不和に繋がりかねない。結婚に関する誤報は人権侵害に繋がり、それをメディアが意識していないであろうことに驚かされる。

 この話とは異なるが、僕が中央競馬担当の頃、あるG1馬を担当する厩務員がクレームをつけてきたことがあった。その厩務員の担当馬がラストランのG1レースで2着となった時のこと。レース後、競馬場の厩舎エリアで、「お疲れ様でした」と、そこで働くパートタイマーの高齢の女性からお茶を出され、2人が笑顔で話しているところを写真撮影された。そこまでは良かったが、撮影した日刊スポーツのカメラマンが「レース後、○○厩務員に『お疲れ様でした』と、観戦した夫人も笑顔を見せた」という絵解き(写真の説明文)で会社に送信し、そのまま掲載されたのである。

 後日、その厩務員と美浦トレセンで会った時のこと、僕が日刊スポーツの記者だと知ると「お前の会社のせいで『○○さん、いつ奥さん替えたの?』って散々言われたんだ!」と烈火の如く怒り出した。僕はその件は全く知らなかったが、とにかく謝るしかない。訂正記事を出したところで、ほとんどの読者には分からないということはその厩務員も分かっており、求めてこなかった。当該厩務員にとっては媒体による人権侵害にほかならず、読者は虚偽の情報を信じ込まされたという結末となった。

■すさまじい発行部数減

美乃すずめ氏(同氏ツイッターから)

 僕が日刊スポーツに在籍していた当時(2014年秋退職)も元日付け紙面の結婚報道はなされていた。これは元日付け紙面がコンビニなどで売れ行きがいいために、派手なスクープを入れたいという営業的な側面があると思われる。新聞社は元日に派手で華やかな紙面を作りたいという考えがあるのは否めない。

 こうした中、スポーツ新聞の発行部数減はすさまじい勢いで進んでいる。日本新聞協会の発表によると2022年10月のスポーツ新聞の総発行部数は215万1716部で、2021年の236万9982部から9.2%のダウン。1年で業界全体の部数が1割近く減少している産業というのもそうそうない。10年前の2012年の405万4752部からは46.9%減、2000年の630万7162部からは65.9%減だから、22年間で部数は3分の1になっている(日本新聞協会・新聞の発行部数と世帯数の推移、2023年1月1日閲覧)。

 この凋落ぶりは、もはや1回のスクープ記事で挽回できるようなものではない。誤報が続けば読者の減少が加速されるだけ。スポーツ新聞が生き残りを考えているのであれば、こうした報道姿勢を改めることから始めたらどうか。正月は無礼講というような意識があるなら、とんでもない思い違いである。

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