望月衣塑子記者NGは妥当な判断

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 ジャニーズ事務所が2日に開いた会見で質疑応答で事前に指名をしないNG記者リストが作成されていたことで、批判が集まっている。会見を同事務所の都合がいい内容に導こうとする姿勢は許されるものではないが、リストの中には東京新聞の望月衣塑子氏のようにNGとすべき記者もいる事実から目を背けるべきではない。ジャニーズ憎しで、個々の事情を考慮せずにそのすべてを否定する論調は、世論をミスリーディングしかねない。

◾️ジャニーズ事務所は否定するが…

藤島ジュリー景子氏(ジャニーズ事務所公開の動画から)

 2日の会見では事前に会見の運営を担当したコンサルティング会社が、NGリストを作成していたことが4日になって報じられた(NHK・ジャニーズ事務所会見 会場に質問指名の「NGリスト」)。その後、「FRIDAY DIGITAL」が入手したとするリストによると、ジャニーズ事務所の会見では、事前に指名をしない記者として望月衣塑子、尾形聡彦、本間龍、佐藤章、松谷創一郎、鈴木エイトの6氏が指定されていた(FRIDAY DIGITAL・スクープ!ジャニーズ会見で使用された「指名候補&NGリスト」現物入手&全社名公開!)。

 一方、ジャニーズ事務所はプレスリリースで「今回流出したと言われている資料は、弊社の関係者は誰も作成に関与しておりませんし、指名をしない記者を決める等も全く行なっておりません。…弊社は誰か特定の人を当てないで欲しいなどと言うような失礼なお願いは、決してしておりません。」と説明している(10月5日公開・弊社記者会見に関する一部報道について)。とはいえ、NGリストを作成したのが契約したコンサルティング会社であり、関係者がそのリストを手に会見に臨んでいたとされるのであるから、契約の当事者として責任は免れないのは言うまでもない。

 この点に関して、世間の反応としては概ね以下のようなものであろう。創業者による未成年者への性加害の事実を認め、謝罪し補償すべきジャニーズ事務所がメディアの追及から逃れようと姑息な手段で記者の追及から逃れようとするのは、許し難いーー。

 たとえばジャーナリストの江川紹子氏は、NHKの第一報のニュースを引用しつつ、「これはひどい!どこのコンサル会社ですかね。記者会見はやり直し、ですね。」とXに投稿した(江川紹子氏投稿・2023年10月4日午後8時51分)。

◾️民間の争いに憲法の適用はあるのか

 前出の江川氏のような批判が起きるのは、要はメディアには取材の自由、報道の自由があり、それを不当な手段で制約しようとしたという認識を多くの人が感じたからであろう。もし、政府や地方自治体が同様の手段を講じたのであれば、「事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障のもとにあることはいうまでもない。また、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値する。」(最高裁大法廷決定昭和44・11・26 )とされているのであるから、何らかの法的責任を負うことになると思われる。

 しかし、今回は民間企業が主催した会見であり、公権力と民間という図式は成り立たない。私人間の関係で優位に立つ者が、劣後する者に対して権利の制約に似たような行為があったとしても、それが直ちに憲法に違反するというわけではない。「憲法上の基本権保障規定をそのまま私人相互間の関係についても適用ないしは類推適用すべきものとすることは、決して当をえた解釈ということはできないのである。」(最高裁大法廷判決昭和48・12・12)と、いわゆる三菱樹脂事件で最高裁は断じている。

 その理由として、公権力の行為は権力の法的独占という事情があるのに対し、「他方はこのような裏付けないしは基礎を欠く単なる社会的事実としての力の優劣関係にすぎず、その間に画然たる性質上の区別が存するからである」(同)と理由を示している。

 結局、最高裁は三菱樹脂事件の判決で、私人間で発生した問題については「私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存するのである。」として、いわゆる間接適用説を取ったものと解釈されている(昨今は他の解釈も主張されている)。

 法的観点から考えれば、NGリスト作成とそれに基づく運用は、私的自治の原則を尊重しつつ、それが社会的許容性の限度を超えるかどうかを判断すべきということである。

 前出の江川紹子氏の会見のやり直しのポストは、いかにも江川氏らしい、こうした法的解釈などを抜きに報道の自由、取材の自由が全てに優先するという考えに基づくものと考えられる。

 現在のジャニーズ事務所幹部の真意は分からないが、建前では記者会見を通じて被害者への謝罪や救済の意思を明らかにして、今後の事務所の運営を健全なものとしていくために、広く国民にその意を伝えるというあたりであろう。記者会見はそれを公にする意味で極めて重要な意味を持つ。特に問題が特権的地位を利用し、常習的に性加害を行っていたという、おぞましい事案。おそらく生きていたら死ぬまで刑務所から出ることは難しいレベルの犯罪である。当事者が死亡しているとはいえ、企業には創業者の犯罪行為を明らかにして、民事上の責任を全うするためにも国民の前で真実を明らかにすることは社会的使命と言っていい。

◾️望月記者の迷惑行為

 こうした事情を考えると、ジャニーズ事務所は多くの記者からの問いに答えることが望ましい。そのためにも会見は事務所側も記者もルールに則り、整然と行われるべき。事務所側は都合の悪いことを聞く記者にも質問の機会を与え、それに対しても誠実に答えることが求められ、記者も認められた方法で聞き、真実を炙り出すような問答となるのが理想である。

 ここでジャニーズ事務所が望月記者を「NG」とした理由を考えてみたい。以前から望月記者はさまざまな会見で質問の体で自説を主張する場としており、しかも延々と時間を取り、他の記者の質問の機会を奪う行為が見られた。静粛にすべき他記者の質問時にも大声を出すなどの妨害と思える行為も目につく。

 6月8日には入管難民法改正案を審議していた参院法務員会で、取材のためと入室していたにもかかわらず大声を出して議事を妨害するという行為に及んだ。9月7日のジャニーズ事務所の会見では、テレビ朝日が会見を中継していないという事実無根の質問をして、事務所側から誤りを指摘されている。テレビ朝日にすれば注目度の高い会見の場で、自社の報道姿勢を疑われかねないデマを拡散されるのであるから、その被害は決して小さくない。

 筆者(松田隆)自身、望月記者には伊藤詩織氏の取材で質問をしている時に大声で妨害されるという経験をしている(参照・伊藤詩織氏に質問「虚偽を述べたのか」)。

 こうした経緯を考えれば、望月記者を指名したら延々と時間を使って、一社一問の約束も守らず、他者の人権を侵害するような質問で真実発見の場とすべき会見の場が機能しなくなる可能性がある。そうであれば、会見の趣旨を全うするためにも何らかの形で取材に制約をかけることは考えうる方策である。

 三菱樹脂事件の最高裁判決にある「社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途」として間違った方法と一概には言えない事情もある。

◾️考えうる最悪の選択

取材する望月衣塑子記者(2021年9月)

 会見を運営を担当するコンサルティング会社もそうした事情をはっきりと述べて、「社会的許容性の限度を超える侵害」をするおそれのある記者にはご遠慮願ったという説明をすればいい。それを事務所に都合が悪い質問をしそうな記者という形で一括りにNGとして、世間にバレたら全面的に謝罪というのは考えうる最悪の方法。なぜなら、それによって望月記者のこれまでの会見での迷惑行為をも正当化する要因とされかねないからである。

 指名NGの記者を決めるなら、事前に「社会的許容性の限度を超える侵害」となるような行為は許さない、会見でのルールを守るように訴え、それでも迷惑な行為をする記者には質問の機会を与えないと会見の前に堂々と言っておけばいい。つまり、NGリストを作成するなら、もっと緻密に、個別の事情を考えて作成し、事前に警告を発すべき。

 そうした緻密な作業を回避し、十把一絡げに「NG」としたから炎上したこと、そのことが取材の現場での無法ぶりにお墨付きを与えてしまいかねないことを意識してほしい。そして、我々もジャニーズ事務所は全てが悪という単純な決め付けを避け、個別の事情をよく考えた上で個々の事象の良し悪しを判断していく姿勢こそが求められていることを心すべきである。

    "望月衣塑子記者NGは妥当な判断"に1件のコメントがあります

    1. 匿名 より:

      記者会見を荒らした記者は偽計業務妨害で刑事告発すべきだ

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