酒を呑みチャーシューを愛するムスリム 世界観が変わる話

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 ムスリムというと宗教に厳格で、酒や豚肉などは一切口にせず、日々「アッラーアクバル」と唱え、独特の世界観で生きているというのが我々の大方のイメージではないだろうか。日本に観光にやってきてもハラール認証のある店以外は行かずに、厳格な戒律を守っているというイメージはあるし、実際に僕もそういう取材をしてきた。しかし、ムスリムも人それぞれ。それを実感させられた僕の経験をお伝えしよう。

■ムスリムのイメージがどんどん崩れていく

浅草寺近くの成田屋さんはムスリムで大にぎわい(撮影・松田隆)

 浅草寺の近くにあるラーメン店の「成田屋」はハラール認証を受け、客のほとんどはムスリムである。写真でご覧の通り、店の前はヒジャブをした女性が多く見受けられ、ある種、独特な雰囲気を醸し出している。僕は仕事で成田屋のラーメンを口にしたが、当然、豚を使った豚骨ラーメンではない。スープはかなりあっさりしていて、こってり系が好きな人には少し物足りない感じがする。

 豚骨ラーメンを提供できないのは、ムスリムが戒律に厳しく、豚は一切口にしないことによる。もちろん、それ以外に酒を使用しているミリンもだめで、ハラールという口に入れることが許された食材以外は使えないことが大きく影響している。

 このようにムスリムは旅先でも厳格に戒律を守るものであり、それを認識した上で接することは肝要である。僕のように、取材等でちょっとだけムスリムと関わった人間でも、そのようなことの重要性を認識するのが普通である。

 そんな僕が勤務先で、日本語のスピーチコンテストに出場予定の留学生の手伝いをすることになった。国民のほとんどがムスリムであるインドネシアからやってきたA君は、当然のようにムスリムである。いつも明るいA君、どうにも戒律に厳格なムスリムのイメージからは遠い。

 彼とスピーチコンテストでどんな話をするか2度ほど話し合いをしたが、話を聞いてびっくり。22歳の彼はムスリムなのに酒は飲むし、豚肉も食べるというではないか。屈託なく話す彼に、僕が持っていたムスリムのイメージはどんどん崩れていった。

■ムスリムの彼からまさかの言葉が…

写真はイメージ

松田:母国でも豚肉を食べてたの?

:僕の国で豚肉が売ってるわけないじゃないですか(笑)。

松田:じゃあ、日本に来て初めて食べた?

A君:そうです。

松田:何の料理?

A君:チャーシュー!

松田:味はどうだった?

A君:美味しかったです。

松田:お酒は?

A君:ビールが好きです。

松田:これも日本に来てから飲むようになったの?

A君:いえ。自分の国でも父親と一緒に飲んでました。

松田:それ、ダメでしょう(苦笑)。

ムスリムに人気の成田屋のラーメン(撮影・松田隆)

A君:大丈夫ですよ。僕の国でも半分ぐらいの人は家で隠れて飲んでますから(笑)。

松田:モスクに行く前に飲んだりなんてことは…

A君:バレたら大変ですから、モスクに行く前は飲まないようにしてました。

松田:日本でムスリムの同級生から何か言われない?

A君:ウズベキスタンから来た同級生に「酒と豚肉はダメだぞ」と言われたけど、「ボクはダイジョウブですよ~」って言ってます。その同級生はハラールの店しか行きませんけど、ボクは”ダイジョウブ”です。

松田:イスラムの戒律は守らなくてもいいの?

A君:先生、生きているうちに楽しいことしないと、意味ないですよ(笑)。

■話をして初めて分かることもある

 いや、もう最後は笑うしかなかった。テレビでモスクで祈りを捧げるムスリムの姿を目にする機会は少なくない。しかし、A君の国では、その半分が酒を飲んでいるというのであるから、僕が持っていた世界観が音を立てて崩れていく。ムスリムではあるが、そこに東南アジア的な良い意味での”緩さ”が融合したのがA君なのかもしれない。モスクに行く前はビールを飲まないという事実から、「彼は厳格なムスリムだ」と言っていいのか迷う(笑)。

 「生きているうちに楽しいことしないと、意味ないですよ」なんて、いつそんな日本語を覚えたのか(笑)。確かにA君の言う通りではないか。その類の言葉をムスリムから聞くとは…。

 そして最後にA君はこう言った。「アメリカ人は僕たちムスリムを、テロリストのように見るのかもしれないけど、その多くはアメリカ人と同じで酒を飲んでるし、僕のように豚を食べているムスリムもいます」。

 まずは会って話すことが相互理解に繋がるということであろう。本では学べないムスリムの話に、いたく感動した次第である。

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