新型コロナ・キャバ嬢で台湾メディア暴走

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葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼

京都産業大学外国語学部中国語学科、淡江大学(中華民国=台湾)日本語文学学科大学院修士課程卒業。1998年11月に台湾に渡り、様々な角度から台湾をウオッチしている。

 台湾では4月9日からキャバクラ(酒店)とダンスホール(舞廳)が無期限休業とされました。そのきっかけがキャバクラで勤務していたホステスの感染です。この女性を巡り、現代の台湾の病理「メディアの暴走」が始まりました。

■専業主婦と申告、実はキャバクラ嬢だった

台北市内のダンスホール(撮影・葛西健二)

 今回の暴走した報道は、台湾衛生福利部の陳時中部長(日本の厚労相に相当)が4月8日の定例記者会見で、新たに3件の感染が判明したことを報告したことがきっかけになりました。このうち案件第379番は台湾北部の桃園市在住の30代の女性Aさんが感染者で、4月4日から微熱と鼻水等の症状が起き、検査の結果陽性となったものです。 

 当初、Aさんは出国歴のない専業主婦で、買い物も徒歩圏内であるとし、通常の行動範囲が居住地域とその周辺に限られていると申告。しかし、その内容が感染状況と辻褄が合わない点が多く出てきました。

 そこで、衛生局の女性職員が当人から時間をかけて話を聞いたところ、実は2月にカンボジアへ旅行をしていたこと、また週3日、台北の「酒店 (キャバクラ)」で接客業に従事していたことが明らかになりました。

 翌9日の定例会見で”鉄人部長”陳時中氏は案件第379番に「難言之隱 (隠し事)」があったとし、引き続き感染経路の掌握に務めていると述べたのです。その日からキャバクラとダンスホールは無期限の休業とされたのは、既にお伝えした通りです(参照:コロナを圧倒 台湾の”鉄人部長”支持率91%)。

■焦点はキャバクラ嬢どんな人? 売春は?

 ここまでの経緯を、日本のメディアならどう報じるでしょう。おそらく女性が虚偽の事実を述べたことについて感染経路の特定が遅れる、濃厚な接触があった人たちが、それを認識するのが遅れることなどについて批判的に論じると思われます。そして、それを含め濃厚な接触がある2つの業種を無期限の休業を命ずることの是非を報じるのではないでしょうか。

 メディアによっては、ダンスホールは関係ないという主張をするかもしれませんし、あるいは休業命令が遅すぎたという主張があるかもしれません。それは各メディアによって考え方の違いが出るところです。

 ところが台湾ではそうした報道は横に置かれ、彼女がキャバクラのホステスであったということに焦点をあてました。台湾の酒店は非合法で性行為を行っているところもあり、時折警察の抜き打ち検査が入ります。そうした非合法な営業を行う業種の人が感染したということで、「その女性は売春をしていたのか」「どんな顔、どんな姿をしているのか」という方向へ興味が向かったのです。

■大手メディアによる印象操作、検証なしの報道

自由時報電子版4月10日付けから

 自由時報の4月10日の記事はトップ写真に警察がキャバクラを抜き打ち検査している時のものを使用。あたかもAさんがいかがわしいサービスをして摘発の対象となっていたかのような印象を与えています。

 Aさんはキャバクラに勤務し、衛生福利部から感染経路などについての聴き取りを受けたに過ぎません。メディアは資料写真として関連する写真を掲載することはよくありますが、警察による抜き打ち検査とは全く関係のない事案でこのような使い方をするのは、印象操作と言われても仕方ないでしょう。

 また、Aさんではないかと言われる、体の線がはっきりと見えるスタイルでゴルフをする写真がネットに掲載されると、「ネットではこれは本人と言われている」と報じました。信じられないことですが、台湾の大手テレビ局「民視」や大手新聞社「自由時報」がWEB版とはいえ検証せずにそのまま報道するのです。

 案の定、後日、そのゴルフの写真はAさんではない女性が「自分のインスタグラムの写真から盗用された」と訴え出て「雖然不是第一次,但心情還是很糟,又滿滿的無奈 (これが初めてではありませんが、非常に気分が悪く、どうにもならないなと感じます)」とインスタグラムにコメント。

 それをまたしても自由時報は、そのまま報じています(自由時報電子版4月10日付け)。疑わしい事実を広め、さらに否定する内容も検証せずに報じるのですから、一般人がSNSを見るのと何も変わりません。

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