免職教師の叫び(1)「ワイセツ教員じゃない」

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 札幌市教育委員会は1月28日、28年前に教え子にわいせつな行為をしたとして、市内の中学に勤務する50代の男性教諭を懲戒免職とした。被害者とされたのは写真家の石田郁子氏で、実名で被害を訴えていた。校内での性犯罪が社会問題となる中、メディアでも大きく扱われた事件だが、取材を続けると不自然・不可解な部分が浮かび上がってくる。渦中の元教諭は当サイトの取材に答え、そもそも問題となったわいせつな行為そのものが存在しないとした。事件の真相を連載で追う。

■懲戒免職ー離婚ー職探し 60歳を前の人生暗転

30代の頃、旅行先で撮影(写真提供:鈴木浩氏=仮名)

 1月に懲戒免職となった元教師の鈴木浩氏(仮名)は現在、札幌市で一人暮らしをしている。退職金はなく、アルバイトをしながら再就職先を探す日々。同時に札幌市の人事委員会に審査請求を行い、懲戒免職処分の取り消しを求めている。

 市教委の発表で実名が出されたため、報道直後からネット上ですさまじいバッシングを受けた。「変態」「ワイセツ教員」などの誹謗中傷が飛び交い、家族が一緒に暮らすこともできない状態になったという。

 「家族の安全を守るために離婚を選びました。一緒にいると、石田や、その背後の人たちが家に押しかけて来たり、メディアが取材に来たりなどが想定されます。そのことで家族に負担になりますから『離れて暮らしましょう』ということにしました。ただ、離れていても、いつも助けてもらい、応援してもらっていますので感謝しています」。

 2年前に提訴されたが、裁判資料に関して閲覧制限をかけることが可能で、実名は表に出ないはずだった。ところが、提訴の直後に石田氏の自己破産の手続きが開始。そちらの手続きの中で、損害賠償請求の相手として名前が表に出ることが避けられなくなった。その結果、苗字を変えざるを得なくなったのである。

 「名前が出ると家族に迷惑がかかるため、苗字を変えるしかありませんでした。住所も変えました。ネット上では『逃げるために名前を変えた』といったことが書かれていますが、違います。家族を守るためです。それを私が逃げるためなどと…本当に腹が立ちます」。

 変えた苗字も今回の免職で公表されてしまい、ネットの罵声はどこまでも追ってくる。仕事と家庭を失った上に、終わりなき誹謗中傷と向き合わなければならない日々。

 取材はzoomで行ったが、アパートの一室らしき場所からは、地味な濃いグリーンのカーテンと、椅子の背に無造作にかけられているズボンやショートパンツが映し出されていた。突然の懲戒免職から4か月余り、慌ただしい日々を過ごしてきたことを示しているかのようである。

 現在、石田氏に対してどのような思いかという問いに、鈴木氏は迷いなく答えた。

 「非常な憎しみであったり、苛立ちであったり。腹も立ちます。嘘をやめさせたいと思いますし、非常に強い怒りを持っています」。

 穏やかな話し方が、逆に深い怒りを感じさせる。

■事案の概要 1992年に札幌市の中学で出会う

 ここで簡単に事件の概要を説明しておこう。

 石田氏は裁判資料によると1977年生まれで、1990年に札幌市内の中学に入学。3年に進級した1992年4月に赴任してきた鈴木氏と出会う。鈴木氏の担当の教科に興味があったため、相談などをするようになる。

 ここから先は、両者の主張が食い違う。

 石田氏によると、中学3年の時に鈴木氏からキスをされたり、体を触られたりするなどの被害に遭い、それは大学生になるまで続いたという。交際していると感じていたが、その後、それらの行為を「暴力を振るわれている」と認識するようになった。

 一方、鈴木氏によると、中学・高校の頃にはそのような関係は全くなかった。石田氏が大学2年の時に交際を申し込まれ、1年ほど付き合った後で、自ら交際を終わらせた。

 これ以後は争いのない事実である。

 最後に会ってから20年近く経過した2015年、38歳になった石田氏は鈴木氏に連絡を取り、当時のことを聞き出し、密かに録音。その際に、自身の言い分を認める発言を引き出している。2016年に札幌市に対し、在学中に性的被害を受けていることから、鈴木氏を処分すべきと訴えたが、「事実かどうか分からないので懲戒処分はできない」旨伝えられた。

 2019年2月、わいせつな行為をされ、その後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したとして鈴木氏と札幌市を相手に3000万円の損害賠償を求め提訴。1、2審とも除斥期間にかかっていることから訴えは棄却されたが、2審東京高裁は、中学・高校時代にわいせつな行為が行われたことを認定した。

 東京高裁の判決が2021年1月5日に確定すると、札幌市教委はこれまでの態度を一変。1月7日に鈴木氏から意見聴取を行い、同28日には懲戒免職処分とした(参照:朝日新聞電子版1月28日・28年前のわいせつ行為認定、教諭を免職に 札幌市教委)。記者会見で札幌市教委の紺野宏子教職員担当部長は石田氏に対する謝罪を口にし、2月10日には同市の長谷川雅英教育長が直接、石田氏に謝罪した。

 一方、鈴木氏は3月1日、札幌市人事委員会に免職処分の取り消しの裁決を求める審査請求を行なった。

■処分が違法である3つの理由

 2019年の1審提訴の後、石田氏が実名を出して記者会見に臨んだこと、また、30年近く前の性暴力被害で損害賠償を求めるという異例の裁判ということでメディアも積極的に報じた。

 また、石田氏は2020年7月9日に行われた法務省の性犯罪に関する刑事法検討会第3回会議に招かれ、学校内の性的な暴力などの資料を提出、自身に関する質問に答えている。学校内における教師からの性暴力もしくは性犯罪などの被害者としての立場で、積極的にこの種の問題について発言をしているのである。

 メディアは概ね石田氏に好意的と言える。クローズアップ現代(NHK)は2020年12月15日に「教員からの性暴力をなくすために最前線からの提言」を放映、その中で石田氏を登場させ「先生の言うことを疑わないし、まして、先生が犯罪をするとは思ってないので」とコメントさせている。さらに2021年2月12日には「石田郁子さん “懲戒免職処分が終わりではない”」という、石田氏を単独で扱う番組を放映している。

事件の舞台は札幌市(鈴木浩氏提供)

 このような報道もあり、石田氏に対する一般的な評価は「中学生の頃の被害を、勇気を持って告白し加害教諭を免職に追い込んだ勇気ある女性」といったところであろう。しかし、事案を調べてみると不可解、不明朗なことが少なくない。結論から言えば、鈴木氏の懲戒免職は、以下の3つの点から不当である。

(1)免職のための手続きが違法

(2)高裁判決を処分の根拠とすることが不適切

(3)処分されるような行為が行われていない可能性が高い

 (1)は札幌市教委が行政手続法(札幌市行政手続条例)の規定を無視し、鈴木氏によると聴聞の機会が与えられずに免職させられており、それだけでこの処分は違法と言いうる。また、(2)については判決理由中の判断を法的拘束力があると誤信する、札幌市教委の法の無知に基づくと思われる誤った判断である。

 最も重要なのは(3)。鈴木氏は石田氏が主張するような中学・高校時代でのわいせつ行為は行っていないと主張しており、裁判でもほぼ完璧な「アリバイ」を示していた。ところが、除斥期間による請求棄却という判決の特性から、そのアリバイが検証されないまま判決が確定してしまった。

 鈴木氏は、救ってくれるはずの法の網から次々とこぼれ落ちてしまう不運が重なり、「ワイセツ教員」の汚名を着せられ、60歳を前に仕事も家族も失ったのである。

 上記(1)〜(3)を次回以降、詳しく検証していく。

第2回につづく)

"免職教師の叫び(1)「ワイセツ教員じゃない」"に6件のコメントがあります

  1. 月の桂 より:

    この事件、感心を持っていました。
    数十年も前の被害をどうやって認定するのだろう…と。懲戒免職との報道に驚き、この処分は問題ではないかと思っていました。
    石田氏は、秘密録音をしていたのですね。
    どうも…この教員の方は嵌められたような気がしますね。山口敬之氏と同様かな…。
    刑事事件に感心があり、犯罪被害者はもとより、冤罪や加害者家族にも心を寄せています。不正義を許してはなりません。
    今回の記事、松田さんの「正義のペン」により、冤罪被害者の救済に繋がるかもしれませんね。

  2. 名無しの子 より:

    実は私の友人の知人も、このような被害に遭っています。
    https://news.infoseek.co.jp/article/knuckles_4169/
    リラクゼーションを経営していた男性のところに、女性が施術に来て、三回目の予約をキャンセルした後連絡が取れなくなり、8ヶ月後に「ワイセツ行為を行った」と訴えられ、逮捕。
    男性は全く見に覚えがないので、無罪になるだろうと油断していたら、なんと有罪判決が出てしまいました。現在、懲役刑を受けています。
    奥さんも息子さんも、不幸のどん底です。私の友人は「あの人は絶対に、そんなことをする人ではない!」と言っていますし、夫婦仲も地域の評判も良く、また田舎町であるため、変な噂がたてば商売ができなくなるのはわかっている筈です。
    密室の出来事で、証拠も全くない事件。有罪判決理由は「女性が、自分の恥になるようなことを自ら告白する理由がない」などのような、信じられないものでした。
    昔は、性被害に遭ったら「傷物」のように言われ、お嫁にいけないなどと言われたものですが、今や、それを自慢する人まで出てくる時代。また、それを告発することで勇気ある女性と言われ、お金だけではなく、名声まで手に入れられる時代。女性の言い分だけを鵜呑みにして判決を出すようなことは、絶対にやめてほしいと思います。

    1. 名無しの子 より:

      追加です。その事件は有罪判決が出た後、案の定民事裁判が行われ、刑事で有罪になったこともあり、民事でも敗訴したと聞きました。そして、莫大な損害賠償金を払わされているとか(友人から聞いた話なので、定かではありませんが)
      もしそれが事実なら、はっきり言って。お金目当てだったんでしょうね。その女性は。

  3. 匿名 より:

    私は5~6歳の頃に近所に住む従兄弟から当時は“イタズラ”と言われた性的虐待を受けました。当時は何をされているか全く解らず、ただなんか変だな?と思うだけでしたが、思春期になると理解できるようになり、自分が汚されたように感じてとても苦悩し、今でも自信が持てず自己評価が低いです。従兄弟は町の役場に勤めてそれなりの地位にあり、もちろん家庭があり孫もいます。できるものならそれら全てをブチ壊して復讐したい(怒)心の叫びです。

  4. 匿名希望 より:

     結論先取りのようで申し訳ありませんが、懲戒免職を不当とされる理由の(1)(2)については、おそらく札幌市教委は、高裁判決の判決理由中の判断を根拠として聴聞・弁明の機会付与の事前手続を省略する措置も適法であると判断したのではないでしょうか。
     地方公務員の懲戒免職処分については行政手続法の適用除外とされていますが、参考になる規定として下記のものがあります。
    「(不利益処分をしようとする場合の手続)
    第十三条 行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、次の各号の区分に従い、この章の定めるところにより、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。
    一 次のいずれかに該当するとき 聴聞
    [中略]
    ロ イに規定するもののほか、名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分をしようとするとき。
    [中略]
    二 前号イからニまでのいずれにも該当しないとき 弁明の機会の付与
    2 次の各号のいずれかに該当するときは、前項の規定は、適用しない。
    [中略]
    二 法令上必要とされる資格がなかったこと又は失われるに至ったことが判明した場合に必ずすることとされている不利益処分であって、その資格の不存在又は喪失の事実が裁判所の判決書又は決定書、一定の職に就いたことを証する当該任命権者の書類その他の客観的な資料により直接証明されたものをしようとするとき。」

     聴聞・弁明の機会付与を「判決書」を根拠に不要と判断するに当たっては、既判力の及ぶ範囲のみならず判決理由中の判断を根拠とすることも許されると札幌市教委は解釈したのでしょうし、行政手続法13条2項2号の規定の方では文言上そのように解釈されると思われます。
     除斥期間経過による請求棄却としながら理由中で中学高校時代のわいせつ行為を認定した東京高裁の確定判決が果たして正当なのかという問題はあるのかもしれませんが、仮に事前手続(聴聞・弁明の機会付与)の欠如による手続的違法を主張しても、損害賠償請求訴訟の方で実質的な攻撃防御の機会は手続的保障があったものとして、主張が退けられる可能性があると思います。
     いずれにせよ、聴聞・弁明の機会付与やその省略を含む懲戒手続の直接の根拠規定は札幌市条例と思われますので、そちらに当たられた方が確実かと思われます。
     御参考になれば幸いです。御返信のお気遣いは不要です。

  5. それこそ鈴木氏(仮名)を擁護しても何の得にもならないのに冤罪被害者の立場に立つ松田氏を尊敬します。

    ちなみに弁護士ドットコムでは「やっと」などという見出しで報じてましたね。
    冤罪被害者を山ほど見てきたはずの弁護士がこのようなスタンスとは信じがたいです。

    https://www.bengo4.com/c_1017/n_12405/

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