中居氏事案に既視感 ”伊藤詩織氏事件”6つの共通点

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 中居正広氏の事案について取材していると既視感を覚えることがある。過去に取材した伊藤詩織氏や、札幌市で中学教師が免職された事案との共通点が多いからである。そのような取材をしてきた者であるからこそ見えてくる事案の視点がある。

◾️過去の事案との6つの共通点

伊藤詩織氏(2021年、撮影・松田隆)

 筆者が他の多くのメディアと異なり、中居氏を必要以上に批判しない理由の核心は、同種の事案を複数取材し、リアルタイムでその状況を見てきた点にある。女性サイドを支援する人々によると思われる巧みな戦術により、男性サイドが実態とかけ離れたレベルの誹謗中傷を浴びせられ、社会的に抹殺されるのを実際に目にしてきた。

 もちろん、中居氏の事案がそうであるとは言っていない。ただ、伝えられる内容から判断すると過去の事案との共通点が多く、異なる部分は個別の事情により、当然の帰結としてそうなったとも言えるため、(一度、立ち止まって整理して、よく考えてみようよ)というのが出発点となった(参照・冷静になろう中居正広氏案件伝聞証拠と守秘義務)。

 筆者が取材した同種の事案は大きいもので2つ。伊藤詩織氏と元TBS記者の事案(以下、伊藤詩織氏事案、参照・伊藤詩織氏関連)、札幌の元中学教師と被害を受けたと主張しているカメラマンの石田郁子氏の事案(以下、札幌事案、参照・札幌・元教師の戦い免職処分取消訴訟免職教師の叫び“28年前”の性加害告発で懲戒免職…=弁護士JPニュース)である。実はもう1件、男女ともに一般人ではない事案で男性に話を聞いている。当該男性が記事化を望まなかったため、取材はその一度で終わったが、上記の両事案との共通点が多いことは認められた。

 その共通点とは、①女性が実名・顔出しで被害を主張している、②被害とされる行為は密室など他者の目が届かない場で行われたとされ男女間で証言が対立している、③女性がPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したと診断されている、④支援団体の存在、⑤メディアが総じて女性の立場に立っている、⑥女性サイドが反対意見を述べる者に対して、事実で反論せずに「セカンドレイプ」などと”レッテル貼り”で非難する、という6点。

◾️女性からの情報発信

 ①は伊藤詩織氏、石田郁子氏が実名でメディアの前で顔を出して性的被害を主張していたことはご存知の方が多いはず。それをするのは④と⑤が深く関係していると思われる。以前は、性的な被害を受けた女性はそれを恥ずかしいこととして表には出てこないことが多かった。そのことで多くの人は被害女性の生の姿、生の声に接することができず被害をどこか他人事のように捉えてしまう傾向がある。

 女性が顔も名前も出せないことで、社会的には男性側に有利に働くという見方もかつては存在していたのであろう、それを避けるために、④の支援団体が女性に実名・顔出しでの訴えを促していたと考えられる状況があった。そのことで⑤マスメディアもSNSも味方につける効果が見込める。これは取材した事案における支援する団体の基本的な戦略であり、団体側はここから全てが始まると認識していると思われる。

 中居氏の事案では、女性Aは公的には実名は明かされず、女性Aとしてメディアに顔も出していない。しかし、元フジテレビアナウンサーという限定的な属性から、多くの人が真偽不明のまま人物を特定している状況と言っていい。また、元フジテレビアナウンサー(男性)の1人はSNSで女性Aの実名を出した(それが真実である保証はないが)。

 女性Aは中居氏との性的な行為があった(2023年6月2日、中居氏の自宅マンションにて)後、SNSで発信を続けていたという。その点はフジ第三者委の報告書で明らかにされている。

 「2023年10月下旬、女性Aは入院中にベッドに横たわる自撮り写真と当時の心情を自身のInstagramにアップした。」

 「検討の結果、女性Aに対して対外発信を控えるよう話をすることとし、F氏から女性Aに伝えることになった。…これに対して、女性Aは泣き、『私から社会とのつながりを奪うのか』などと訴えたとのことである。」

 「その後も女性AはInstagramで自撮り写真や病状の具体的内容、心情などを投稿して対外発信を続け、CX関係者や産業医らはその動向を見守った。」(以上、報告書p44-45)

 女性Aは情報発信の中止に対して強く抵抗し、その後も発信を続けることとなった事情は報告書に明記されている。

◾️両当事者の主張の乖離

 以上のように、中居氏の事案においても、事実上①は踏襲されていた。

 最大の特徴は②である。典型的な密室での出来事で男女の証言が全く異なっている。伊藤詩織氏は著書「Black Box」の中で被害状況を「ベッドの上で体と頭を押さえつけられ、覆い被されていた状態にされ、窒息しそうになり、その瞬間『殺される』と思った」などと記している(同書p51)。

写真はイメージ(札幌大通り公園、撮影・松田隆)

 ところが、元TBS記者によると「原告(筆者註・伊藤詩織氏)は、就職活動について自分が不合格であるかを尋ねながら、左手で被告(同・元TBS記者)の右手を握り、引き込むように引っ張ったため、被告は原告と添い寝をする状態になった。原告は、再び就職活動に関し自分が不合格であるかを尋ねつつ、寝返りを打ちながら右足を被告の体の上に乗せた。そのため、被告は、悪印象を挽回しようとする原告に安心感を与えようとして、性交渉を始めた。」(一審東京地裁判決文から、参照・追い詰められた伊藤詩織氏 控訴審の行方)と正反対の状況が説明されている。

 札幌事案でも同様で、石田郁子氏は卒業式の前日に教師の自宅でキスをされた、一緒に登山して山頂近くで口腔性交をさせられた等を主張しているが、元教師はその時のアリバイを主張し石田氏の妄想の産物であるとしている(参照・免職教師の叫び(4)疑わしい元教え子の主張、同(5)まるでAV元教え子の証言)。

 中居氏の事案では上記の両事案ほどの乖離はないように思えるが、「G氏(筆者註・編成局長)は…港社長及び大多専務に対して…中居氏は女性Aの認識とは異なる受け止め方をしていることを報告した。」(報告書p42)と、行為態様についてはともかく当事者の認識については乖離していたことが窺われる。

◾️反論になっていない?「セカンドレイプ」

 ③女性がPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したと診断されている点は、既に多くの報道がなされており、女性Aについても報告書に記載されている。⑤メディアが総じて女性の立場に立っている点も多くの方がお分かりのはず。報告書に対して正面から疑問を呈しているのは筆者以外では、竹田恒泰氏がテレビで言及した程度か。伊藤詩織氏事案、札幌事案でも男性側は悪魔のような存在であるかの如く扱われていたのは公知の事実である。

 ⑥については、筆者がこれまでさんざん浴びせられてきた言葉である。事実の摘示に対して「セカンドレイプである」と主張し、事実関係を争わず、レッテル貼りで対抗してくる。特にすさまじかったのは伊藤詩織氏事案での2つの記事に対するものである。この時、強姦致傷(当時)の被害者の女性に伊藤詩織氏が受けた被害の供述に不自然な部分があることを指摘していただいた(参照・伊藤詩織さんへ強姦致傷被害者から()())。

 これに対して「強姦致傷の被害者と称する女性は偽物ではないか」「本当なら事件番号を教えろ」「筆者(松田隆)による伊藤詩織氏へのセカンドレイプだ」といった意見がX(当時Twitter)上に次々と投稿され、サイトにも同様のコメントが多数寄せられた。そもそも強姦致傷の被害女性がセカンドレイプの前提となるファーストレイプの存在に疑問を投げかけているのであり、無条件にファーストレイプを認定した上での批判は批判として成立しないと思われる。そうした論理上の問題を気にしない人々による批判と言える。

 中居氏の事案を書いた筆者のもとには「セカンドレイプだ」といった類の批判が、この記事を書いている4月7日の段階でも寄せられている。支援団体にシンパシーを抱く者の間で定型的な反論方法として共有されているのかもしれない。

◾️中居氏事案の独自性

 以上のように、両事案と中居氏の事案の共通点は少なくない。異なる点は、両事案は法廷で争われ、中居氏の事案は訴えが提起されることなく法廷外で決着していることである。

 伊藤詩織氏事案では原告の一部勝訴となった。ただし、反訴で伊藤氏に対する名誉毀損による損害賠償請求が認められており、裁判結果の印象としては痛み分けであるが、メディアの報道では伊藤氏が完全に勝訴したかのように扱われている。

 札幌事案では原告の石田郁子氏の敗訴の判決が確定も、二審東京高裁が判決理由中の判断で原告の主張する事実があったと認めた。原告は上告せずに判決を確定させて「裁判所も事実を認めた」と主張し、その結果が影響して中学教師は懲戒免職処分とされた(判決理由中の判断には法的拘束力がなく[民事訴訟法114条1項参照]、裁判で決すべき権利の帰趨にとって重要でない場合には、緻密かつ正確に事実認定がなされないこともあり得るとされる)。

 一方、中居氏事案は法廷で争われることがなく、第三者委員会が「性暴力による重大な人権侵害があった」と認定したに過ぎない。当該、フジ第三者委は、女性Aの支援団体と関連が深いと思われる弁護士が委員の過半数を占めており、しかも日本の法廷ではあり得ない、WHOの基準を用いて法的に曖昧な表現である「性暴力」を認定した(参照・フジ第三者委による中居氏の「性暴力」認定に疑問)。

 同種の事案を間近で長期間取材してきた経験、蓄積した知識から、中居氏に対する重大な人権侵害が発生しているのではないか、過去の2つの事案からして支援する団体の戦略によって中居氏が深い闇に落とされたのではないかと考え、そうした社会のあり方に警鐘を鳴らしたいという思いから筆を執った。

◾️もう一度報告書を読んでみよう

写真はイメージ

 以前にも書いたが、女性Aは一連の事件に関係して心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されるなど、深刻な症状が認められるとのこと。心よりお見舞い申し上げたい。事件の傷が癒え、新たな人生を前向きに生きていかれることを願っている。

 ただし、そのことと、社会が中居氏をどう扱うかは次元の異なる問題である。現状、中居氏が問われるべき責任の重さと、受けた社会的制裁の間に均衡が保たれているとは思えない。

 我々はもう一度、冷静になって、この事案を考え直すべきではないのか。中居氏に保障されるべき人権は本当に守られているのか。そうした思いを念頭に報告書を読めば、それまで見えてこなかったものも見えてくるように思う。

    "中居氏事案に既視感 ”伊藤詩織氏事件”6つの共通点"に5件のコメントがあります

    1. 匿名 より:

      HRNが中立的な団体ではないとなれば
      HRNと関係が深い第三者委員会は中立的とは言えないとなり
      ガイドラインに沿っていないことになりますね。

    2. 匿名 より:

      私が一番気になっていることは「⑤メディアが総じて女性の立場に立っている」です。
      テレビの影響はとてつもなく大きい、ニュースやワイドショーの一日の延べ視聴者数は人口を超えるのだから全国民がテレビを見てると言っても過言ではない。そのテレビがあまりにも偏向している。女性のいうことを鵜呑みにし、週刊誌の書いていることを裏取りもせずに報じ、中居氏やフジテレビの主張を検証しようとすらしていない。第三者委員会の矛盾を指摘する法律家やメディア、SNSは黙殺。彼らが批判展開の前提にしている週刊誌が過去に何度も裁判で負けているいい加減なメディアであることを彼らは十分知っているはずなのに。
      結果それを信じた世間やスポンサーが加害者とされた男性を異常なまでにバッシングしだして、男性やフジテレビが何をしたのかわからないにもかかわらず、容赦のない破滅的な制裁が科されてしまっている。中居氏は示談で相手が納得しているにも関わら引退に追い込まれ詳細知るはずのない関西の大物タレントから公然とクズと罵られた。フジは500億円もの損失だという。これほどの損失が罪を認めない限り続く。こうなってしまうとやっていないことでもやりましとと言ってなんとか苦しみから逃れたいとすら思うのではないだろうか?典型的な拷問手法。魔女裁判である。テレビはなぜこんなにも偏向しているのだろうか?

    3. 匿名 より:

      あまりにも印象操作しているような言い方や、速報と赤字ででかでかと名前と性暴力認定とか、感情がある人間なのに自殺したら、誰が責任とるんだろう。業務上と個人の名前を書く必要があるのだろうか。自分も芸能人なのに、平気でクズとかいえる人ってどういう気持ちでいえるんだろう。言葉が汚なすぎて不愉快。人権侵害じゃないのだろうか。自分が管理者なので、会社の人と飲みや、うかつなことは言えないと怖くなりました。

    4. 匿名 より:

      拝読されていただき非常に参考になりました。
      特に指摘される⑤と⑥に関しては大きな問題だと感じます。それこそ、伊藤詩織氏の映画ブラックボックスダイアリーズについてても⑥の存在があった事でここまで大きな問題になってしなったのではと私は思います。勿論、伊藤詩織氏が日本が外圧に弱い点と共に⑥の考え方がある事を分かった上であのような行為に及んだ可能性も否定出来ませんが

    5. 匿名 より:

      松田先生と同じように、この報告書は問題だらけと指摘した著名人も多く居ます。
      橋下弁護士、古市さん、安住アナ、その他中居さんからある程度話を聞いていて事実を知っている芸能人たちは、この報告書に納得していませんとはっきりおっしゃっています。
      そういう発言をすると、セカンドレイプだ世間とズレてるなどと、また大バッシングです。
      警察が動いていないのが何よりの答えですよね?
      中居さんへの人権侵害について、フジテレビより謝罪するべきです。
      尚、伊藤詩織さんの事件はあまり詳しくないので勉強してみます。

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