豪16歳未満SNS禁止 ネットいじめ端緒
松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵
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豪州議会は29日に16歳未満にSNSの利用を禁じる法案を可決した。施行は1年後となる予定で、違反企業には最大で4950万豪ドル(約49億円)の罰金が科される可能性があるという。この世界で最も厳しいと思われる法律は、ネットのいじめが原因で自ら命を絶った少女の悲劇がきっかけになったと報じられている。
◾️2021年成立の法を改正
16歳未満のSNS利用を禁止する法律は「Online Safety Amendment (Social Media Minimum Age) Bill 2024」(以下、改正法)で、2021年に成立していた「Online Safety Act 2021」(以下、旧法)を改正したもの。
法案は既に公開されており、旧法のセクション4(法の概要)の最後に「…プラットフォームの提供者は、規定された最低年齢に達していない子どもがアカウントを作成するのを防ぐために、合理的な措置を講じなければならない」を加え、さらに同セクション5(定義)に「年齢を限定されたユーザーとは、豪州の16歳に達していない子供を意味する(age-restricted user means an Australian child who has not reached 16 years.)」を加えて、16歳未満に特定のSNSに対してアクセスを禁じる仕組みにしている。
法案成立後、同国のアンソニー・アルバニージ首相が公式声明を発表。16歳未満が禁じられるのはTikTok、Facebook、Instagram、X(旧Twitter)などで、Google Classroom、YouTubeなどは対象外であることなどを明らかにした。
また、規制は「若い人が成長の重要な時期において、より強力な保護を受けられる画期的な措置」であるとし、同政権が「保護者を支援し若者を守るという公約を果たした」としている(以上、PRIME MINISTER OF AUSTRALIA・Social media reforms to protect our kids online pass Parliament)。
サラ・ヘンダーソン上院議員も28日、自らのサイトで声明を発し、「我々は、豪州のティーンエイジャーをソーシャルメディアに関連する害や悲劇から守ることを目指しているこの法案を心から支持する」と説明している(SARAH HENDERSON・Online Safety Amendment Social Media Minimum Age Bill 2024, second reading)。
違反した場合に子供や保護者には罰則はなく、適切な措置を講じなかったプラットフォームに最大4950万豪ドルの罰金が科されることになる。
◾️豪のネットいじめ事件が引き金
現地の報道を見ると、改正法のきっかけとなった事件がある。それが2018年1月のドリー・エヴェレットさんが自ら命を絶った事案。2003年生まれのエイミー・ジェーン・ドリー・エヴェレットさんは同国北部準州(ノーザンテリトリー)の出身で、子供の頃は帽子の広告のモデルになるなど活躍していたが、クイーンズランド州ウォリックの学校に通っていた14歳の時に、ネットでの長期の激しい嫌がらせ、いじめによって自殺に追い込まれた。これは当時、大きな社会問題となり、葬儀には数百人の弔問客が訪れたという。
その事実を紹介する記事では、同国の国立いじめ防止センター(Australia’s National Centre Against Bullying)が、7人に1人のサイバーいじめの被害を受けているとしている(DW・Online harassment blamed for Australian child model’s death)。
その後、ドリー・エヴェレットさんの両親は「ドリーズドリーム」という反いじめ団体を設立した。「彼女(筆者註・ドリーさん)がオンラインでのいじめによって自殺したことが、反いじめ活動『Dolly’s Dream』の設立に繋がり、またSNS利用制限に関する法案の提出を促進した。このような背景の中で、16歳未満の子どもに対するSNS利用禁止法案が議論されている」と報じられている(Education HQ NEWS・Raising awareness, spreading kindness on Do It For Dolly Day: May 10)。
その年の11月にはノースサウスウェルズ州でドリー法と呼ばれるネットいじめ(cyberbullying)を罰する法が成立した。「2007年家庭内および個人暴力犯罪法(Crimes (Domestic and Personal Violence) Act 2007 (NSW))」の改正法がそれで、オンラインでの脅迫的なメッセージや、繰り返しのオンラインでの虐待行為に対して厳罰化して臨み、物理的または精神的な害を与えた場合、最長5年の懲役刑を科すことができるようにした。
さらに今年6月11日には同国で野党の自由党を率いるピーター・ダットン氏が16歳未満のSNS利用禁止について、連立する内閣の政党が次の選挙で勝利した場合、100日以内に当該禁止措置を実施すると発表し、それを受けての今回の法案成立へと繋がっている(The Guardian・Peter Dutton wants a social media ban for children. But would ‘real life’ rules work?)。
ダットン氏は過去に国防大臣や内務大臣を歴任している。キャリアを見る限りゴリゴリの保守派で、公益の重要性を強く意識する政治家の可能性はある。
◾️日本でもあるネットいじめ
このように豪州の16歳未満のSNS禁止は「サイバーいじめで少女が犠牲」「サイバーいじめは豪州では珍しくない」「保守派政治家が16歳未満の禁止を叫び始めた」という流れであることは分かる。
日本ではかつて、女子プロレスラーがSNSでの罵詈雑言、誹謗中傷を受けて自ら命を絶つ悲劇的な事件もあり、政治も本格的に取り組まなければならないのは明らか。
29日に三原じゅん子こども政策担当大臣が半年程度で課題と論点整理を行う予定であることを明らかにした(テレ朝NEWS・毒か薬か…未成年のSNS利用 豪州で16歳未満“SNS禁止”へ 日本も議論へ)。
何らかの規制が始まる可能性はあるが、憲法で保障された表現の自由(21条1項)との絡みもあり、一筋縄ではいきそうにない。いじめの問題はサイバー空間だけではなく、実社会でも行われており、サイバー空間でのいじめが起きないようにしても、それが実際の世界でのいじめに転化してしまうようなら意味がない。
大前提としてネットリテラシーを若い頃から身につけさせる必要があり、それと並行して規制の議論も進めていくべきと思う。