文化人放送局を提訴 著作権侵害で損害賠償請求

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 当サイトは動画配信チャンネルを運営する株式会社文化人放送局(代表取締役・屋代雄三ら)を相手取り、著作権侵害による損害賠償を求める訴えを東京簡易裁判所に提起した。同社は今年7月に公開した2件の動画で、当サイトが著作権を有する写真を無断で使用。その後、当サイトのYouTubeに対する動画の削除申立てが認められて、現在は公開できない状態になっている。

◾️東京地裁に移送

東京簡易裁判所(撮影・松田隆)

 当該訴訟の原告は当サイト主宰の松田隆で、請求額は60万円、提訴は9月24日付。少額訴訟(民事訴訟法、以下、断りない限り同法368条以下)を利用したが、東京簡裁の話では裁判官によって通常の手続きによる審理及び裁判をする旨が決定され、東京地方裁判所へ移送されることとなった。

 詳細は不明であるが、少額訴訟により審理及び裁判をするのを相当でないと認められたようである(373条3項4号)。訴えは東京簡裁に提起したが、実際の裁判は東京地裁で行われるのは間違いない。

 当サイトが確認した権利侵害は、文化人放送局が7月10日に公開した文化人デジタル瓦版(以下、動画①)、同13日のThe Q&A(同、動画②)という2つの番組。どちらも同8日にトルコに強制送還されたユージェル・マヒルジャン氏が実質的に経営する会社の前で立つ写真で、当サイト・令和電子瓦版を主宰する松田隆が撮影した。初出は2023年5月22日の記事「川口市在住クルド人に聞く(後編)」である(参照・文化人放送局に著作権侵害の疑い 動画削除申立て)。

 当サイトでは8月に著作権侵害の事実を確認し、直ちにYouTubeに動画の削除を申立てた。同時に文化人放送局に対してメールで事情を説明するように求めたところ、同局は2度、謝罪の意を示す返信をしてきた。もっとも差出人の職位・氏名を明らかにせず、真摯な反省が感じられるとは言えない内容であった(参照・”BAN”文化人放送局 著作権問題で一部活動停止)。

 YouTubeへの動画削除の申し立ては最終的に認められ、動画①は8月23日、動画②は同29日に削除された。同局は著作権侵害により、メインチャンネルの「文化人放送局」で2週間、新規配信やライブができない制裁措置を受けている(参照・著作権侵害の文化人放送局「チャンネル閉鎖危機」)。

◾️提訴による反射的効果

 動画の削除により、YouTube上での問題はいったん決着がつき、被った損害の賠償を請求するかどうかという法律上の問題が残された。最終的に今回の提訴に至ったのは被った損害の賠償を求めることが理由である。

文化人放送局に無断使用された問題の写真(撮影・松田隆)

 とはいえ、当該提訴には動画公開に関する法的効果があることは説明しておかなければならない。それは文化人放送局による反論から生じる削除動画の再公開を阻止する効果である。

 文化人放送局は2件の著作権侵害事案について、9月に入ってYouTubeにカウンターノーティフィケーション(以下、CN)を提出した。

 CNは直訳すると「反論通知」または「異議申立通知」であり、米国著作権法第512条に定められた、「著作権侵害には当たらない」「動画の削除は誤りである」と偽りのないことを宣誓した上で主張する法的手続と考えてよい(参照・コーネル大学法科大学院 :17 U.S. Code § 512 – Limitations on liability relating to material online)。

 CNが提出された場合、10営業日以内に著作権者が提訴しない場合、YouTubeは削除した動画を再公開するのが原則とされる。つまり、文化人放送局によるCNが出された段階で当サイトがCN提出から10営業日以内に提訴しなければ、動画①、動画②が再び公開され、新たな著作権侵害が行われることになる。

 つまり、当サイトが有する著作権を保護するためには、裁判所に訴えを提起せざるを得ない状況となった。9月24日の提訴は、こうした状況で行われた。

◾️日本には存在しないフェアユースの規定

 文化人放送局は当サイトが権利を有する写真について、無権利者であるにも関わらず無断で使用した。それにもかかわらず、「本件利用がフェアユースに該当することは明らかであり、違反警告の対象となることに異議を述べます。」(同局が提出したCNから)としている。

 フェアユースとは著作権の例外であり、著作物の使用について4つの観点から検討し、その使用が公正である場合には侵害と認めないというものである(YouTube・著作権 著作権の例外とは?)。あくまでも米著作権法に基づく評価方法であり、日本の著作権法にはフェアユースに相当する包括的な規定は置かれていない。当然、YouTube上でフェアユースを主張しても、日本の裁判では直接的な法的根拠にはならない。

 それもあって、YouTubeでは実際に権利者が訴えを提起した場合にはCNを無効化して、動画の削除を維持する(再公開しない)。仮に当サイトがCNにもかかわらず訴えを提起しなかった場合、動画は再公開される。そうすると新たな著作権侵害が発生する可能性がある。

◾️違法な行為の代償

写真はイメージ(AIで生成)

 そもそも、同局は当サイトが送った著作権侵害の指摘のメールに対して謝罪をしている。それは著作権侵害の事実を認容したことと同義である。その一方で、CNを提出する行為は自己矛盾を孕み、謝罪は形式的で真摯な反省とは無縁と判断せざるを得ない。

 著作権侵害をした上で、矛盾した対応を取るのは、権利者の感情を害する行為と言ってよい。このような行為を黙認すれば、著作権者の有する権利を軽視する風潮を助長し、社会に悪影響を及ぼしかねない。

 今回の訴訟は、文化人放送局による違法行為に対する法的責任を明確にし、当サイトの権利保護を目的とする手続きである。そのことが権利者の有する権利を守るというごく当たり前の社会の実現に資するのであれば、訴訟提起の意義は小さくない。

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