李登輝元総統死去 台湾を台湾人の台湾とした功績
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
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李登輝元総統が7月30日、台北市内の病院で死去しました。7月31日からの3日間、台湾政府各機関及び教育機関は半旗を掲げ弔意を表しました。また台北市の台北賓館には献花会場が設置され、8月1日から同16日まで一般に開放、氏を偲び多くの人が訪れています。李登輝氏の台湾での貢献と影響力、氏の存在がいかに大きいものであったかがわかります。
■台湾メディアの報道も連日トップ
台湾メディアは李登輝氏に関する報道を30日夜からトップニュースで扱い、同時に李氏の生涯回顧や民主化を推進した総統時代の業績に焦点を当てた番組や特集が組まれています。
これら報道は李氏を「民主之父」「民主先生」とし、李登輝氏が台湾に残した二大功績、「寧靜的革命 (静かな革命)」による民主化の実現と、本土化政策推進による台湾人意識の拡大を挙げ、またこれにより新たな中台関係を定義、両国の関係を「維持安定」させたと評価しています(中央通訊社、中国時報、自由時報、上報)。
■「日本精神」を持つリーダー「台湾精神」の形成
日本統治下の台湾で生まれ日本の教育を受け育った李登輝氏はかつて「我22歲前是日本人 (私は22歳までは日本人だった)」、「日本精神」の持ち主であると発言しています。清廉、実直、誠実といった考え方を台湾では「日本精神」と言います。李登輝氏が民主化を推し進め国民党の長期反日教育が消えていく1987年以降、日本教育の再評価と台湾人意識「台湾精神」構築の最重要要素として「日本精神」という言葉と価値観が広く認知、使用されるようになりました。複数のメディアで李登輝氏の「日本精神」が台湾人意識の形成と拡大に及ぼした影響を回顧する特集が組まれています。
體現日本精神 前總統李登輝成典範 (李登輝元総統 日本精神体現の模範)…(民視新聞網2020年7月30日)
踏上日本哲道的「台灣大人」:李登輝…時代鑄造的多桑領袖 (日本哲学の「台湾大人」:李登輝…時代が生み出した「多桑 (父さん)」指導者)…(注:「多桑」台湾マンダリンで「tousan」と発音、日本語の「父さん」の当て字。日本教育を受けた世代に対し親しみを込めて呼ぶときに使われる)…(聯合新聞網 2020年7月31日)
ネットでも李登輝氏の功績を称える声が多く投稿されています。Facebook、Yahoo奇摩ニュース、批踢踢實業坊(PTT)などの声です。
感謝李登輝前總統的奉獻 (李登輝元総統の貢献に感謝します)
沒有李登輝今日可能台灣沒有總統立委等選舉呀 (李登輝がいなければ、現在の総統や議員の国民直接投票選挙もなかっただろう)
可以建議定1/15為台灣民主之父誕辰紀念日嗎? (1月15日(李登輝氏の誕生日)を台湾民主の父生誕記念日にしてもいいかい?)
對於推動台灣民主貢獻最是關鍵, 没有之一, 真的是台灣國父 (台湾民主化推進に対する貢献が肝心な点だ、比べるものがない、真の台湾国父だ)
また、李登輝氏の人柄や信条を称え、その根本には日本教育、日本精神があることに触れるコメントも複数ありました。
如同自己爺爸一樣 具有武道精神的父輩 (自分の祖父のようだった 武士道精神を持った世代の人)
李登輝22歲前是日本人。人格養成是20歲之前,所以教育真的很重要。 (李登輝は22歳まで日本人だった。人格の形成は20歳まで、つまり教育とは真に重要なものなのだ。)
■日本メディアの報道にも注目
台湾各メディアは今件の海外メディアの反応も紹介しています。とりわけ日本のメディアが速報として伝えたことや、各新聞社やテレビ局が「民主化推進」「台湾民主化の父」と評し李登輝氏の逝去をトップニュースで取り上げていることを大きく報道しています。
前總統李登輝辭世 日媒報導稱台灣民主之父 (聯合報) (李登輝元総統逝去 日本メディアは台湾民主の父と呼ぶ)
「台灣民主化推手」各大日媒頭條關注李登輝辭世(Newtalk) (「台湾民主化の旗手」 日本各大手メディアトップニュースで李登輝氏死去に注目)
日本多家媒體以速報形式 報導李登輝前總統辭世(民視新聞網) (複数の日本メディアが李登輝前総統の訃報を速報で伝える )
李登輝辭世 NHK等多家日媒報導稱「台灣民主之父」(Yahoo奇摩速報) (李登輝氏逝去 NHK等複数の日本メディアは「台湾民主の父」とする)
日本各報頭條焦點 關注李登輝過世(寰宇新聞) (日本各報道がトップニュース 李登輝氏死去に注目)
■日本での知名度に意外な台湾ネット民
台湾最大の掲示板「批踢踢實業坊(PTT)」では、日本のYahoo等日本のネットユーザの声を中国語に翻訳し掲載、李登輝氏死去の報道後3000件以上のコメントが寄せられ、親日家であった李登輝氏の功績を称え哀悼の意を表するものであること、李登輝氏が日本からどれほど尊敬され愛されているかを紹介しました。この投稿に関して台湾の多くのネットユーザから、以下のような声が寄せられました。
日本人也知道李登輝嗎? (日本人も李登輝を知っているのか?)
我看那留言數已經破千了…日本人怎麼這麼關心李前總統?日本知道他喔? (日本でのコメントは1000件を越えているよ…日本人は李元総統にそんなにも関心があるの? 日本も知っている?)
可見李登輝的影響力啊 (李登輝の影響力が見て取れるな)
李登輝真的是傳奇人物,涵蓋台日兩邊的關係 (李登輝は台日両関係についても歴史に残る偉大な人物だ)
以上のように、日本での李登輝氏の知名度の高さと影響力に驚きを示すようなコメントが多数寄せられていたのが意外でした。海外でもこれだけ高い評価を得ているという事実を目にした台湾人は、あらためて李登輝氏の偉大さを思ったのではないでしょうか。
■次の世代に引き継がれた李登輝氏の功績
1999年、李登輝氏は、中国と台湾は特殊な国と国の関係であるという「二国論」を打ち出しました。今の蔡英文政権は基本的に李登輝氏の対中路線を継承しています。蔡英文総統は7月30日、自身のフェイスブックに追悼のコメントを投稿しました。投稿中、蔡総統は最も深い哀悼を表明、李登輝氏が「讓台灣成為台灣人的台灣 (台湾を台湾人の台湾とした)」ことを高く評価した上で、
他把民主和自由留給台灣,這樣的精神,將會引領新時代的台灣人,勇敢面對下一階段的考驗,追求「生為台灣人的幸福」。 (李登輝氏は民主主義と自由を台湾に残した。この精神は新たな時代の台湾人が勇敢に次の試練に相対し「台湾人として生まれた幸福」を追い求める牽引力となるだろう。)
と、氏の功績に大きな賛辞を送っています。
今、コロナ禍で、国際社会の中国に対する評価は大きく下がっています。それに対し台湾は迅速な防疫対策により世界から称賛を集めています。今こそ李登輝氏が作り上げた「民主主義国家台湾」の存在を国際社会にアピールすべきで、その絶好の機会ではないでしょうか。