森永卓郎さん頑張れ かつての編集協力者エール

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 経済アナリストの森永卓郎氏(67)が2023年11月に余命4か月の宣告を受けながらも治療を続け、ここに来て執筆活動を加速している。本職の経済関連だけでなく、寓話の創作にも取り組んでいるとのこと。以前、森永氏の著書の編集協力をしたことがある筆者(松田隆)としては、あらためてそのバイタリティに敬意を表し、エールを送りたい。

◾️少年のような気持ちの経済アナリスト

森永氏の著書で編集協力

 森永氏は2023年11月に医師から余命4か月の宣告を受けた。原発不明ガンで、どこにガン本体があるのか分からないため、免疫細胞を元気にする治療を行っているという(デイリー新潮・「三途の川がはっきりと見えた」がんで余命宣告の「森永卓郎さん」…医療費「毎月120万円」の先に見据える「病は気から」の境地)。

 この治療が良かったのか、余命宣告の4か月を過ぎ、2024年1年を生き続け、2025年の新年を迎えた。2024年8月には1か月で13冊の新著を書き終えた。9月以降は寓話の創作に力を入れ、生涯700編を著したイソップを超えるのが目標だという(デイリー新潮・「命が尽きるまでフルスイングで生きる」 森永卓郎さんが明かした“目標”は「打倒イソップ」と「CDデビュー」)。

 写真で見る最近の森永氏は以前のふっくらとした顔が一変し、ガリガリに痩せて別人のように見える。それでもにっこりと笑う表情は明るく、今の人生の充実ぶりを思わせる。

 筆者は森永氏の著書の編集協力を一度だけしたことがある。「年収200万円でもたのしく暮らせます コロナ恐慌を生き抜く経済学」(PHP研究所)という書籍で、打ち合わせのために同氏の八丁堀駅近くにある仕事場を訪れたのは、コロナ禍にあった2020年4月7日のことだった。

 PHPの編集担当者にカメラマン、そして筆者は皆、大きなマスクをつけて感染に気を付けながらの話し合いとなった。その時のカメラマンが大きなボトルに入ったアルコール消毒液を何度も手にかけていたのを思い出す。

 初めて会う森永氏は有名な経済アナリストでありながら偉そうにしたところがなく、気さくな人柄はテレビで見る通りだった。無名のライターにも丁寧に接し、およそ書籍では使用しないであろう、自身の思いなどを丁寧に語ってくれた。一瞬だけ燃え上がった恋の話まで飛び出し、(今でも少年のような気持ちを持った人なのだろう)という印象を持った。

 その時の書籍は結構な売り上げだったようで、森永氏にとっても久々の増刷で上機嫌であったと後から聞かされた。少しでもお役に立てたのであれば、編集協力者としては本望である。

◾️2020年米大統領選トランプ敗北を的中

 「年収200万円で…」を読み返してみると、なかなかの内容。35の質問に森永氏が答える形になっているが、Q21は「米大統領戦の行方は?」であるが、その答えが「バブル崩壊により、トランプ敗戦は濃厚」というものであった。この時、トランプ大統領は2期目を目指していたが、現職の大統領が負けるというのは予想としてはかなり大胆。1992年にジョージ・H・W・ブッシュ大統領が、ビル・クリントン候補に敗れて以後は、クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、オバマとすべて2期目を勝っている。発売は2020年7月8日のため4か月後には選挙結果が明らかになるわけで、(外したら…と思わないのかな)と心配していたが、それは杞憂に終わった。

 「2020年初頭までほとんどの評論家が『トランプ大統領の再選は間違いない』と言っているようですが、私はそこで大きな流れに抵抗し『バブルが崩壊してトランプ大統領が負ける可能性は高い』と言い続けてきました。現実にその可能性がかなり出てきたように思います。」

 「アメリカ人がトランプ大統領を支持してきたのは、日本と異なりアメリカは老後の資金を預金ではなく株で運用することが多く、株高に誘導する政策を打ってくるからです。しかし、今回のバブル崩壊で「トランプ・バブル」は消え去りました。これにより、トランプ大統領の発言を懐疑的に捉えるようになった人は増えたと思います。」(以上、同書p150-151)

 こうした話は結果が全て。「お見事」と言うしかない。

◾️クルド人問題の予見も示す

 当時はピンと来なかったが、読み返してみると示唆に富む話がある。2025年の今、日本ではクルド人の問題が社会を騒がせている。2020年春の時点で森永氏はこの種の外国人問題の発生を予見していたのである。

 「…日本が新たな外国人問題を抱える懸念が残ります。かつてドイツも同じ課題に直面しました。1960年代の高度成長期、ドイツはトルコから大量の労働者を受け入れました。ところが…余剰な労働力となったトルコ人が母国に帰らなかったのです。トルコの労働者は、母国から結婚相手を呼び寄せて家庭を作ったため、ドイツで子どもを育てています。そのため、ドイツ生まれのトルコ人夫婦の子供は母国語が十分に話せません。…彼らは低賃金労働者層としていまでも社会に残っています。…以前から私は、外国人労働者の積極受け入れに対して警鐘を鳴らしてきましたが、そのつけがこれから回ってくると思います。それは差別という形で社会の分断をもたらすでしょう。」(同書 p108-109)

 クルド人もトルコからやってくるのは偶然なのかもしれないが、当時、森永氏は川口市に近い埼玉県南部に住んでいたため、意識の中にはあったのかもしれない。いずれにせよ、卓見と呼ぶに相応しい。

◾️ますますのご活躍を

 5日に公開された冒頭で紹介したデイリー新潮の記事では、寓話を書いているという話が紹介されているが、実は「年収200万円で…」での打ち合わせでもその話は出ていた。経済アナリストと寓話というミスマッチがユニークで本編に入れたかったが、編集部の考えに合わなかったのか、その部分は最終的にカットされた。

 当時の記録を読むと、森永氏は「童話作家になりたいと思っていまして、出版寸前まで行ったこともありますが、最終的にポシャります。悔しいじゃないですか。そこで数年前から私の新書のあとがきを全部、童話にしています。これで編集者の目に留まるかなと思って。○○新聞の連載も編集者の制止を聞かずに童話にしたことがあり、それで打ち切りになりました(笑)」と語っていた。

 どこまで本気なのか、当時は分からなかったが、最新のデイリー新潮の記事を読む限り大真面目で取り組んでいるようである。もう、ここまできたら、(納得いくまで書き続けてください)と言うしかない。

森永氏公式サイトから

 「正直言って、私は3ヵ月先に確実に命が続いているとまでは思っていない。どうなるかは運も大きいと思う。…だから、命が尽きるまでの期間は、つらいこと、苦しいことをせずに、自分が楽しいと思うことだけを思い切りやる。フルスイングで生きるのだ。」(前出のデイリー新潮・「命が尽きるまでフルスイングで生きる」 森永卓郎さんが明かした“目標”は「打倒イソップ」と「CDデビュー」)。

 生命の危機に遭いながら、遭っているからこそ、やり残したことがないように前を向き続ける森永氏の生き様には頭が下がる。人生に中において一度だけ接点をもたせていただいた人間として、今後の森永氏の健康を祈念すると同時に、ますますの活躍を期待したい。

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