セクハラ提訴 大内彩加氏に3つの疑問

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。

 劇作家・演出家の谷賢一氏(40)が11月24日、俳優の大内彩加氏(29)から損害賠償を求める訴えを提起された。性暴力を受けたことに対する慰謝料など550万円の支払いを求めるという内容。ネットでは谷氏への批判の声が湧き上がったが、谷氏は言われるようなことはしていないと自身のHPで表明。当事者及び関係者の話を総合すると、何か裏がありそうな事件である。

■自宅で力ずくで性行為された

大内彩加氏は谷氏を提訴(大内彩加 saika ouchiから)

 大内氏は12月15日に自身のHP(大内彩加の雑記置き場)で「全ての人たちへ」というタイトルの記事を公開。その中で劇団DULL-COLORED POP主宰谷賢一氏を提訴したことを明らかにした。その内容は以下。

・2018年6月から2021年3月まで「日常的に胸やお尻を触る」「卑猥な言葉をかけられる」「卑猥な内容のLINEが送られてくる」等の性加害を受けた。

 また、報道では以下のような行為もあったとされる。

・駅のホームで羽交い締めにされ胸をもまれた。

・性行為を強要されることもあった。

・LINEのやり取りで「大内くん、彼氏できたんだってね…。おめちゃんと報告しろよ……。勝手におっぱい触ってごめんね……また触っていいときあったら教えて下さい触りたいです……」というメッセージが送られた。(以上、日刊スポーツ電子版・劇作家谷賢一氏をセクハラ提訴の女優が会見、LINE内容明かす 谷氏側は「訴状届いてない」、2022年12月22日閲覧)

 さらに訴状には以下のような記載があるという。

・2018年7月、都内で飲酒後に「終電を逃したから家に行く」と言われ、自宅で力ずくで性行為をされた。(毎日新聞電子版・谷賢一さんから「性暴力受けた」 女性が実名で会見、2022年12月22日閲覧)

 本人が受けたとする被害で確認できるものは以上で、それ以外には、大内氏のHPで他の劇団員へのセクハラ、パワハラが記載されているが、おそらく訴訟とは関係のない部分であろう。

■第一報の15分後に記事を公開した俳優

 大内氏が記事を公開した直後に、俳優の宮地洸成氏が自身のHPに「DULL-COLORED POPを退団します」という記事を公開。谷氏によるセクハラ、パワハラがあったことを明らかにし、退団の理由としては「劇団主宰・谷賢一による性暴力及びハラスメントの件を受け、今後も劇団活動に参加するわけにはいかない、したくないと考えたからです。」と説明し、大内氏の当該記事のリンクも紹介している。

 大内氏が記事を公開したのが14時51分。その15分後の15時6分に宮地氏の記事が公開されており、2人が話し合ってアップしたと思われる。仮にそうでないとしても、宮地氏は大内氏の記事が公開されることを知っていたのは間違いない。

 一方、谷氏も反応は早く、同日、自身のHPで戦う姿勢を明らかにした。「彼女の文章は事実無根および悪意のある誇張に満ちており、受け入れられるものではありません。訴状が届いていないため起訴内容については確認できておりませんが、司法の場で争う所存です。」とした。もっとも、自身がパワハラやセクハラをしたことがある点は反省しているとしている(PLAYNOTE・本日公開された大内彩加さんの文章について、2022年12月22日閲覧)

 日付が変わって12月16日午前1時50分に劇団「青年団」を主宰する平田オリザ氏(57)がツイッターで同劇団の演出部に所属する谷賢一氏に対して退団措置を講じたことを明らかにした。青年団のHP上では「詳細は今後、司法の場で明らかになっていくかと思いますが、他の関係者の証言もあることから大筋の告発は事実であったと思われます。…谷氏は法廷で争うとのことですが、今後、青年団としては、被害に遭った方たちのお役に立てることがあれば支援をしていきたいと考えています。」と、完全に谷氏を「クロ」とする内容となっていた(青年団・谷賢一氏のハラスメント案件について、2022年12月22日閲覧)

 12月20日、大内氏はオンラインでの記者会見に臨んで、一連の谷氏の行為を批判。「人格を否定され尊厳を傷つけられた。名前を出さないと、もみ消されると思った」と、実名で会見した理由を語った。

■大内氏の主張に3つの疑問

 以上が事件の簡単なあらましである。ここまでネット上の反応を見ると、谷氏への批判が凄まじい。実際、本人が前述のHP上で「私は自分自身、全く聖人君子ではなく、非常に大きな問題を抱えた人物であると自覚しております。」「稽古場で怒号を飛ばしたこともありました。性的なハラスメントもあったと反省しています。」と、何らかのハラスメントをしていた事実を認めている部分、また、示されたLINEの内容などから、大内氏の言い分が正しく、相当悪質なハラスメントが行われたという想像をしている人が多いのであろう。

 少なくともハラスメントにあたるような行為はあったと思われる。ただし、それが550万円も損害賠償を請求されるような、犯罪と呼べるようなレベルであるかは分からない。

 今回の件で、大内氏の主張にはいくつかの疑問が残る。

①自宅で力ずくで性行為をされたのに、なぜ、刑事告訴をしないのか

②なぜ、訴状を示さないのか

③宮地氏と谷氏とともにハラスメント講習を受けていながら、なぜ、提訴したのか

 細かい点を挙げればキリはないが、上記3点については説明を求めたい。順に見ていこう。

①「自宅で力ずくで性行為をされた」とあるが、意に反して性行為、性交かそれに至らない行為かはひとまず措くとして、それをされたのであれば、強制性交罪(刑法177条、以下、同法)、あるいは強制わいせつ罪(176条)に問われる。損害賠償を求めるのはいいとして、同時に刑事告訴をすべきであろう。それが民事訴訟のみをしているのはなぜか。

 まず、考えられるのは、飲酒をして、終電を逃したからといって男性の部屋に行った(もしくは男性を家にあげた)場合、何らかの合意があったのでは、と思われても仕方がないということである。密室で行われた事案であれば、外部からは何が行われたのかは分からない。傷害を負っているなどの状況があった場合は格別、そうでなければ告訴をしても警察としては、簡単には告訴状を受理できない。

 ここで注目したいのは、平田オリザ氏が青年団のHPに掲載した意見である。一部をそのまま抜粋する。

 「このたび、劇団青年団演出部に所属する谷賢一氏がハラスメント案件で東京地方裁判所に告訴されました。」

 「法律上は推定無罪の原則もありますが、被害に遭われた方の心情をより重く考え、また告発文にはなく訴状には記されている情報も得ていることから…」

 まず、告訴(刑事訴訟法230条)は裁判所にするものではなく、捜査機関に対して行うものである。そして、推定無罪の原則は刑事裁判の原則であり、民事裁判ではそのような原則は無縁である。平田氏に法律の知識がほとんどないことは容易に想像がつくが、民事で提訴された案件で刑事事件の告訴、推定無罪の原則を持ち出したのは、あまりに不自然。平田氏は訴状を見ていることを明らかにしており、大内氏と谷氏のトラブルについては関わっていたのは間違いない。そうすると大内氏が刑事告訴を検討していて、その点で話をしていたが民事の提訴にとどまったことで、刑事と民事の区別がつかないまま、民事訴訟で刑事訴訟の制度や概念を持ち出してしまったのではないか。

 そうした点を考慮すると、関係者のコメントを見ていると、大内氏の告訴しようとした内容は、犯罪として立証するのが難しいと捜査機関に判断されたものだった可能性はある。

■訴状を公開しない理由を推理

谷賢一氏(同氏のPLAYNOTEから)

 ②の訴状を開示しない点も腑に落ちない。もし、自らの身に起きたことが真実であるなら、堂々と開示すればいい。ところが「訴状は自ら公開はいたしませんが、皆様ご自身で請求をすれば全文読めます。」とHPに書いている。(別に隠しているわけではありません)と言いたいのかもしれないが、東京地裁に閲覧を請求したくても事件番号が分からなければ、どの部に係属しているかも分からず、請求のしようがない。事実上、一般の人が見ることは不可能と言っていい。

 訴状を裁判所に請求して閲覧できることを知っている人は多くないと思われる。それを「請求すれば読める」と書いているということは、弁護士から「訴状は公開するな、請求すれば誰でも閲覧できる」とアドバイスがあったのは間違いない。

 実名を出して被害の公表に踏み切ったのだから堂々と公開して、谷氏の卑劣さを世に示せばいい。そのような合理性に欠くように思える不作為には、当然、理由があるはず。

 考えられるのは、訴状を公開した場合に、逆に名誉毀損で反訴提起される、あるいは刑事告訴されるリスクがあると、弁護士が判断したことである。実際、谷氏は前述のように「彼女の文章は事実無根および悪意のある誇張に満ちており」と自身のHPに記している。そして大内氏は刑事告訴していない(もしくは受理されなかった)。弁護士は訴状の内容が被告である谷氏が全面的に否定するであろうことを知っていて、「下手に公開すると、リスクがあります」と止めたという推論には一定の合理性があるように思う。

■講習を受けていた人を提訴

写真はイメージ

 ③が最も分からない。谷氏は、大内氏と宮地氏とともに講習を受けている。「今年の夏に一緒にリスペクトトレーニング講習を受けたり、ハラスメント講習を受けた上で、今後劇団としてどのような環境づくりをしていくか対応を協議していました。」とした上で、その理由についても説明している。「それも『劇団内で問題が起きたから』というきっかけではなく、演劇界で起きていた様々なハラスメント事件を他人事とせず、劇団として自分たちの対応をアップデートしていくための自発的な動きでした。」

 その後の大内氏と宮地氏の行動を見ると、講習を受ける時点で、谷氏と認識の違いがあったものと思われるが、それにしても、ハラスメント対策の講習を一緒に受けていた人に、いきなり法的措置をとるというのも理解に苦しむ。

 以上のような疑問点を考えると、ネット上の谷氏批判の声が圧倒的多数なのは違和感を覚える。そうした事件に関連して活動をしている人が一斉に谷氏批判(というより誹謗中傷)に走っているのかもしれない。もちろん、大内氏が主張していることが正しく、谷氏が虚偽を述べている可能性もある。

 いずれにせよ、司法の場で決着がつく話であり、その前に先入観で一方を攻撃するのは控えた方がいい。我々も、その程度のネットリテラシーは持ちたい。

    "セクハラ提訴 大内彩加氏に3つの疑問"に1件のコメントがあります

    1. BADチューニング より:

      ♪ 今日も また誰か
       世間の 晒し者
      (『新説SOS』作詞/作曲:岡林信康 歌:笑福亭鶴光 より)

      変な事が“利権”化して行く21世紀。

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