ALPS処理水に難癖 3種の風評加害者

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石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。

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 「ゴルディアスの結び目」という逸話がある。この名前の王が荷車と柱を結びつけ、「これをほどいたものは、アジアの王になる」と予言した。多くの人が試みたが、ほどいたものはいなかった。ところが、のちに世界を征服するアレクサンドロス大王が、剣でバッサリとそれを切断してしまった。思い切った実行が複雑な問題を解決する、そして実はその問題は大した内容ではないことを示す逸話だ。(元記事はwith ENERGY放出処理水に危険性なし-意図を持つデマに惑わされるな!

◆ゴルディアスの結び目

福島第一原発の処理水タンク(2017年、石井孝明撮影)

 以下述べる東京電力福島第一原子力発電所の処理水問題は、「断行」で解決できる単純な問題のように思える。まさに「ゴルディアスの結び目」だ。そして岸田政権はこれを断行した。「頼りない」と評価される岸田首相の英断であり、関係者に深い敬意を示したい。福島第一原発事故の収束のための貴重な第一歩だ。

 処理水について、東京電力は政府の方針に基づき、基準を下回る濃度に薄めた上で、24日午後1時ごろ、海への放出を始めた。放出の完了には30年程度という長期間が見込まれる。安全性は明らかなので、風評被害への対策が課題となる。

 立憲民主党や日本共産党など一部の日本の政治勢力、メディアのほか、中国、韓国、北朝鮮がその放出に反対している。韓国は政府が容認しているものの一部世論が騒ぎ、また中国政府が懸念を表明している。反対勢力はそれだけだ。これは中国の日本への外交的嫌がらせに過ぎないだろう。

 今年の放出は2021年4月に廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚会議で決定していた。そもそも2015年に、海洋放出の方針が打ち出されていた。世論に配慮したとはいえ、あまりにも実行が遅すぎる。

 問題を整理してみよう。騒ぎのばかばかしさがわかるはずだ。騒ぐ人たちは、実際の処理方法をよく知らないらしい。そのために、ここで健康被害の可能性がないことを確かめてみよう。以下のサイトを参考にした。(東京電力・もっと知りたい廃炉のこと

 同原発の構内には、高さ8mほどの貯水タンクが1000基立ち並ぶ。東電は費用を公開していないが、一基あたり建設に数億円かかるようだ。筆者は同原発を視察し、そのタンクが立ち並ぶ姿を見て、無駄遣いに悲しくなった。東電は事実上国営化されている。無駄な事故処理費用は、国民負担、そして東電の利用者の負担になる。

◆処理水は希釈して海に放出

 この処理水を意図的に「汚染水」と呼ぶ人がいるが、それは誤りだ。有害な放射性物質は全て取り除かれた水だ。

 東電は、放水のための設備を建設した。処理水は、沖合1kmの放水口から海水で希釈されて放出される。その希釈用の海水は発電所の港湾の外で取水される。陸上側から海底の岩盤中にトンネルを掘り進めており、そこから放出される。放出した水が再度希釈用の水として取水されにくいように、その距離を大きく離すという。ここまでの対策で、放射性物質による人体影響があるとは思えない。

 事故処理水はALPS(Advanced Liquid Processing System=多核種除去施設)で62種の放射性各種を取り除いている。国際的に認められた環境への放出基準を下回っており、放出の際にも再確認される。IAEA(International Atomic Energy Agency=国際原子力機関)も安全性を確認している。東京電力は包括的海洋モニタリングシステムで海洋への影響を公開するという。東電は処理水に関する情報を徹底的に公開する方針だ。今回、広報下手の日本政府が世界各国で広報を多言語で行っている(参照・包括的海域モニタリング閲覧システム)。

◆トリチウムの安全性

 ALPSは、放射性物質のトリチウムは取り除けない。ただ、この物質は普通の水などにも混じり、少量では影響がない。130万tの処理水で、純粋なトリチウムはわずか15cc分という。「福島の魚を一生食べ続けてもトリチウム摂取量はバナナひと口分」との指摘もある(Newsweek・「福島の魚を一生食べ続けてもトリチウム摂取量はバナナひと口分」──処理水放出、海外専門家の見方)。

 海水による希釈後のトリチウム濃度は1ℓ当たり1500ベクレル未満とする。この含有濃度にするために、現有の処理水をおおよそ100倍以上の海水で希釈する。またトリチウムは放射性物質であるが、水と分離させるのは困難とされる。これはWHO(World Health Organization=世界保健機構の基準である同1万ベクレルの約7分の1である。また、2年後からの処理水の放出では、年間トリチウム放出量は22兆ベクレルを下回るように調整される見通しである。

 原発ではトリチウムを排出する。隣の韓国の原発では、2018年の実績で、古里原発で50兆ベクレル、月城原発で25兆ベクレルを排出した。これは福島第一原発の処理水の予定を上回る。また中国と韓国を含めて、世界の原子力施設では年間に福島以上のトリチウムを排出している(エネ百科 きみと、未来と。・世界の原子力発電所等からのトリチウム年間排出量)。

◆対策費は800億円は無駄に思えるが…

 処理水について、東電がここまで対策をしているのに、国内外で安全性を懸念して騒ぐ人がなぜいるのか、私には理解できない。韓国や中国などは、日本を貶めるために言っているとしか思えない。

 国内では、事故直後の感情的な議論は落ち着き、大半の世論調査は処理水の海洋放出を容認する意見が多数だ。ところが、いまだにこの処理水に反対する人たちがいる。

 あらゆる社会問題には、その問題が解決しないことによって利益を得る人たちがいる。『「正しさ」の商人 情報災害を広める風評加害者は誰か』(徳間書店)という、福島問題を取り上げ続けてきたジャーナリスト林智裕さんの著作がある。それによれば、以下の3種の人が、福島の放射能問題で騒ぎを混乱させ続けた。私の見てきた福島事故をめぐる取材で抱いた印象も同じだ。

★政治闘争の手段として、反原発や政権批判などの政局づくりや、体制の脆弱化目的の情報工作を行う人がいた。

★経済的・社会的利益を得ようとして、災害と社会不安に便乗した売名、金銭や地位などを得る詐欺的な行為を行う人がいた。

★騒ぎで喜び、承認要求を得ようとして、自己顕示欲や逆転願望の発露、偏向した権威・派閥・コミュニティ内での保身的な踏み絵やポジショントーク、陰謀論などを展開する人がいた。

写真はイメージ

 こうした人たちは永遠に騒ぎ続けるだけだ。孤立させ、その発言を誰も真面目に受け取らない状況を作り出す必要があるだろう。そして、この処理水問題でも不必要な騒ぎは無視することだ。

 処理水対策費用は国の予算で800億円という。あまりにも漁業関係者の補償問題があるが、現在休業補償で、福島のかなりの金額が得られる状況にある。また補償を求める議員などが自民党にいるが、私はそれが正しい対応とは思えない。健康被害はあり得ないのだから、風評被害に反論し、無視するのが正しかったのではないかだけだ。

 日本的な金をばら撒く、あいまいな解決には少し異論があるが、状況は少し前に進んだ。福島県民、東電、日本政府を支え、この一歩を次の一歩に繋げたい。断行で状況を動かす。まさにアレクサンドロスとゴルディアスの結び目の問題だ。

※元記事は石井孝明氏のサイト「with ENERGY」で公開された「放出処理水に危険性なし-意図を持つデマに惑わされるな!」 タイトルをはじめ、一部表現を改めた部分があります。

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