原発60年超運転は当然 40年の根拠は希薄

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石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。

 原子力規制委員会は13日の臨時会合で原子力発電所の「60年超」運転を可能にする新たな規制ルールを正式決定した。これは当然の判断であり、世論の変な介入に惑わされず、粛々と決めたことを私は評価する。(元記事は&ENERGY・「原発、60年超運転は当然だ-規制は米国の下手な真似」)

◆規制委、原子炉運転延長認める法改正案を了承

北陸電力志賀原子力発電所(撮影・石井孝明)

 現行ルールは原子炉等規制法に規定されており、原発の運転期間は「原則40年、最長60年」となっている。

 新ルールでは、規制委が運転開始から30年以降10年以内ごとに安全性を確認し運転延長を繰り返し認可する仕組みで、「60年超」運転が可能になる。

 5 人の委員のうち、石渡明委員が「科学的知見に基づくものではない」と反対し、多数決で決まる事態になった。この発言はおかしい。

 そもそも石渡委員は、原子炉の専門家ではなく、岩石学・地質学の研究者だ。そして、この40年ルールというのは科学的に根拠があるルールではない。

◆40年寿命ルール、米国由来で科学的根拠なし

 福島第一原発事故の後で「古い原子炉は事故を起こすのではないか」という不安が日本に広がった。そのために2012年(平成24年)に改正された原子炉等規制法において、規制制度の全面見直しが行われた。民主党政権で全会派の協力した議員立法の形で規制制度が作られた。

 民主党政権らしく、この見直しは、事故を起こした当事者として経産省と電力会社を、排除した。そして全会一致というと聞こえはいいが、民主党議員の能力では完成は難しく、当時の野党の自民党も巻き込んで業務と責任を負わせようとしたと、私は観察していて思った。

 しかし、議員だけで原子力規制の法律を作れるわけはない。環境省や、東大の研究者にも調査を依頼しながら、事実上、米国の制度の多くをコピーした。そこでコピーした条文の中に40年の原子炉寿命条項があった。

 法案審議の時点で与野党の国会議員は「米国のコピーです」とは、恥ずかしいので言わなかった。しかし、法案提出者の田中和徳衆院議員は「40年という数字の設定は…やはり少し政治的な数字であろうと思っておりますし、科学的な知見だけに基づいて決定した数字でもないと思っております。」(環境委員会会議録第6号 平成24年6月18日【参議院】p28)と答弁したように、「科学的根拠はない」「政治的な数値」と認めている。

各国の原子炉の寿命のあり方

 米国もこの40年条項は、科学的な根拠あって決めたのではない。米国では税法・会計上、投資の償却期間を40年としているために設けられている。米国原子力委員会もHP上の法律・制度説明で、それを明言している。そして米国も、この制度があっても、40年以上の延長を頻繁に行なっているのだ。

 以下は2012年に衆議院に提出された各国の運転期間の一覧だが、どの国も時間にこだわっていない(法制定時の国会資料から。制度は同年時点、PSRとは定期安全レビュー(Periodic Safety Review)のことで10年ごとに施設の運転者による定期的な施設安全性の点検義務のこと)。

◆理想はリプレースも延長やむなし

 科学的根拠がないという石渡委員と、メディア、反原発派の人はこの経緯を知ってほしい。石渡委員は、地震を含む岩石学・地質学の専門家で原子炉の安全性の判定はできないはずだ。

 そして石渡委員はそれより、自分の仕事の遅れと失敗を猛省してほしい。自分の担当する地震の振動認定の問題で、北海道電力泊発電所などで、原子力規制委員会はまだ結論を出せず、審査を10年以上続けている。

 山中伸介原子力規制委員会委員長は「ある時点で安全基準が満たされているかを技術的にきちっと判断することに尽きる」と述べた。この意見の方が正しい。今後、規制委員会は適切な高経年炉の安全基準を作って、安全を確保した審査を行なってほしい。

 原発を訪れれば分かるが、古い原発でも、そのままのものは、炉と建屋の外壁程度だ。中の機材は最新のものに順次取り替えられている。

 原子炉の技術は進歩し、新しいほど安全性は高まっている。水での冷却を想定した70年代に計画された第1世代と呼ばれる福島の事故炉と違い、最新型の原発では緊急時に水以外の空気対流などによる緊急時の冷却ができる設備を備えるものもある。

 新型原発に置き換える方が、発電の効率、さらには安全性が高まる。原発はリプレース(置き換えによる新規建設)を中心にすべきだ。しかし、お金がかかる以上、使えるものは長く使ったほうが経費がかからず、経営的に仕方がないだろう。感情的に古い原発を使うことに抵抗があることは理解するが、建設に数千億円かかる以上、簡単には建設できない。

◆このままでは原発の発電比率は低減

 原発は、原子力規制委員会の発足以来、長期停止している。東日本を中心に10年以上停止している原発も多い。自民党と経済産業省は、規制委の安全審査による停止期間などを運転期間から除外する方針だ。これも認めるべきだろう。

 1970年代に建設された原子炉が今後、建設後60年経過することが増える。そして原子炉の新設やリプレースが遅れている。このままでは日本の発電で、原子力の比率が低減することは確実だ。2021年に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では、発電に占める原子力の割合目標は20-22%なのに、現状は6%程度。審査の長期化で、再稼働が遅れているためだ。

 現在のような電力危機、電力価格の高騰を抑制するために原子力発電を一定割合持ち、活用すべきである。さらに原子力発電は、二酸化炭素を排出しないために、気候変動を抑制する有効な手段である。

 そして、これを契機に、原子力規制の問題点の見直しを進めてほしい。原子力規制では、厳格規制と稚拙な行政で、原発の審査が遅れ、多くの原子炉で長期間停止している。

◆外国ルールを使って混乱

 原子力規制は、福島第一原発事故という、大失態をした。見直しは必要だった。しかし、その結果、米国式の規制を導入したら、日本の現状に合わず大混乱している。この「原子炉寿命40年ルール」もそうだ。米国の作った「日本国憲法」がおかしさだらけなのに、改正されずだらだら適用され続けている状況とよく似ている。

福島第1原発(2017年10月、石井孝明撮影)

 米国の原子力規制では原子力規制委員会と原子力規制庁が二分されている。事業者は、規制庁に規制が気に入らないと激しく反論し、すぐ行政訴訟する文化がある。これは他の私の知る米国の制度、例えば、航空とか、電波でも同じだ。そこで、規制現場で問題が起きると規制委員会が高い見地から裁定を下し、問題の多くは裁判に至らない形になる。

 ところが日本の電力業界は、お上に従い反論しない。行政訴訟も起こさない。規制現場の問題が修正されず、ずるずると審査が混乱し、長期化した。規制委員会も裁定ではなく、規制庁と一緒に原子力事業者を責め立てている。これが、非効率な審査の一因になっている。

 福島第一原発の事故の大混乱から10年経った。日本人は、独自の制度を作れないほど愚かではないはずだ。米国の下手なコピーである今の原子力制度を変え、自主国産ルールを作ることを検討していくべきだと思う。

 ※元記事は石井孝明氏のサイト「&ENERGY」に掲載された「原発、60年超運転は当然だ-規制は米国の下手な真似」 タイトルをはじめ、一部表現を改めた部分があります。

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