H3ロケット「中止」共同通信の誤報+捨て台詞

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松田 隆🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

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青山学院大学大学院法務研究科卒業。1985年から2014年まで日刊スポーツ新聞社に勤務。退職後にフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。
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 JAXAが2月17日、H3ロケットの打上げを直前になって中止した問題で、共同通信の記者の礼を失した対応が問題となっている。会見に臨んだ岡田匡史プロジェクトマネジャーに対して、打上げに失敗したのではないかと迫り、中止という説明に「それは一般に失敗と言います。ありがとうございまーす。」と捨て台詞を残した。果たして失敗か中止か。関連法規から考えれば間違いなく中止である。

■シズメ記者と岡田氏のやりとり

会見する岡田氏(JAXA Channel画面から)

 JAXA(宇宙航空研究開発機構)は17日午前に地球観測衛星「だいち3号」を搭載したH3ロケットを打ち上げる予定であったが、「第1段ロケットの主エンジンに着火後、制御装置が何らかの異常を検知。両脇の補助ロケットに着火信号が送られず、直前になって打ち上げが中止された。」(読売新聞オンライン・H3打ち上げ中止、JAXAが第1段ロケット中心に調査開始…電気系統のデータ解析へ)。

 同日夕方に岡田氏による記者会見が行われたが、そこで共同通信の記者とのやりとりがネット上で騒ぎになった。会見ではシズメという名前の記者であることが分かっており、ネット上では特定されているが、当サイトでは会見で明らかになった「シズメ」の表記とする。問題となったやり取りを抜粋する。

シズメ:…一般に意図的に止めるとか、計画を途中で意図してやめる時に中止と言います。…つまり、意図的なものではなくて止まっちゃったよということは、一般に言う失敗なんじゃないかと思うんですが、どうですか?

岡田:どうでしょうね。我々、こういった事象が時々ロケットにはあるんですけれども、その時に自分たちでこれを失敗と言ったことはありませんので…

シズメ:…皆さんの中では失敗と捉えてないけれども、失敗と呼ばれてしまうということも甘受せざるを得ないという状況なのでは…どうですか。

岡田:…我々このロケットというものは、基本、安全に止まる状態でいつも設計しているので、そういう設計の範囲の中でとまっている、つまり、…ある種想定している中の話なので、やっぱりそこに照らし合わせますと、失敗とは言い難いなっていう風に思います。

シズメ:分かりました。確認ですが、つまり、システムで対応できる範囲の異常だったんだけれども、考えていなかった異常が起きて打上げが止まった、こういうことでしょうか。

岡田:そうですね。その想定といいますか、ある種の異常を検知しましたら、止まるようなシステムの中で安全に、健全に止まっているという状況が今の状況です。

シズメ:分かりました。それは一般に失敗と言います。ありがとうございまーす

■失敗か中止か 法令に基づく判断

 岡田氏が丁寧に失敗と中止の違いを説明し、中止であるとしているのに、シズメ記者は一方的に「それは一般に失敗と言います」と説明を完全に無視して自らの結論を宣言している。何のために質問し、相手の説明を聞いたのか、多くの人が、あまりに礼を失すると感じたに違いない。

 果たして失敗か中止か。これは単純に日本語の問題のように思えるかもしれないが、ロケットの打上げは法令に基づいて実施されているのであるから、法律がどのように規定しているかを考えた上で失敗か中止かを判断すべきである。

 今回の打上げは、「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律」に基づいて実施されている。同法第2条で用語の定義がされている。

【人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(以下同法)】

第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

5 人工衛星等の打上げ 自ら又は他の者が管理し、及び運営する打上げ施設を用いて、人工衛星の打上げ用ロケットに人工衛星を搭載した上で、これを発射して加速し、一定の速度及び高度に達した時点で当該人工衛星を分離することをいう。

 今回のH3ロケットの打上げは冒頭で示したように人工衛星を搭載したロケットの打上げであるから、同法2条5号の「人工衛星等の打上げ」となるのはお分かりであろう。

■総理大臣が打上げ許可を出す条件

 さらに同法第6条で、打上げをする者(今回はJAXA)は総理大臣の許可を得なければならないとされ、総理が許可を出す基準が定められている。

第6条 内閣総理大臣は、第四条第一項の許可の申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。

1 人工衛星の打上げ用ロケットの設計が、人工衛星の打上げ用ロケットの飛行経路及び打上げ施設の周辺の安全を確保するための人工衛星の打上げ用ロケットの安全に関する基準として内閣府令で定める基準…に適合していること…。

 人工衛星の打上げる際には、飛行経路や打上げ施設の周辺の安全確保の基準をクリアしていなければ、打上げ許可はしないというのである。その基準は「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律施行規則」の中のロケットの安全基準で定められている。

人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律施行規則

第7条 法第六条第一号の内閣府令で定める基準は、次のとおりとする。

2 着火装置等の故障、誤作動又は誤操作…があっても、人工衛星の打上げ用ロケットの飛行経路及び打上げ施設の周辺の安全を確保することができる措置が講じられているものであること。

 今回の経緯は「第1段ロケットの主エンジンに着火後、制御装置が何らかの異常を検知」したことによって、「両脇の補助ロケットに着火信号が送られず」に発射されなかったということであるから、まさにこの着火装置等の故障、誤作動または誤操作があり、そこへ制御装置が正常に働いて着火を止めて打上げ施設の周辺の安全を確保したということである。総理が出した許可条件を満たしていたから、周辺の安全確保ができたのである。

■安全装置が作動して中止が妥当な評価

打上げは失敗ではない

 ここで同法2条5号の人工衛星等の打上げの用語の定義に戻る。「人工衛星の打上げ用ロケットに人工衛星を搭載した上で、これを発射して加速し…」とあり、今回は発射の前にシステムが作動して、これを止めた

 これを安全に止めるシステムがなければ総理大臣の許可はおりないが、安全維持のシステムは十分に備えていると総理大臣が認めたことで許可が得られ、それが本番で正常に作動することで打上げ施設周辺の安全が確保されたのである。

 法令で定められている基準が全て守られ、正常に作動した上での打上げの取りやめという1つのゴールに辿り着いているのであるから、これは失敗ではなく、安全装置が作動して中止されたというのが正確な評価であることに疑いはない。

 逆に失敗はどういう場合か。例えば、本来なら作動すべき安全維持のシステムが作動せず、両脇の補助ロケットに着火信号が送られ、その後、燃料漏れで機体が爆発し施設の周辺に大きな被害をもたらしたとあれば、間違いなく失敗。岡田氏はそれをシズメ記者にも分かるように丁寧に説明しているが、本人は聞く耳を持たなかったようである。

■シズメ記者に猛省を促す

47NEWSでは「失敗」と報じられている

 シズメ記者は失敗か中止かを判断する時に、ロケットの打上げがどのような法令に基づいているのかを全く考えていないのであろう。ロケットの打上げという法律とはあまり縁のなさそうな行為であっても、法令に基づいて行われる以上、それに対する評価は単なる日本語の問題ではないことぐらい気付いたらどうかと思う。

 シズメ記者が非常識な捨て台詞をしたのは、共同通信が会見の前に打上げを失敗と速報していることと無縁ではないと思われる(47NEWS・H3ロケット1号機発射「失敗」 固体ブースター着火せず)。

 主要メディアはほとんど中止と報じているが、失敗と報じた共同通信のシズメ記者としては「失敗」という見出し、報道が間違っていないとしたいのであろう。

 シズメ記者の行為は報道に携わる者全体の評価を貶めることになり、それは国民のメディアへの信頼性も失わせることになる。猛省を促したい。

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