原発への攻撃で日本壊滅のフィクション

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石井 孝明🇯🇵 @東京 Tokyo🇯🇵

経済・環境ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部卒、時事通信社記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長、アゴラ研究所の運営するエネルギー問題のサイトGEPRの編集担当を経て、ジャーナリストとエネルギー・経済問題を中心に執筆活動を行う。著書に「京都議定書は実現できるのかーC O2規制社会のゆくえ」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。

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 ウクライナ戦争で、日本では「原子力発電所は戦争で大丈夫なのか」という不安が出ており、また戦争による危険を強調する人たちがいる。そのために原子力発電をやめた方がいいのだろうか。私はそう思わない。仮に日本が戦争に巻き込まれても、原子炉が破壊され、放射性物質が拡散する可能性は、絶対にないとは言えないが、極端に低い。それより日本が今直面する停電やエネルギー価格高騰に備えた方がよい。(元記事は&ENERGY原発は戦争で壊れない-攻撃、破損のリスクは極少

◆ウクライナ戦争で原発への破壊を意図した攻撃なし

チェルノブイリ原発3号機の巨大な冷却装置(撮影・石井孝明)

 ウクライナ戦争で、原子力発電所はどうなったのか。ウクライナは戦争開始前に電力供給の約6割が原子力だった。同国は石炭以外のエネルギー資源に恵まれず、ロシアがガスと石油の供給を戦争前から締め上げたため、原子力発電への依存が高まった。同国には4カ所の原子力発電所がある。また1984年のソ連時代に大事故を起こしたチェルノブイリ(チョルノービル)原子力発電所は廃炉作業中だ。

 この戦争では開戦直後の22年3月にロシア軍が南部のサポリージャ原子力発電所を占領した。ここは90万kWの原子炉6基があり、欧州最大の発電能力だ。占領の際に戦闘が起こり、火災が発生した。しかし、原子炉の破損はなかった。国際原子力機関(IAEA)は毎日、同国の原子炉の状況を報告している。現時点(12月15日)では、同発電所をロシア軍が占領しているが、構内の原子炉は発電を続け、さらに一部をロシア占領地域に送電しているという。

事故を起こしたチェルノブイリ4号機(2014年11月撮影・石井孝明)

 ロシア占領後も同原発には攻撃があり、双方が非難をしたが、IAEAはどちらによるものかの結論については出していない。チェルノブイリ原子力発電所は、22年2月24日にロシア軍が占領し、3月31日に撤退した。その際に、放射性物質の一部を持ち去ったが、施設の破壊はなかった。その他3つの原子力発電所へは本格的な攻撃はない。IAEAはこれら3発電所とチョルノービル(チェルノブイリ)に、査察官を12月から常駐させる。

 ただし、ロシア軍は秋から、ウクライナの電力インフラを攻撃している。冬の生活を厳しくさせるためだろう。戦争中のウクライナでは原子力発電所の活用を続けている。ロシアが電力のインフラを壊し、ガスなどエネルギー源を禁輸する中で、電源として頼らざるを得ないためだ。またロシア軍が原子力発電所を破壊する可能性が低いことを分かっているためだ。

◆原子力発電所の攻撃に合理的理由なし

 つまりロシアは、ウクライナ戦争で、原子力発電所を破壊する行動はしていない。国際法を調べると、1977年の「ジュネーブ条約に追加される国際武力紛争の犠牲者の保護に関する議定書」によって、原発の攻撃禁止は明示されている。

【1949年ジュネーヴ条約第二追加議定書(非国際武力紛争)】

第15条(危険な力を内蔵する工作物及び施設の保護)

危険な力を内蔵する工作物及び施設、すなわち、ダム、堤防及び原子力発電所は、これらの物が軍事目標である場合であっても、これらを攻撃することが危険な力の放出を引き起こし、その結果文民たる住民の間に重大な損失をもたらすときは、攻撃の対象としてはならない。(国際条約集2015年版 編集代表・奥脇直也、岩沢雄司 有斐閣 p788)

 もちろん戦時に守られる保障はないものの、攻撃抑止の理由の一つになっているだろう。放射能汚染は、その地域全体に悪影響を与え、侵略軍も健康被害に直面する可能性がある。それを実行する合理的な理由がないためだ。

 日本の仮想敵国である、ロシア、中国、北朝鮮、テロリストが日本の28基の原子力発電所を攻撃するかもしれない。しかしロシアと同じように、その影響の大きさから、破壊をためらう可能性が高い。

◆原子炉の堅牢さ

 また、原子力発電所は攻撃しづらい。その重要部分の原子炉とその入る圧力容器の大きさは、事故を起こした東京電力福島第一原発第1号炉(1971年運転開始)で、高さ約15m、直径4.7mだ。大きいものではない。

 その圧力容器は格納容器で覆われ、さらに建屋の中にある。圧力容器も格納容器も厚さ2m程度の鉄筋コンクリートで作られている。外部からの攻撃でこれらの何重にも作られた壁を壊すことは難しい。大型飛行機の突入や単発の通常弾頭のミサイル、砲撃程度なら破損の可能性は少ない。

 日本の原子力規制委員会は2013年に定めた新規制基準で、航空機が突入した場合の対応を求めている。またテロリストが突入した場合に、運転員が逃げこめて、原子力発電所を制御できる「特別重要施設」の建設を求めている。現在、特重施設は、各原発で建設中だ。

 日本の行政も対策をしている。海上保安庁が原子力発電所を海から巡視船で警戒している。原発の立地する自治体警察には機動隊の中に小隊規模(数十名)の原子力関連施設警戒隊が置かれ、隊員は短機関銃MP5を持つ重武装をしている。日本には、自衛隊の中央即応集団、また警察のSAT、海上保安庁SSTなど、重武装の犯罪者、テロなどに対応する特殊部隊がある。各原発はそれと連携している。

 ミサイルとしては数百キロの短めの射程で、ピンポイントで狙える巡航ミサイルを、中国、ロシアは保有している。それを使う可能性はあるが、数発では原子炉の破損は難しい。

 また両国、北朝鮮は、広範囲の地域を破壊できる核弾頭を搭載できるミサイルも保有している。それを原発周辺部に打ち込むことはできる。しかし原発は人口密集地から離れて作られており、日本人を大量殺戮するという意図を持って攻撃する場合に、そこを攻撃はしないだろう。大都市への攻撃をするはずだ。

 こうした状況を見ると、ウクライナ戦争でのロシアと同様に、日本を侵略する国は積極的に原子炉を攻撃、破壊する可能性は少ないと思われる。合理的理由がないためだ。

◆日本のリスクは電力不足と価格高騰

原発反対派の反応は過剰か?

 日本で、原子力反対派は戦争リスクを過剰に騒いでいる。そうした政治団体や政党は、エネルギー問題で「原発再稼働」の機運が高まっているために、意図的に「戦争と原発」を強調し、恐怖を広げようとしているように思える。

 原子力の戦争でのリスクを考えるよりも、今の日本は原子力を活用しないことによる電力不足とエネルギー価格の高騰に直面している。起こる可能性の少ないことを憂うより、原子力活用を検討して、国民生活と産業界の負担を減らすべきだと思う。

※元記事は石井孝明氏のサイト「&ENERGY」に掲載された「原発は戦争で壊れない-攻撃、破損のリスクは極少」 タイトルをはじめ、一部表現を改めた部分があります。

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