フィリピン人の悲劇 廊下に8秒で罰金36万円
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
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■強制だけではない隔離措置 移動補助、待機補助
入国者に対しては、台湾は日本と比べ強制力を以て対応していると思われるかもしれません。調べていくにつれ、私もそのように感じました。ただ台湾政府は強制隔離者に補償や優遇措置で対応をしています。これは自由を制約する代償と言っていいでしょう。代償ではなく、もっと強い鞭を与えるのが中国共産党で、香港にウイグ…と、その話は機会があれば。
まず帰国者は空港から滞在先までの移動手段として公共交通機関を用いることが禁じられています。その替わり「防疫タクシー」を利用することができます。このタクシーは政府指定の帰国者専用タクシーで、乗客は最大でも利用運賃1000元(約3600円)までとなっています。日本では帰国者に対し公共交通機関を使用しないよう「お願い」し、宿泊ホテルまでは専用バスを出す等対応しています。
しかし自宅待機者の場合、空港から自宅までの移動は自家用車又はレンタカーやタクシーを使用せざるを得ません。レンタカー利用でも少なくない出費になりますし、ましてやタクシー利用の場合相当の費用がかかります。
日本政府は自宅への移動に対して台湾のような優遇措置をとっていません。実際私の友人も複数人が日本への一時帰国を検討していましたが、免許証を持たない等空港からの移動手段をタクシー利用にせざるを得ず、金銭的な面で断念しています。そのうち一人は岡山にいる実家の両親の身を案じて帰国したいのだが 関西空港~岡山への移動にはタクシーに乗らざるを得ず、「帰るに帰れない」と嘆いていました。
ところでこの防疫タクシーですが、最近あるタクシー運転手さんから聞いた話です。防疫タクシーを走らせている同僚が空港で乗せた男性、彼の自宅は何と台湾南東部の街「台東」。桃園空港から台東まで実に470kmの距離、これは日本の東京~京都間に相当します。わずか1000元でこの距離、しかし7時間の乗車。乗客にとって「お得」とは言い切れない時間と距離です。この同僚は往復14時間の運転に疲労困憊、「次からは断る」と決意したそうです。
そして防疫ホテルや自宅到着後14日間の検疫期間に対しても補助金が支給されます。中央政府からは1日1000元(およそ日本円3600円)合計14日間の防疫補助金が、さらに各地方自治体からも補償金が支給されます。例えば台北市民の場合ですと市から一人あたり1日最高500元(約1800円)、合計14日間の補助金が出ます(衛生福利部疾病管制署 「防疫補償金可在2年內申請」、台北市政府 「台北市居家隔離居家檢疫者補助」)。
以上のように、台湾への帰国には政府からの強制力が伴う反面、当の隔離者に対する補償もしっかりとなされているわけです。
■物的・精神的に支える里長の存在
私の知人は「14日間の自宅検疫中、里長が毎日欠かさず連絡をくれたので辛さや孤独を感じることはなかった」と言います。「里」は台湾の末端行政区分の一つで、半径500m~1kmの大きさです。「里長」は選挙で選ばれる公職で、里内住民の生活上の相談事に対し提案・連絡・解決をする役割を持っています。
私の居住区域にある里長オフィスは多目的ルームを備えており、毎日お茶や体操レッスンが無料で開かれています。そして月に一回里長主催の観光バスによる日帰りツアーも催されており、里の住民は誰でも参加することができます。このように里長は住民との距離感が非常に近く、地元コミュニティでとても頼りにされる存在です。
そして各地の里長が、自宅での検疫を余儀なくされている人にとって物的・精神的な支えとなっています。里長は外交部より送られてくる自宅検疫対象者リストをもとに毎日2回定時に検疫者に電話連絡を取り、健康状態の確認や必要な物がないかを尋ねます。単身者の場合には食事を届けたりするところもあります(中央廣播電台 2020年4月5日)。
知人の場合は自宅検疫初日に里長がマスクや温度計、ゴミ袋や缶詰等の差し入れを届けてくれたそうです。里長の定時連絡には検疫者への監視もあるのでしょうが、上述の知人は「里長の声がけで心的に助かった」と里長に感謝を示していました。
■台湾の防疫、厳しさと優しさときめ細かやかさ
厳しい防疫体制を敷きウイルスの侵入を防ぐとともに、自由を制約する代わりに補償はしっかりと行います。そして、里長を通じた人間対人間、有機的とも言える対策と、台湾の防疫体制は素晴らしいと思います。
国の規模が違い、さらに個人の権利の制約が難しい日本がすぐに同じことができるかと言えば、それは無理でしょう。それを割り引いても、台湾の防疫体制はすごいの一言だと感じさせられます。
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