マンゴー有情とワクチン接種進む台湾
葛西 健二🇯🇵 @台北 Taipei🇹🇼
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台湾では日本から提供されたワクチンの接種が開始、死亡者が出た事案が報じられたものの接種率は上昇しています。しかし、南部でデルタ株のクラスターが発生するなど、予断を許さない状況が続きます。風評被害も出る中、人々は助け合いの精神で苦境を乗り越えようと懸命に努力しています。同時にワクチンへの渇望感も再び高まってきています。
■進むワクチン大規模接種
台湾では6月15日からワクチン大規模接種事業が始まりました。しかし開始初期にマスコミを中心にアストラゼネカ製ワクチン接種後の死亡事例が盛んに報じられたことを受け、高齢者の接種控えが起きたことで一時接種率が低下する事態となりました (参照:ワクチン接種後に死亡 台湾の反応)。
これを受け中央感染症指揮センターの陳時中衛生福利部部長は、このような「思わしくない」とされる事案が報じられると人々の間に懸念が湧くことで「疫苗猶疑期 (ワクチン接種の躊躇期)」が出現するものであるとして、国民に対し「ワクチン接種は個人の感染防止だけでなく集団としての免疫力を持ち感染拡大を防ぐことにつながる」と呼びかけました。
また、6月29日の中央感染症指揮センターの定例会見では、ワクチン接種後の死亡案件についての現段階での調査結果として44例中33例で慢性疾患との関連が確認されたことを明らかにしています (中央感染症指揮センター定例会見 2021年6月29日)。
マスコミによる死亡事案喧伝も下火となったことや、人々がヒステリーを起こさず冷静に対応した結果、落ち込んだ接種率は6月第5週から再び上昇。6 月29日の時点で196万2990人が1回目の接種完了(うちアストラゼネカ製ワクチン接種は183万2559人)、3万9687人が2回目の接種完了(全てアストラゼネカ製ワクチン)、接種者は総人口の8.2%に達しました(中央感染症指揮センター 2021年6月29日 ワクチン統計資料)。
■新規感染者数減少も南部でデルタ株確認
台湾国内の新型コロナ新規感染者数は、厳格な行動制限措置やクラスター発生地域への迅速なPCR検査とワクチン接種措置等により55人という低水準にまで減少しました(6月30日)。一方、ペルーからの帰国者に端を発するクラスターが台湾南部屏東県枋山郷で発生。6月26日の時点で12人が感染力の強いデルタ株に感染していることが確認されています(中央感染症指揮センター 2021年6月26日発表)。
政府はクラスターが発生した枋山郷善余村及び楓港村の全ての商店に対し3日間の営業停止を決定。当該地域住民に対する厳格な行動制限措置を行い、並行して両地域住民約2000人に対するPCR検査と1200回分のワクチン接種を開始し、デルタ株の感染拡大防止にあたっています。
6月27日からは入境者の在宅検疫禁止、指定検疫施設への14日間の強制入所を決定、デルタ株の侵入に対する警戒が強められています。
■マンゴー産地の風評被害に支援の動き 情に厚い台湾の人々
屏東県枋山郷はマンゴーの産地として知られ、台湾最高級と言われる「愛文マンゴー」は、日本をはじめ海外へ輸出されています。収穫時期は5月から8月、まさに今が食べ頃です。しかし上述のデルタ株のクラスター発生によって、当地のマンゴー農家が思わぬ被害を受けています。ネットを中心に「枋山愛文芒果有病毒 (枋山の愛文マンゴーにはウィルスがついている)」という根拠のない噂が流れ、注文キャンセルが相次いだのです。
枋山郷のマンゴー農家では出荷数が通常の20%にまで落ち込み、「已經汙名化了嘛,你叫我們怎麼生活 (悪いイメージがついてしまった、どうやって生きていけばいい)」と悲嘆の声が挙がっていました(TVBS新聞 2021年6月27日 YouTubeチャンネル)。
行政院農業委員会は6月27日に「全球目前並未有因蔬果及包裝而染疫的案例發生 (現時点で青果や包装から感染した例は世界のどこにもない)」とし、消費者に安心して購入するよう呼びかけました(行政院農業委員会 2021年6月27日公報)。
枋山郷農家の苦境を知った人々から支援の動きが起きました。芸能人や有名歌手など著名人による枋山産愛文マンゴー購入呼びかけや一般消費者や企業からの大量の注文により、枋山地区農会の公式サイト上で販売の枋山産愛文マンゴーはわずか1日で完売しました(枋山地区農会 2021年6月29日発表)。
私の妻も会社の同僚達と5箱を購入したということです。私のマンションの住民も支援に参加したようで、本日(6月30日)枋山地区農会から発送された愛文マンゴーが管理人室前に置かれていました。売上減少が瞬く間に増加に転じた今回の件は、台湾の人々の情の厚さがまさに「実を結んだ」ものと言えるでしょう。
なお、屏東県地方検察は伝染病防止法と新型コロナウイルスに関する特別条例に基づき、この噂の発信・拡散源に関する捜査を開始したということです(中央通訊社 2021年6月28日)。台湾では新型コロナウイルスに関する偽情報を発信・拡散した場合3年以下の懲役または300万元(約1200万円)の罰金が科せられるため、デマを流した者は厳しい処罰を受ける可能性があります。
■ワクチン求めキャンセル待ち殺到 開始後1秒以内に登録枠埋まる
順調に進められている台湾全土のワクチン接種ですが、直前キャンセルなどでワクチンが余る地域も出てきたことから、6月26日からはキャンセル待ちの登録ができるようになりました。18歳以上であれば申し込み可ということもあり、26日午前8時のオンラインによる登録開始時には各自治体に申し込みが殺到、新竹県竹北市では開始1秒以内に登録枠50名が埋まったということです(MirrorMedia 2021年6月26日)。
キャンセル待ち故に接種日時が不明、かつ接種可能の連絡を受けた場合は30分以内に指定接種会場への到着が求められるという条件にもかかわらず各地で登録希望者が殺到したということから、人々のワクチン切望感が伝わってきます。
7月初旬からはアメリカ提供のモデルナ製ワクチンの接種も開始されます。台湾国内の接種人数は着実に増加していくでしょう。ただ陳時中衛生福利部部長は6月30日の中央感染症指揮センター定例会見で、10月末までに人口の6割が1回目の接種を終えることが目標と発言しており、全ての人にワクチン接種が行き渡るにはかなりの時間を要しそうです。感染の再拡大に対する不安もあり、ワクチン接種を求める声が日増しに高まっています。
■日本からの追加供与は7月中旬予定
そのような状況で、日本の茂木敏充外相は6月25日に台湾に約100万回分の追加供与を発表、7月中旬までに供与することになりました。中国政府は日本のワクチン供与を「政治的パフォーマンス」と酷評しましたが、そう考える台湾の人々はほとんどいないのではないでしょうか。
確かに2度目の提供は最初の時ほどの大きな騒ぎにはならないかもしれません。しかし、政治的パフォーマンスではないから、相手の反応に関係なく継続的な支援になるわけです。言うまでもなく、それは人道的見地と、日台間の友情に基づくものと言っていいでしょう。
外交を利害関係でしか語れない国があるとしたら、残念と言うしかありません。そういう国の人々には、近年の日台関係を見て様々なことを感じていただきたいと思います。
葛西様。心温まるお話を、また書いていただきありがとうございます。
マンゴーのお話を聞いて、さすがは日本の親友台湾だなと、改めて、台湾との絆を大切にしたいと感じました。
「外交を利害関係でしか語れないという国があるとしたら残念と言うしかありません」おっしゃる通りですね。国と国との関係も、人間関係と同じ。利害関係だけではなく、心の触れ合いだってある筈です。それがわからない国ならば、関係を持てなくて結構。わかる国との絆を大切にしたいと、改めて実感しました。
ありがとうございました。
名無しの子様
日本と近い道徳観を有する隣国があるというのは
幸せなことだと思います。
ワクチン接種後の死亡例について、台湾の人達は冷静に対応しているのが羨ましい。
日本じゃ未だにTwitter上で「ファイザーとモデルナの人体実験」だとかヌかす輩が後を絶たない。挙げ句「国産を待つ」とか言っていた人間が今じゃ「シオノギも信用ならない」だ。自然医療とかいうエセ医師がデマをバラまいている始末。多分この人らは東京五輪が終わるまで叫び続けて、終わったら接種会場に殺到するんだろう。
台湾の人達のほうが旧き佳き日本人の気質を受け継いでいるように思える。情けない限りだ。
名無しさんだよ全員集合様
集団接種による免疫確保が
再課題であることを皆が理解しているのが大きいと思います。